最強はアップデートを楽しむ⑮
年末年始の気分が抜けきらない内に、社会は動き出し……長い休みの学生以外が、嫌々ながらに仕事へ向かうようになるのに合わせ、ゲームでも定期メンテナンスが入った。
今回の定期メンテナンスでは、いつもより少しだけ長めの時間が指定されている。公式に書かれていた理由は、イベント終了につきその作業とトーナメント戦の勝利者選定の為となっていた。
イベント終了は予定通りだ。今回のイベントで私が狙っていた武器も各四本ずつだが仕入れる事ができた。強化は正直この本数じゃ対して出来ないだろうと諦めている。
それでも、アイテムを持ちたい欲求のまま選択した。
・刀のスキル書 六段突き アイテム5000個
・ビック ウルフ(騎乗用) アイテム7500個
・妖刀 キエンセッキ アイテム 25000個 ×4
・妖刀 ハキセッカ アイテム 25000個 ×4
残り2517個は、転写用の羊皮紙に……。
二週間しかないイベント期間で、よくここまで集めた。そう自分自身を褒めたくなるほどの出来だった。
新しいスキル書は、昨日の内に覚え試した。結果を言えば、ゴミスキル……。こんなもの取るぐらいなら、全部転写用の羊皮紙にすればよかった! そう思えるほど使えないスキルだった。
スキル発動と同時に、二本の刀が対戦相手の肩、腰、膝の六ヶ所を突く。突く度にショックボルトに良く似た電気っぽいエフェクトが上がり相手を痺れさせる。時間にして10秒、ダメージは100程度しかでない。黒に付き合って貰い試した結果がこれだ。
ビックウルフに関しては、良い買い物が出来たと思いたい。
見た目、黒に近いグレーの大きな狼で毛は短い。ワンポイントは、手足が白っぽいのが特徴的だ。速度的には、私たちが走るよりも早いので今後移動にはこの子を使う。
名前をつけてあげたいとは思っているけれど……散々ネーミングセンスが……とか言われたので、誰かに考えて貰おうと思っている。
刀についてはいつか、どこかでドロップするようになるかもしれないのでそれまで、倉庫で暖めておくつもりだ。妖刀とつくので、なにかしらスキルがありそうだけど……今は我慢しておく。
そして、トーナメント戦の勝利者選定ってことは、既にトーナメント戦が本格的にアップされてからひと月が過ぎたと言う事だ。二週目にカチ遭った偽物の件が解決して以降、私たちもまたクランポイントの為に精力的にトーナメント戦には参加していた。
公式を見る限り勝利者というのは、ひと月毎に累計ポイントの合計と戦績が多い順に五人が選ばれる。一位以外は基本的にポイントが多く貰え、各城下町のボードにそれぞれの名前が記され程度だ。
上位十人には、それぞれに順位に見合ったポイントが分配される。
一位 5000 p
二位 3000 p
三位 2500 p
四位 1500 p
五位 1000 p
それを足した合計ポイントの10%がクランの貢献度=ポイントになる。と書かれていた。私が獲得できたのは、1786ポイント。
一位であれば、+5000ポイントなので6786ポイントになる。
10%がクランポイントとして適用されるので678ポイントがクランポイントになると言うわけだ。
ま、一位かどうかは微妙なのでログインしてからだけど……。
思考を繰り返している内にメンテナンス終了時刻が過ぎ、ゲームにログインする。
ログインすると同時に、クラチャに挨拶を流すもまだ誰も来ていないようだった。なので、さくっとまずはやりたい事をやってしまう。
まず向かったのは、自分の露店だ。お客さんは今の所いないが、狼の女の子が店の中でアクセクと働いている。その動きが可愛くてついつい、頭を撫でてしまうのは仕方が無い事。
ひとしきり彼女を撫で終え、補充用の魔法書を彼女に渡す。
無事クラン費からの借金を返済したとはいえ、現在の倉庫内資産200Mでは心もとないし、貧乏なのに変わりは無い。欲しい物が買えないのは痛いと考えここ数日、寝る前の数時間を魔法書制作に充てていた。
売りだすのは、サンダー スピア・トルネード・ファイアー ウォール・ブリザードだ。サブ職業をやっている人が多い事を考え、三次職の魔法と二次職の魔法をそれぞれ十冊ずつ入れておく。
他にも、フリーザーやアンディーシブなども入れる。これはトーナメント戦以後、かなりの勢いで売れるようになったものだ。
一通りの在庫確認と補充を済ませ、売上金を倉庫に転送して露店を後にする。
次に向かうのもまた露店だが、こちらはお客さんでにぎわっていた。クラン用の――何度見ても店にしか見えない露店だ。
店の前に詰まれた見切り品の箱は相変わらずで、流石に売れる前に補充されてしまう為か一向に売れている気配がない。
いい加減拾って来るのを止めろと言うべきか悩む所。これ以上増えるようであれば、一度本気で話し合いが必要になるだろう。
原因はキヨシなんだけど……止めろと言った所で止めないだろうけどね。
それはそれとして、店内の補充状況を確認する。やっぱりと言うか案の定売れ筋は、経験値のスクロールだ。それから魔法書、スキル書の類が良く売れている。
試しにおいたヒガキさんのコーヒーなどもついでに買っていくプレイヤーが多いようで、うちとしてはかなりありがたい。
彼の作るものは美味しいから売れない訳がないんだけどね!
ヒガキさんにはクラン倉庫の在庫を確認次第、発注した方が良さそうである事を確認してクランハウスへ戻る。
戻ったクランハウスで執事に話しかけ、クラン倉庫の中を見れば魔法書の在庫とヒガキさんの軽食類、飲み物系が少ない。彼がログインしたら伝える事を忘れないよう脳内で保存して、クラン費を見た。
総額が8Gを超えている。これなら、クランハウスの増築は出来そうだ。今度の会議で議題に上げよう。
狩りに行きたいところだけど、今は経験値スクロールの量産をしておこう。いつも通り、自室の机の上に必要なスクロールの羊皮紙類を取り出し、転写を開始した。
キリ良く終わった所で顔を上げた。どうやら集中している内に、クラメン達が続々ログインして来た。
[[風牙] ノ]
[[ティタ] やっぱ負けた―! カッキー強すぎw]
[[キヨシ] さゆ一位じゃんw]
[[黒龍] トーナメントの順位見たか?w]
[[さゆたん] 休み明けの仕事だるいでしゅw 一位?]
[[ゼン] こんです。ほぼ知ってる名前ばっかりでしたw]
[[ヒガキ] こんばんわ~]
[[ミツルギ] こんっす! 宗乃助さん一位っすよ!]
[[ren] ノ]
[[白聖] 先生今日から出張で、一週間いないってさw]
[[宮様] ノン]
[[宗乃助] おぉ! 見に行くでござるよw]
[[源次] くそ! 敵がクラメンってやり難いなw]
[[大和] おー。黒一位~!]
白の言葉にそう言えばと思いだす、先生今日からいないんだった。うちの唯一の良心がいない。宮ネェと私だけで果たしてこいつらを抑えられるのかと聞かれれば、私も宮ネェも即答で無理だ!と答える。
トーナメント戦の順位の確認に行ってない事を思い出し急いで向かう。街までの転送を頼むついでに執事に、出来たばかりのスクロールを預けた。
ヘラの街に移動して、大神殿の近くに立てつけられた掲示板を覗き込む。そこには大きく【 トーナメント 勝利者 結果発表!】 と書かれた紙が張り出され、盾から順に職ごとに一位から五位までの名前が羅列されていた。
バッファーと書かれた場所を発見し、一位をみれば自分の名前が書かれている。無事に一位に成れていた事に安堵しつつ、報酬である勝利者のリングをトーナメントNPCから受け取った。
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勝利者のリング
トーナメント戦優勝者に贈られる特別な指輪。
指輪をつけている間、栄光の光に包まれる。
攻撃速度上昇 3%
魔法詠唱速度上昇 3%
移動速度上昇 3%
全属性耐性上昇 3%
解毒効果を付与
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中々に凄い性能だ。早速、貰った指輪をつけた。 栄光の光に包まれると言う文脈から、ただの文章だと思ったのに……実際は、自分の身体がギラギラした光に包まれ、そこにいるだけで目立つようなものだった。
この仕様は頂けない……。そう思った私は、そっと指輪を外すのだった。
足を運んで頂きありがとうございます。




