最強は仲間を得る②
辿り着いた闘技場では、既に三割が死亡していた。慌てて部外者が巻き込まれていないかと確認したところ死んでるのほぼほぼ裸の引退組だった。
その死亡組にチカとキヨシがいたのだが、見なかった事にする。
キヅナと卑弥子に預かっていた装備をトレードで渡す事を伝えれば、キタコレーと叫び意気揚々と復活すると入口から走って戻ると装備を受け取り再びの乱戦――殴り合いが始まった。
闘技場のあちらこちらで繰り広げられるPVPを体育座りで楽しく見ていた私に、シロ・黒・風牙の三人が揃ってバフをくれと要求する。
バフを入れたら卑怯じゃないかとは思いつつも、可愛いメンバーにバフを入れれば雪継が「卑怯だー」と叫ぶ。
「卑怯じゃねーし!」
「そうそう、使える手使って何が悪いw」
「千桜~~~~!」
「生ジル改名の危機であるww」
「もう改名しとけ?w」
「雪……これはフリだから諦める?w」
「相変わらず、皆仲良しさんでいいわねん♪」
「うはははははははw」
「キヨシうるさいでしゅw」
まるで子供の言い合いのような黒と風牙の返事に雪継が千桜を呼び、博士が改名だと笑う。キヅナと千桜もが諦めろと言えば、小春ちゃんが楽しそうに仲良しさんと言った。
そんな会場の中を復活したキヨシが走り笑えば、さゆたんが即座に突っ込みを入れた。
流石に雪継の改名は可哀そうだな……仕方ない。今回ばかりは助けるか……。
メンバーたちは本気で改名させる気はないだろうけど……なんとなく、意地になった雪継が改名すると言いそうな気がする。
そうなると後味も悪いだろうし……手のかかる奴らだ。
”ren” PT
”雪継” ren~TT
その場から立ち上がり、雪継へ密談を送り近付けば彼からPTが飛んでくる。
それを承諾して元クラメン全員を巻き込んだ「イリュージョン カリエンテ」を発動させた。
闘技場の上空より舞い降りる赤黒い巨体のドラゴンが見え、それと同時に白チャで各々が感想を漏らす。
「またかよおおおおおおおおおお」
「ふざけんなー!」
「ちょw 何アレ何アレw」
「これは、死んだでござるなw」
「え? アレがrenの必殺技?w」
「やっぱり、こうなる運命なんでしゅよw」
「相変わらず容赦がないのですよw」
「俺、復活しばっかなのにぃぃ!」
「これはまた、最強手段で出たな……」
「コレハ、ヒドイw」
「これが、例のドラゴンだわいなw」
「renまさか、極めたの? ドラマス最強じゃんw」
「これは無理であるw」
「やべぇ~。こんなんトーナメントで当たったら即死じゃんw」
「迫力あるな~。すげーいいじゃんこれww うちの嫁並みw」
「素敵なのです。ドラゴンみる為だけに復帰したくなるのです」
「私も巻き込まれるの? そうなのね?w」
PTを組んだ雪継のためにプロテクト スケイルを発動させれば、煉獄の炎を吐きだしたカリエンテの攻撃に雪継と私以外が死滅した。
世紀末的なナレーションが欲しいな。なんて思いながら「雪継の改名は禁止。生ジルはあだ名で呼ぶだけにする事!」と高々と屍を前に宣言する。
「そうそう、改名禁止――って、え?」
すると雪継が同意するように頷いたかと思えばあだ名は許すの? そう言いたそうな顔でこちらを見ていた。良い笑顔を作りうんと頷けば、その場で膝をつき打ちひしがれていた。
やる事やって、元の位置に戻りPT切ったところで折角皆がいるのだから、なにか楽しい事ができないか考える。
ワクワクするような何か……面白いものは無いかな? 善悪の塔の鬼ごっこも面白いだろうけど……天城ほどのスリルは無いし。
そこに、死に戻りしたティタが先生と宮ネェを伴い横に座り私にPT勧誘を飛ばす。
『ノ』
『ノノ』
『カリエンテはないわw』
『えっとね、ほら前に言ってたレイドの事なんだけど……』
カリエンテについて語る先生の言葉をスルーして、ティタの話に耳を傾けた。
そう言えばレイドに誘われていたとことを思いだした。確か……相手からの連絡待ちだったはず。
『相手はなんだって?』
『えーと。バフに掛るお金については分配金からrenに直接渡すって言ってて。同盟については、同盟解散できる日に討伐に行くとかでどうかって……言ってるんだけどどう思う?』
先生の質問にティタが答え、相手の意思を伝える。
やっぱり同盟については絶対か……。少なからず条件になるだろうことは予想出来ていた。
そうなると参加は難しいと言わざるを得ない。一瞬とは言え、全く知らないクランと同盟を組むのだ無理に等しい。
これがロゼや小春ちゃんならまだなんとかなる可能性はある。
そう考える私の意見に同意するかのように、先生が厳しいと言う声音と表情で声を発した。
『ん~。同盟は絶対かー。』
『うん。全体回復の関係があるらしいよ』
『やっぱりそこなのね。
精錬のヒールと全体回復は、同盟までしか効かないし。
連合じゃ、使えないのよね~』
『なるほどな』
精錬ヒールと回復の使う全体回復については、クランと同盟員のみと決まっている。
だが、うちの回復はたったの二枚しかない訳で……同盟を絶対組まなければいけないほどなのか? と首を傾げたくなってしまう。
『今回は、無しで』
無しにした理由としては、相手に対する懸念が消えない。言い方は悪いが、なんかこう利用されるような気がする。
本音を言えばドラゴンレイドはやってみたいとは思う。
けれど、ティタ以外その同盟の中にどんな人がいて、どんな動きをするのかが分からない。私はとしては、動きが分からない相手と同盟ないし連合を組んでレイドに行ったとして上手くいくとは思えなかった。
そんな感じで断る事を独断で決めてしまい、話を持って来てくれたティタに申し訳ないと謝罪する。
『ん~。気にしないでいいよw
renが無理って言うってことは、多分俺が言ったところで他のメンツも無理だ。って判断する可能性が高いし……俺的には、どっちでも良かったからw』
『まー、そうね。
私も今回は乗り気になれなかったから、renの判断が正しいと思うわ』
『私も今回はパスだと思う。
レイドなら、ロゼとか小春ちゃん、雪継あたりからも誘いがあるからね』
謝る私に、気にして無いから平気だよと言うティタの声を引き継ぎ、宮ネェと先生が同意するような内容を言ってくれた。
その中で先生がロゼたちの名前を出したことで良い事を思いついてしまう。
これで全てが解決するし……試す価値がある。私、マジで天才かもしれない! なんて思いつつ、良い事を死闘を繰り広げる全員に聞こえるよう伝えた。
「皆、聞いて?」
久しぶりにこんな大きい声を出したと言うぐらいの声音で、両手を口元にあて叫べば、ピタっと皆が止まり此方を見る。
「全員でドラゴンレイドいこー!」
驚いた様子も何も無く、シーンと静まり返る仲間たち。誰ひとり話す事無く、私を見たまま数十秒の時間が過ぎた。
そして、盛大な溜息をついた黒が徐に死んだような魚の眼で此方を見る。
「はぁぁぁぁぁ。マジ、お前はどうしてそう――「行こう!」ちょっ、は? キヅナ??」
「だって、面白そうじゃん!
俺らが引退した後だったしな、ドラゴンレイドアップされたのw」
「吾輩も行きたいにゃw」
「僕も行きたいなのです」
「拙者も構わないでござるよ?w」
「俺も俺も~w」
「僕も~!」
「うむ。それもまた一興である!」
「これは流れにのるべきだわいなw」
「じゃぁ、俺も―w」
「はーい。小春ちゃんも~♪」
と言う感じで黒と他数名の常識人が黙らされ、ドラゴンレイドに行く事になった。
回復が足りないと言う意見に、ロゼの所の回復を二名と雪継の回復を二名。それから、小春ちゃんの所の遠距離魔法職を三名呼び出す。
他に来たい人が居るなら連れて来ても良いよ。と付け加えておいた。
その間にやるべきは、引退組への装備貸出で……。
キヅナと卑弥子は既に自分の装備を持っているが雷、ライガー、ユージ、ケン坊は引退時装備を全て燃やしている。
同職のメンバーたちの余り装備をつぎはぎで準備しつつ、足りない部分を補てんしていく。
「ちょww 流石にこれ見た目ヤバくね?w」
「ぶはっww なんだそりゃw どこのゴール○セイントだよwww」
「ワロスw 胴体金なのに、手足黒って……草生えるわ」
「まだいいでしゅ……あれ、もっと酷いでしゅw」
見た目がヤバいと訴えるユージに、キヅナとロゼが爆笑しながらチャチャを入れる。そんなユージにさゆたんが、雷をみながらまだマシだと教えていた。
さゆたんの視線を追い雷を見れば、そこには幼い見た目の白い毛をした犬獣人が、頭は金に近い黄色。胴は赤の鎧に、黒の盾を持ち、手は青で足は白と見事にパーツごとに色が分かれた姿で、銀のランスを持って立っていた。
流石に可哀そう過ぎる……そう思いながら、雷に本当にそれでいいのか? と聞けば「こんな体験、今しかできないと思うのです」とハートマークが付きそうな感じで帰って来た……。
あぁ、喜んでるのか……それならいいけれど。
昔から雷のこう言うところが、可愛いと思ってしまう。
そんな彼女――中身は不明に、必需品購入の為のお金を渡した。
他の引退組にもお金を渡し、必需品を買って来て貰う。
その列に何故か、キヨシが並んでいるのだが……貧乏金なしの彼なので仕方ないと借金にしておいた――。
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