最強は壊滅を齎す⑩
洞窟入り口に足を踏み入れた瞬間、ポータルで移動するかのような浮遊感のあと視界が一気に切り替わる。
それがおさまるのと同時に、視線を回し周囲を確認した。
洞窟と思しきそこは、マグマに似た仄かに光るオレンジ色の川が流れ、その周囲ををゴツゴツした岩が囲んでいる。
広さ的には、フル装備のプレイヤーが三人横に並べば詰まってしまいそうな感じの幅。
大和の持つ1メートル強のランスを上にのばせば届いてしまいそうな高さと言ったところだろう。
続々と後ろのPTが入って来るのに合わせ『進むぞ~』と言うロゼの声が聞こえた。それに答えを返す事無く、当然のように着いて行く。
入り組んだ道を進みはじめて10分。
最終PTが入ったとの知らせを受けたロゼが、それに返し中ボスのエリア手前にある広場で集まり作戦を伝えると伝えた。
[[ティタ] ね~。それ言えてるよw]
[[ヒガキ] 自分討伐中、足手まといになるので
補給組に行った方がいいですよね?]
[[キヨシ] だろ~。絶対ロゼ、テンパってるw]
[[ミツルギ] まさか本当にカリエンテ討伐に行くなんて
思わなかったっすw]
[[ゼン] え。ヒガキさん補給にいくなら僕も補給でいいですよ?]
[[キヅナ] ミツルギって誰?]
[[源次] ロゼアレで、緊張しぃ~だからなw]
[[ren] ヒガキさん、ゼンさんは補給なし。
折角だから参加して勉強して]
[[さゆたん] キヅナ……ミツルギは、新規加入の子でしゅw]
[[ミツルギ] あっ、えっとハジメマシテっすw]
[[雷] キヅナは、人の名前覚えないのですw]
[[カフェオレ] そう言えば、さっき飲んだコーヒー美味しかった
アレ、どこで買ったの?]
ロゼの言葉がいつもより硬い事に気付いたらしいキヨシが、ロゼの緊張に気付き揶揄を入れればティタがそれに乗り会話が続く。
一方でヒガキさんゼンさんが、遠慮気味に補給に回ると言うので即座に反対を表明する。
その最中、感慨深そうに言うミツルギさんに対し、キヅナが酷い言葉を吐き、さゆたん雷がそれをフォローするもミツルギさんが涙目になりながら自己紹介していた。
[[黒龍] それ、ヒガキが入れたんだよ。美味いだろ?w]
[[白聖] ヒガキ器用!]
[[†元親†] 寝起きに飲みたいぐらい美味いw]
[[カフェオレ] ヒガキ君。うちに就職しなよ?]
[[ヒガキ] 褒めてもらえて嬉しいです……w]
[[宗乃助] まさかの勧誘でござるwwww]
[[鉄男] 勧誘すんのかよwww]
[[ティタ] ウケルw]
[[ヒガキ] え? あ、ありがとうございます?]
[[カフェオレ] 本気だから……都内なら、一度会おう?]
[[村雨] 引いてるからw カフェオレ引いてるから辞めとけw]
[[ライガー] うわー、本気だにゃ……
カフェオレが本気出したにゃw]
歩く道すがら、こんなクラチャで盛り上がるうちのクラメンたちはニコニコした良い笑顔だ。一方で周囲はかなり真面目な話をしているのか、その表情は硬い。
空気を読むと言う事を覚える気がないクラメンたちの会話と雰囲気を察したらしい雪継と小春ちゃんが、PTチャットで黒たちと絡みつつ、時折出るモブを軽く屠りながら広場へと辿りついた。
『最後尾ついたら教えて』そう言うロゼの声に、最後尾のPTLと思われるメンバーが『はい』と返す。
ロゼたちの後について進んでいた私たちも既に広場に到着していた。
チカとキヨシが揃って「暇だ~」そう言うので、何かほかのクランに迷惑をかけない遊びはないかを考える。
うーん。あっち向いてホイ? いや、それじゃぁダメだな……指スマならこの人数でやるのおもろそうだけど……指スマで通じるかな?
[[黒龍] 街時間がなげーよw]
[[†元親†] 暇暇暇暇暇暇暇隙暇暇暇暇]
[[キヨシ] 長い!]
[[大次郎先生] 黒……待ちな? 街じゃないよw]
[[キヅナ] チカうるせーw]
[[ren] 指スマでもやる?]
黒の言葉のニュアンスがおかしかったのか、表示されたチャットは街になっていた。それを先生が訂正しつつ、チカの暇連発にキヅナが本当にうざそうにうるさいと拳骨を落す。
あまりにも暇そうなので思いついた指スマでもしようか? と声をかけてみたのだが……指スマと言う発言に雷、村雨、ティタ、ゼンさん以外の全員が、何それ的な顔をした。
近くにいる、分かっていそうな雷を誘い実際に指スマをやってみせる。
親指を上にグーの形を作り、両手の指を合わせる。「いっせーのいち」と言う掛け声に合わせ、私と雷の親指が一本ずつ上がった。
[[雷] ふふっ。負けないのです!]
[[キヨシ] あー。バリチッチのことか!]
[[白聖] へ~。それ指スマつーんだw]
[[ティタ] やったことあるw]
[[さゆたん] 懐かしいでしゅねw]
[[ren] 優勝者には、私が賞品を出すよ。
時価100M相当の装備でいいかな?]
[[卑弥子] バリチッチ?? 初めて聞いたわw]
その言葉を聞いた瞬間、それまで和気藹々としていた雰囲気が一変する。
ガメツイ&金欠のクラメンたちが、まるでレイドと対峙しているかのような鬼気迫る雰囲気を醸し出しながらフル装備で指スマをやり始めた。
白熱する指スマ戦を見ていたらしいロゼがボソっとPTチャットに『シュールだな』と漏らしていた事など気づきもしなかった。
早々に敗退したところで、そのシュールなスクショをこっそり撮影しフォルダーに保存したことは内緒にしておこうと思う。
「だあぁぁ、クソガ負けたぁぁ!」
「ちょ! なんでそこで、お前指あげんの?!」
「はぁ? まじかよぉぉぉ!」
次々と白チャで愚痴を漏らしながら敗退していくクラメン達。
残ったのは我がクランの頭脳と言っても過言ではない先生。
コーヒー以外にこんな特技があったのか? と言いたくなる無表情のカフェオレ。
そして、イケメンなのに残念なニヒル笑いを浮かべたシロだった。
張りつめた緊張感の中皆が見つめ優勝決定戦が始まる。誰かが喉を鳴らすと同時に、一番手のシロが「いっせーの3」と数字を言えばシロ以外の指が四本あがった。
「チッ」
「甘いわw」
「あー。コーヒーのみてぇw」
「次、私か……あ~。緊張する」
などと言いながら先生が「いっせ~の」そう掛け声をかけ数字を言えば、それと同じ本数の指が上がった。
『最後尾着きました~』カフェオレの掛け声と同時に、最後尾が到着した事を知らせるPTチャットが流れた。
固唾を呑んで見守っていた周囲がその緊張を解き中ボスに向け準備を整える中、決着がつかないまま指スマが終了する。
『ren。バフ頼む。黒龍>メイン。大和>サブ。雷>雑魚。他の盾はヘイト無し』
『PTバフのみ。個別は各々のクランで回して』
『メイン俺かよー』
『了解だよー』
『雑魚? 雑魚処理班なのです』
『エヴァラック持ってる黒がメインだろ?w』
『盾の見た目変えときゃよかった……』
『黒ちゃんそのエヴァラックいくつなの?w』
『いつの間にそんな高額な物作ったんだわいね?』
『あー。強化数は言いたくねーw renから買った(借金』
『やっぱ、そうか……やっぱrenか! なんで俺に売らないの?
ren俺も盾だよ? ねぇ、知ってるよね?』
黒がメインに選ばれた理由は以前、ヒガキさん加入の際に借金で売ったエヴァラックだった。それに反応したのは、同じ盾職の白影だ。
私から借金で買ったと暴露する黒に、白影が俺も盾だと訴える。
知ってるよ? 知ってるけど白影より黒を優先させた理由は簡単なことだ。
黒はクラメン、白影は別クラン。そして、ヒガキさんの部隊加入がかかっていた! そう考えつつ白影にヒガキさんの事を伏せ事実を告げた。
『黒はクラメン。白影は、シルバーガーデン。クラメン大事』
『うはははははは! クランの違いだなw』
『明確過ぎる違いねw』
高笑いをかます黒に、宮ネェが苦笑いを浮かべつつ同意を示した。
エヴァラックならまだ複数個あるし、お金が無い今……売っても良いかな。ぶっちゃけここ数カ月で、かなりの額を散財してしまっている。
製本もこなしてはいるが、現状本当に白影がエヴァラックを買ってくれるのであればそれの収入が一番大きいかもしれない。
そこまで考え手持ちエヴァラックを売り払うため白影に取引を持ちかける。
『まー、白影が欲しいならもう1個あるけど? 通常価格ニコニコ現金払いで買ってくれるなら売っても良い』
『マジ? マジで? +いくつ? いくら?』
『+18エヴァラック。280Mでどう?』
『買った! コレ終わったら買うわ』
『うぃ』
『商談済んだか? そろそろ進むからバフよろしくw』
『k』
商談が終わったら所で、そろそろ真面目に攻略をするぞと言うような声音でロゼがバフを要求する。それに答え全体にバフをかけ、元クラメン含めクラメンたちに個別のバフを入れた――。
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