最強は壊滅を齎す⑯
ロゼの声が響き、カウントが0になると同時に黒がカリエンテにヘイトが届くギリギリまで距離を開けてヘイトを発動させた。
カリエンテの頭上にボッと火が一瞬灯ったようなエフェクトが立ち上り、カリエンテがその獰猛な瞳を覆っていた瞼を開く。
長い首をもたげたカリエンテが上唇に当たる部分を微かに動かし、鋭利に尖った牙を見せた。
そこで再び黒がヘイトを入れ、こちらに向かい走り出した。
それに答えるよう翼を広げ四本の足で立ち上がったカリエンテが尻尾を打ちつけ、轟音にも似た足音を上げながら黒を追う。
遠目にそれを眺めた私は、その対比に映画のジュ○シックパークを思い出してしまった程に迫力のある姿だった。
こちらに走りながら黒が振り返りつつ、ヘイトを何度か使い窪みに入り込んだ。
カリエンテに黒がヘイトを入れてから、時間にして約30秒ぐらいの出来事だったのだが嫌に鮮明に見えた。
黒を追いかけ中央から隅へ誘いこまれたカリエンテに対し、黒が何度か右手に持った剣を使い斬り付け攻撃を加えタゲの固定をはかる。
攻撃をしかけながらもヘイトを入れつつ、一分ほどタイマン状態が続いた。
黒がタゲを奪っている間中、回復である宮ネェとチカは必死に回復を飛ばす。
カリエンテが爪で黒を殴れば、黒のHPが七割減るのだ。必死になる気持ちも分かる。
同情にも似た視線を向けた私を余所に、ロゼが総攻撃の指示を出した。
『攻撃開始! 第一はタゲ飛びやすい。
回復死んだPTは、攻撃停止してすぐPTチャで連絡くれ!』
カリエンテとの戦闘開始と同時、まずはバフを三分おきにずらした。これで、一気にMPがきつくなる事は無い。
それと同時に、宮ネェ・チカの周囲にMPPOTを複数個ずつまとめ撒いておく。これはPOTが無くなった場合の予備として、使うためのもの。
今の消費量から行けば足りなくなるのは間違いないだろうと判断しての行動だった。
[[大次郎先生] 私……黒のHP見てるの怖いw]
[[黒龍] これはいてーわw]
[[ティタ] ren~。HPPOT撒いて欲しい~!
すぐ、無くなりそう……]
[[風牙] しかし、でかいw]
[[宗乃助] 倒しがいのある相手でござるよw]
[[村雨] 修行じゃあああああああ!]
[[ren] k]
[[さゆたん] これ、HP一ミリも減ってないでしゅw]
[[源次] 尻尾いてーw]
[[†元親†] いやぁぁぁぁぁ!]
[[大和] 減らないね……]
[[卑弥子] やる気MAXだわねw]
[[ゼン] なんか、ゴジラとかを生で見てる気分です……]
[[キヅナ] 相変わらずなのなw]
[[ライガー] 我も尻尾が痛いにゃ!]
[[白聖] 武器抜くと村雨の豹変度合いが酷いww]
[[キヨシ] いくぜいくぜいくぜー!w]
[[ミツルギ] こんなの倒せるんっすか?]
[[河瀬] この鱗ルビーみたいだ。見学してていい?]
[[宮様] ちょっとチカ、もう少し間隔開けなさい。
これじゃ、オーバーヒールになるわ!]
[[カフェオレ] ヒガキ君のコーヒー飲みたいなw]
[[シュタイン] 硬いである!]
[[ヒガキ] え? 今ですか?!]
[[雷] 会話が混線なのですw]
カリエンテに攻撃を始めて数分。全員が全員興奮状態にあるためかクラチャは大混乱状態で……。
そんな中ティタの言葉に、カリエンテの尻尾を潜り抜けティタたちの周囲にHPPOTを撒いた。
POTを撒き終わり、カリエンテから少し離れた位置で参加PT全てのMP残量を確認する。
カリエンテからの全体攻撃は今のところまだ起きてはいないが、やはり近接PTの回復のMPの減りがヤバい。
その理由としては、カリエンテが振り返り黒以外の誰かを攻撃する度、振りまわされる太く長い尻尾が側で攻撃するATKたちを吹き飛ばしダメージを与えているからだろうと予測した。
そんなATKPTの回復にフルークトゥスを追加する。
遠距離魔法職のほうにも追加したいところだが、人数的にMPも足りない。その上追加するとすればウラガーンの方で、その後のMP管理が大変になるので諦めた。
こう言う時は流石に、もう一人ドラマスが欲しい。ドラマス以外のバフが、出来る範囲でバフを回してくれてはいるが、一人でバフを回すのは流石にしんどい。
そんな事を考えながら、全体バフの更新をかけた。
[[風牙] ダメージデータ的には
普通にモブと変わらないけど
HPが多すぎて減らない感じか]
[[源次] だな。武器の消耗が激しいわw]
[[宗乃助] これは補給組の元に戻る回数増えそうでござる]
[[白聖] 矢が足りるか不安になってきたw]
どうやらカリエンテ自体の硬さはそうでもないらしい。けれど、その巨体に見合うだけの膨大な数値のHPのせいで、中々減らないように見えてしまうのだろう。
そこで私は、個別のバフを更新しながら一人思考する。
カリエンテに、イリュージョンカリエンテで呼び出したカリエンテをぶつけた場合どうなるのだろう?
カリエンテの幻と着いている事から、攻撃力はそこまでないかもしれない。
それに、幻のカリエンテは煉獄の炎を吐き出すだけで、物理的な攻撃をしない。
火属性のモンスターに、火属性の攻撃をぶつけるの場合その属性から回復されてしまう可能性もある。
それに、周囲で攻撃している全てを巻き込む炎であることから、今呼び出せば周囲にいるプレイヤーを巻き込み殺してしまう事になる。
うーん。面白そうではあるけど、イリュージョンカリエンテは使えないか……トニトゥールスだと属性的に挟撃にはならないだろうし。
こんな楽しそうなのに……なんで、フルークトゥスを覚えてないの。
あぁ、今すぐフルークトゥスの魔法書が欲しい……。
なんて後悔をしながら、カリエンテのHPを確認した。
[[さゆたん] なんか今寒気がしたでしゅw]
[[ティタ] 俺もなんか……ゾッとした]
[[白聖] なんだこれ? カリエンテの攻撃?]
[[大次郎先生] 精神攻撃?]
[[シュタイン] そんな攻撃あのであるか?]
[[キヨシ] なぁなぁ、これさ~renが呼び出す。
カリエンテの攻撃だとダメージでるんじゃね?]
[[†元親†] MPPOT飲み過ぎてつらいいいいいいいい!]
[[キヅナ] 精神攻撃ってどんな攻撃よ?]
[[ren] 考えたけど、使えない……]
精神攻撃か……カリエンテにそんな攻撃があるような事は書いてなかったけど? と不思議に思いながら、キヨシに使えない事を伝えた。
そんな会話をしている間に、カリエンテのHPが徐々に減り漸く残り85%と言う所まで来た。
ここから30%までは第二段階に入るため攻撃する職が、カリエンテが己にかけるバフを見ながら指示が飛ぶ。
『魔法職は攻撃停止で、MP回復。近接のみ攻撃で!』
その言葉にカリエンテをタゲって確認すれば、魔法防御力アップと遠距離物理に対する攻撃力アップ。そして、物理攻撃力低下のデバフが名前の下に並んで表示されていた。
なるほど、これを確認しながら指示を出す訳か……。これは、指示を出す方も、攻撃する方も大変そうだ。
そう思いながら、詳細が見えないカリエンテの魔法防御力アップのバフに鑑定眼を使ってみれば、その詳細が表示された。
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魔法防御力が向上する。
プレイヤーによる、魔法攻撃のダメージが全て1になる。
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これはまた……キチガイな……。ほぼ無敵になってるし、MPの無駄にしかならないじゃん。
そう思ったのも束の間、もうひとつの遠距離物理を見てみれば……こちらは、弓と飛道具の攻撃が全て1になると書かれていた。
ドラゴンだからとやり過ぎではないだろうか? ガチで倒させる気ないな……。
運営の意地の悪さを感じた私は、カリエンテから視線をはずし鑑定を終わらせた。
カリエンテから、宮ネェ・ティタたちの足元に撒いたPOTへ視線を向け残量を確認する。まだ、残りは大丈夫なようでPOTは、私が撒いた状態のままだった。
暇だ……。楽しそうなクラメン達の声を聞きながら、自分の置かれた状況に少しだけ不満を感じる。
その不満とは、討伐中バフ以外やる事がないことだ。
折角、皆で楽しい事を思いついたんだから、私も攻撃に参加したい。
うん……そうしよう。なんて事を瞬時に考え、杖から二刀に持ち直しカリエンテに向かって走った――。
足を運んで頂きありがとうございます。
更新が不定期になって申し訳ありません。
出来る限り更新は毎日したいのですが、事情がありとびとびになってしまいそうです。




