最強は夢想する⑰
アテナの大図書館は、街の北側の外れにある。東京にある某有名名門大学の様な見た目の建物だ。
門の前に立つ警備のNPCに話しかけ中へと移動すれば、そこには見上げても上が見えないほどの本棚が立ち並んでいる。
かすかに感じる図書館らしい匂いになんとなく癒されながら、解読を教えてくれるNPCを探し、図書館の中を動き回る。
探していたそのNPC――クィンスは、第三図書館にいた。
キツネ耳に焦げ茶色の神官服の様なローブを羽織った、メガネ美人と言った感じの見た目をしている。
クエストを進めるため大量の本を抱えたそのNPCに話しかけ、出現したウィンドウの中から【 解読について学ぶ 】を選択してタップした。
持っていた本を降ろし、眼鏡を片手でクィっと上げたクィンスさんは私を見極めるような目をして見つめるとふーっと息を吐き出し【 では、未鑑定のスキル書をお持ち下さい。 】と言う。
既にアイテムボックスに入っているスキル書を取り出し彼女に渡せば、次の指示を出して来た。
その指示とは、鑑定することだった。
私が持ってきたスキル書は、三次職暗殺者のスキル書である。フニッシュ ブローだ。
鑑定を使う必要も無く未鑑定のスキル書と書かれた下に(フニッシュ ブロー)と書かれいる。
手に持ったスキル書の横にある「!」マークをタップする。
開いた大きなウィンドウにスキル書を入れ込み、鑑定をタップすればウィンドウが切り替わり、波打つ緑の線が上下左右に動き中央で止まり十字の形を作る。
ピンと言う、電子レンジの出来上がりを知らせる音が鳴り、小さなウィンドウが開き鑑定結果が文字で表示され【 フニッシュ ブロー 】と書かれている事を確認した。
その後、横にある大きいウィンドウにある決定を押せば手元にスキル書が戻る。
未鑑定のスキル書と書かれていた表記が、フィニッシュ ブローに変更されていた。
鑑定が終わったところで、クィンスさんに再び声をかけ鑑定したスキル書を手渡せば【 いいでしょう。次は、魔法が籠められたスクロールを持ってきてください。 】そう言った。
既に持っているディティクションスクロールを、アイテムボックスから取り出し彼女に渡す。【 確かに……
それでは、あなたが持ってきたスクロールの魔法陣をこれに書き起こして下さい。 】と言うと、クエスト用の羊皮紙を私に渡すと近くにあったテーブルを指し示した。
彼女に言われるがまま、スクロールと羊皮紙を置きテーブルで作業を開始する。このままではスクロールの魔法陣が見えない。
何かヒントは……そう思いつつ周囲を見回した私の視線の先で、NPCの子供がスクロールを手に持ち窓の方へ翳している。
あぁ、なるほどね……あれがヒントか……。
運営が用意したヒントを元に、スクロールを光に翳してみれば、薄らと魔法陣が見えた。
製本をやっている私からすれば、これは、非常にやりにくく感じた。
製本の場合は既に覚えている魔法なので、スキル一覧から選んだ魔法の魔法陣が開いたウィンドウにくっきりと見える。
しかし、今回の場合羊皮紙に一本二本と線を書き足す度、何度も光に翳し魔法陣の形を覚える必要がある。簡単に言えば、自分の記憶力との勝負の様な状態だ。
やり難いとは思うも、これさえ終われば夢の魔法書、スキル書制作ができるかもしれないという期待から黙々とスクロールの魔法書を書き写していった。
いつの間にやら集中していたらしい。
清書を終え気が付いた時には、周囲にいたNPCが居なくなっており日が暮れていた。側に座り本を読んで待っていてくれたらしいクィンスさんに、出来あがったクエスト用の羊皮紙を渡す。
【 問題ありませんね。次は、少し難しいですが貴方ならば大丈夫でしょう。 】そう言ったクィンスさんが、ある一枚のスクロールをどこからか取り出し渡す。
そのスクロールはかなりの年月が経っているのかスクロール自体が黄ばみ、所々破れていた。
え……これ書き写すの無理じゃん。そう思った刹那彼女は肩をすくめ続きを語りだした。
彼女が言うには、このスクロールは遥か昔冒険者だったある男性が、天蓋の園から持ち帰ったスクロールなのだそうだ。彼女は、このスクロールに記された魔法陣を解読するためあらゆる手段を尽くした。
しかし、それは全て無駄に終わってしまったそうで……同じ解読を志す者である私に、天蓋の園の最奥にある天上の御社から、このスクロールと同じ物もしくは、その写しを持ち帰って欲しいと言う。
天蓋の園か……天蓋の園――通称、天城とは、アテナとデメテルの中間にあるクリスタルで出来た15階層からなる城型のダンジョンの事だ。
そこは、天使と精霊が大量に湧き、攻撃は痛くデバフを打ち込んでくる癖に……こちらのデバフが一切効かないと言う酷い狩り場だ。
最後の最後で一番厄介な狩り場に行けってか……うーん。これは流石に一人では無理だ。
ていうか、二次職に天蓋の最奥に行けって言う運営の罠具合が酷い。まー、そこに行けば終わりだろうから、クラメン巻き込んで行こう。
勝手に巻き込むことを決め、クラチャのタブを開く。
[[ティタ] んー。武器の試し切りしたいな~w]
[[宗乃助] 庭の畑にオレンジがw]
[[ren] お願いがある]
[[キヨシ] 梯子ついに完成したぜ~!]
[[大次郎先生] ティタ、付き合おうか?]
[[ゼン] おめでとう。キヨシ君]
[[宮様] おめ> キヨシ どうしたの? ren]
[[鉄男] お、ついにクエ終わったのか?w]
[[ren] 天城行こう?]
[[ヒガキ] おめですw]
[[宗乃助] お願い……でござるかw]
[[白聖] renのお願いねぇ~w 嫌な予感しかしないw]
[[黒龍] やっぱロクな事じゃ無かったなwwww]
[[さゆたん] 天城でしゅか?w]
[[†元親†] 俺あそこ嫌いだ―w]
[[ミツルギ] 天城は俺も苦手っすw]
[[大次郎先生] 天城は私も嫌いだw]
[[ren] クエで最奥の天上まで……付き合って]
やっぱり皆嫌いらしい……それはそうだろう。
皆が嫌がるのも納得と思いながらも、なんとかクラハンに持ち込むべく頼みこむ。
[[キヨシ] んー。renはハウス買ってくれたし……嫌いだけど付き合うぞーw]
[[宮様] いいわよw]
[[大次郎先生] 仕方ないねw]
[[黒龍] はー。しゃーねぇーなー。お好み焼きで手打ってやるよw]
[[ティタ] 武器の試し切りしたいし行くよ―w]
[[さゆたん] 仕方ないでしゅねw]
[[ミツルギ] 修行っすねw]
[[宗乃助] でござるなw]
[[鉄男] おー。行くわ―w]
[[白聖] この流れで行かないとか言ったら、PKされそうだなwww]
キヨシの言葉を皮切りに、皆が行くと言ってくれた。キヨシ、GJ! そう心の中でサムズアップしながら、キヨシを褒めつつ今度何かお礼をしてあげようと決め倉庫へと向かう。
天城のモブは全て、聖属性の攻撃を仕掛けて来る。その為、聖属性の防具と闇属性の武器がいる。
それから、最悪の場合――モブが大量に湧いた場合、回復が二枚居たとしてもデバフ解除に手が回らない場合があることが予想される。
それに備えデバフ解除用のポーションも積んで行く。
と、そこでキヨシの装備がまずいのではないかと考えた私は、ついでに聖属性のローブ一式をキヨシ用に持っていく事にした。
私が倉庫でアレコレしている間に、ゼンさんヒガキさん以外のメンバーがポータルに集まる。流石に、今回は二人を守る余裕がないだろうと言う先生の判断で二人にはお留守番をして貰う。
全員がポータルに集まった。
天城の近くにある【 ニーケ 】に移動した――。
足をお運びいただきありがとうございます。




