最強は壊滅を齎す⑥
ゼンさん・ヒガキさんにゲッタースクロールの使い方を教えていた私だが、この二人既に、熟練者――チカ・キヨシより遥かに上手い。
初回こそミスっていたが、二回目からは独自に学習して誰からも指摘されないようスクロールを使っている。
大丈夫、問題ないだろうと言う判断をした私は、二人にゲッタースクロールを任せ、ミツルギさんと二人攻撃に加わった。
そんなこんなで順調にクラハンを続け気付けば四時間半も経過していた。大和の装備の耐久がヤバいと言う事でその日は帰還することになり、後の時間は各々自由に過ごす。
ミツルギさん・ヒガキさん・ゼンさんを連れて再び狩りへ行くと言う黒たちに行ってら~と伝え、宮ネェと一緒に【 ヘラ 】に出店したクランの露店へと向かった。
宮ネェと談笑しながら向かったクラン専用の露天は、先生によりかなりシックな感じにカスタマイズされていた……。
て言うかもう、これ出店じゃないよね? 店だよね?
店舗と言っても過言ではない程の出来栄えに宮ネェと二人呆れる。
その見た目は、あえて焦げ目を入れたような木材を使った外装に、グレーの屋根。
お客さんと店内を隔てるようにガラスのショーウィンドウが並んでいた。その仕切りを潜り、中に入ってみれば十畳ほどの店内に棚が並んでいる。
店内中央には、商談用のテーブルと椅子が二脚あるのだが、果たしてこれは必要なのだろうか? そんな事を思いながら見回した棚にはクラメン達がクラン庫に入れたゴミにしか見えない物と、きちんとした売り物が並んでいた。
「これはまた……酷い有様ねw」
「物が並び過ぎてて見にくい……」
「それもだけど、これタップするの面倒ねw」
「ん~。これはカテゴリー別に分けた方がいいかもしれない」
「はぁ……先生が拘るのは見た目だけで、中身は気にしないのよね~」
「やるしかないね……」
店内に入り見回したところで、視線に棚が入る度複数のメニューが表示された。それが凄くウザイ……視線を向けただけで、自分の視界に幾つものメニューが表示される状態になる。それは、まるでル○パン三世のバグったディスプレイのようなそんな感じだ。
ゲーム内でも、色々詰め込み過ぎて片付けられない人が良くなる症状に宮ネェと二人顔を見合わせ、笑うと店舗内に置かれた物をカテゴリー別に分けて行く。
宮ネェも言っていたが、先生は出会った当初から外面(性格ではない)だけは拘る方だ。
なので、キャラの見た目や装備の見た目には拘るものの中身は、どうでもいいと言うか……スキルなどは結構曖昧だったりする。
そんな先生が渋いだろ? と言うメインキャラのドワ爺は、皺の位置や髭の長さ色合いなどを決めるまでに三日を要したそうだ……。
黒に言わせれば、何が違うのかわかんねーよ? である。
下らない事を考えてしまった。さっさと商品のカテゴリーを終わらせてしまおう。
まずは、露店の設定画面を開き、一つの棚に商品名が分かりやすいよう【 魔法書・スキル書・スクロール 】とタイトルをつけた。
それを見ていた宮ネェが魔法書とスキル書・スクロール類を纏めて設定した棚に置いてくれた。
その隣の棚に【 ポーションその他消耗品 】と言う名前を付ければ、宮ネェが再び纏めて棚へ置いてくれる。そんな感じで二人で纏めて行く中で、どうみてもゴミだろう? と言う物が多く棚からはじき出され置かれていた。
「ん~。これどうする?」
「ゴミ均一って名前で、木箱の中に突っ込んでおきましょうw」
「わかった」
店先に直径一メートルほどの木箱を設置する。それに宮ネェが言った通り【 ゴミ均一 】と名前をつけゴミを入れたのだが、箱三つ分にもなってしまった。
積み重なるゴミの箱を見ないふりして設定を終わらせたところに、お客さんと思われるプレイヤーが入って来る。
すると宮ネェが、豹変したように物凄くいい笑顔で「いらっしゃいませ~」と、ゼロ円スマイルをかました。その声に驚いた様子の犬獣人らしいプレイヤーさんはペコっと頭を下げ「ども」と挨拶を返していた。
その彼が探していたものは、ベルトにつける装飾用のアクセサリーで世間話をしながら彼の好みに近いものを宮ネェが選びテーブルにとり出し見せる。
その姿がまるで、どこかのブランド店のアドバイザーのようだと思いながらカウンターで見守った。
と、そこにまた二人組の新しいお客さんがやって来る。一瞬いらっしゃいませと言うべきか悩んだけれど、私にはそんなスキルはないので諦め頭だけを下げておいた。
新たなお客さんは、魔法書を探しに来ていたらしく魔法書の棚の前で止まると「やっぱりここにもないよー」と悲しそうに隣の女の子に言っていた。
ほんの少しの好奇心から、何を探しているのか聞けば二次職で覚えるファイアー ウォールの魔法書だった。
ファイアー ウォールであれば確か、クラン庫に入れたはずだ。少しだけ待って欲しいとその子に伝え、宮ネェに少し倉庫に行って来る。と言うと露店を後に倉庫に向かった。
倉庫に辿り着きクラン倉庫を開く、すると横に10マス縦に5マスのウィンドウが表示される。それをスクロールして魔法書の列まで進み一つずつ名前を確認した。
見つけ出したファイアー ウォールの魔法書をクラン庫からアイテムボックスへ移動させ店に戻ると彼女に渡した。
いくらですか? と聞く彼女に値段設定と言うか値段を考えていなかった事を思い出した私は、慌ててクラチャでファイアー ウォールの値段を聞く。
[[白聖] そう。ここではその構えの方が良いぞ]
[[ren] ファイアーウォールの値段っていくら?]
[[ミツルギ] この構えって左右に動きやすいっすねw]
[[ティタ] ちょw キヨシィィィィ!]
[[宗乃助] 40Mでござるよ]
[[さゆたん] 30M~40Mでしゅよw]
宗乃助とさゆたんの返事に35Mにしようと決めて、その値段を彼女に伝えれば「安過ぎます!」と怒られ、60Mでと言われてしまった。
本当にそんな値段でいいの? 高くない? ていうか、50M超えるんならファイアー ウォールの魔法書量産しとこう。
最近ゲームに新規プレイヤーが増えたのか、それとも二次職をやり直してる人がいるかは不明だが……売れるのであれば量産するのもありだろう。
そんな事を思いつつ、取引用のウィンドウを出す。無事に取引を終え再びカウンターに戻ったところで無事商談を済ませたらしい宮ネェが、ホクホク顔で「良い値段で売れたわ」と言いながらカウンターに戻って来る。
そんな宮ネェにファイアー ウォールの魔法書を量産するためハウスに戻る事を伝えれば、楽しいからもう少し店員をするという宮ネェを残し私は一人ハウスへと戻った。
その後、自室でファイアーウォールの魔法書を量産した私は、大量に出来た魔法書を見つめ少しだけスクロールに魔法を込めると言う実験をする事にした。
まずは、魔法のスクロールと言う羊皮紙を用意する。
これは、転写専用の羊皮紙を購入した羊皮紙専門店で買いものした際、変わった名前の羊皮紙が気になり十枚だけ購入していたものだ。
手に持った魔法のスクロールを鑑定するとその使い方などが説明としてウィンドウに表示される、その説明の一文に魔法を込める事が出来る羊皮紙となっていた。と言う事は、転写用の羊皮紙と同様に魔法書さえあれば魔法のスクロールができるのではないかと考えた。
まずは魔法のスクロールに表示された使用するのボタンをタップする。現れたウィンドウにファイアー ウォールの魔法書を乗せようとしたところでブザー音が鳴る……どうやら、魔法書からではダメらしい。ではどうすればいいのか……開いたウィンドウを見つめ、思考するよりも入りそうなものを片っ端から入れて見ることにした。
その結果、魔法のスクロールとは魔法が籠められたスクロールを魔法書にする。と言う事が分かる。
これにより、ディティクションとゲッター サークルの魔法書ができるわけだが……魔法書を作ったところで現在、このゲームにこの魔法書を覚えられる職が存在しない事に気付いた。
「なんだこれ……」
不可解なアイテムに一人首を捻り考えるも、まー分かるはずも無く使えないと判断を下す。
スクロールを魔法書にする事ができる羊皮紙があるのであれば、魔法書をスクロールにできる羊皮紙もあるかもしれない。
そんな甘い夢をみながら、ログアウトボタンを押した――。
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