最強は夢想する④
港でコバルトブルーの海を背景に一人唸りながら悶々と悩む花魁が取引所を見ながら船着き場でたそがれている。
もし、私がそれを目撃していたとすれば、あいつ大丈夫か? 位は思った事だろう。
いつの間にか、取引所に気を取られ過ぎて少し頭の可笑しい子になりつつある状況を知らず知らずの内に体験していた。そんな事になっているとはつゆほどにも思わず、取引所に出された半額に近い家具類に興奮する。
以前欲しいと思っても値段的には買えない品が混ざっている。こ、これは絶対買いの値段でしょ? あぁ、これも……でも、今はお金を使いたくない。せめて、キヨシか黒あたりが借金返済してくれれば買うの一択なのに!
コレクターと言っても過言ではないほど、ゲーム内で物を集める事が好きだ。買いたいと言う欲望と戦いながら定期船の到着を待っていた。
[[白聖] あーren。今中身いる?]
[[宗乃助] 定期船何時でござるか?]
[[ミツルギ] 船間に合いそうなら一緒に……]
[[ren] いる。後20分で船来る]
突然、シロに呼ばれて返事している最中に、宗乃介のチャットが聞こえ同時に返した。
太古の孤島に何か用事がある様子の宗乃介とミツルギさん。一体何があるのだろうかと思っていたところ、三人同時に同じような内容を言って来る。
[[白聖] じゃぁ、ついでに骨取ってきてw]
[[ミツルギ] 狩りで出た骨売って欲しいっす!]
[[宗乃介] 骨頼むでござるよw]
骨か、骨が欲しいのか……てか、来る気ないよね?
骨が欲しい理由は、飛び道具作るのに必要だからだろう。だが、軽く言われるとひねくれ者の私は、素直に渡したくなくなる。こう言う時は、最強のスキルであるスルーを発動するに限る。
その後しばらくモブの処理などをしているクラチャが流れ、先生の声でボスを探していたことが分かった。それと同時にBGMが、激しさを増す。
[[黒龍] 宮ネェ!]
[[宮様] バリア]
[[キヨシ] あぁ! ゼン〜!]
[[黒龍] 悪い!]
[[宮様] ごめんなさい。バリア間に合わなかったわ……]
[[ゼン] 大丈夫ですよw]
[[†元親†] 悪い! マジで油断してたTT]
クラチャの内容から、ゼンさんがエンドしてしまったようだと分かり痛ましい気持ちになる。
二次職だから仕方がないとは言え、やはりまだ善悪のボスの一撃には耐えられなかったのだろう。
装備などの損失は大丈夫なのだろうか? もし消失しているのであれば、装備を貸し出す必要が出てくる。そこまで考えクラチャで発言しようとしたところで、ティタが先に装備について聞いた。
[[ティタ] ゼン。装備大丈夫か確認して?]
[[宗乃介] 無い物があれば申告するでござるよ!]
[[ゼン] はい。確認しますね]
[[ren] 足りないものがあったら、クラメンの装備出してもらって]
[[キヨシ] 大丈夫か? 無くなってるのないか?]
時間になり定期船が到着する。250kと言う金額を支払い船に乗り込みながら、皆に見えるように伝言を残す。
困っているクラメンを見捨てるようなメンバーは居ないから大丈夫だとは思うが、一応全員の目に止まるように発言しておいた。
船の入り口から甲板に転送される形で出れば、お人好し集団の様にゼンさんに声をかけるメンバー達のチャットが見えた。
そのチャットにほっこり癒され、徐にアイテムボっクスから座卓とクッション、羊皮紙、羽ペンとインクを取り出すと、その場に座り二次職の魔法書を作るため製本作業を始めた。
船での移動中2時間ぼーっと海を眺めるよりは、少しでもお金を稼ぐ時間に充てる。ただでさえ、今日はボスにも行けていない。
そこでどうにか出来ないかと考えた結果が、往復の4時間で魔法書を四冊作る事だった。二次職の魔法ホリー クロスの魔法書は、未だ取引所でも高値で売り買いされている。
一冊当たり、15〜30Mといったところだが。
四冊作れば、当面はボスに行かなくてもなんとかなるはずだと考えた。そして、出来ればその間に、面倒な代行を終わらせたいと言う願望もある。
いつの間にか集中していたらしい意識が、一つ目のペンタグルを描き終えたことで浮上すると同時に、クラチャの会話が聞こえてきた。
[[ミツルギ] うーん。
ココでそのスキルは耐えれないっすよw]
[[ヒガキ] マスターの看板勝手につけていいんですか?]
[[さゆたん] やるでしゅw]
[[黒龍] 大丈夫だw気にするなw]
[[宗乃介] いい感じでござる。
今度renにバフ入れて貰って試すでござるよw]
[[宮様] またそんな勝手にw]
[[ren] SS送って]
[[ティタ] お〜。なんかren好きそうw]
会話の内容から、さゆたんが主犯らしいことを予想しつつ気に入ればそのままにする予定で、SSを要求する。
宗乃介の案山子にになる時間もいるかと考えつつ、SSが届くのを待った。
待ったのだが届く気配がない……まさか忘れられてる? なんて思いつつ受信したメールを見る。そこにはつい昨日受信しばかりのGM橋幸さんからのメールが――。
そう言えばテンプレだったから中身を流し読みしてたな~、なんて思いつつ内容を読みなおす。
そこには
【 トーナメント戦においてデバフにあたるスキルについて、同レベルのプレイヤー同士の場合で通常の50%の確率でしか適応されません。
Lv差に応じてスキルの確率は減少します。 】
と、言う記載がされていた
。
と言う事はだ……Lv差が開けば開くだけ、デバフが適応される確率は悪くなると言う事だろう。
GMと言うより運営がそう言う仕様にした理由として
【 二次職、一次職のプレイヤーにも楽しんでもらうための配慮なのでご容赦いただけますようよろしくお願いします。 】 と、書かれている。
これはマズイのではないだろうか? 少なからずデバフの入りが悪いからと言う理由で私含めクラメンは、魔法の強化をしなければと考えていた。
もし、この事を知らず強化して失敗したプレイヤーがいた場合、その件を公式にアップしていなかったと言う理由で間違いなく保障しろと言うクレームが入るはず……。
寝ずに復旧作業を行う兄の姿を思い浮かべ船上から空を見上げ両手を合わせ拝んでおいた。
[[宮様] renSS送ったわよ~w]
[[さゆたん] 可愛いでしゅ……でも、これはやりすぎじゃ?w]
[[ティタ] ウケルw]
[[ミツルギ] これマジッすか?w]
[[黒龍] しょうがないだろw
代行だけでも数半端ないし……?]
[[†元親†] 数がヤバいw]
[[大次郎先生] これは……。
作るヒガキが大変だったんじゃ?w]
[[白聖] うわ……テーマパーク並みに酷いなw]
[[キヨシ] 一発で誰の部屋か分かるなw]
[[ゼン] マスターこんなに代行持ってるんですか?]
[[宗乃助] 持ってないの調理師ぐらいでござろう?w]
[[ヒガキ] マスターのなので、頑張らせて貰いました!]
宮ネェのSSを送ったわよと言う言葉に、メールが届くのを期待してメールの受信を待っていた私の耳に、クラチャが届いた。
会話の内容がシステムログのクラチャのタブにつらつらと文字で表示される。その文字たちに、ひとり船上で嫌な予感を覚えた。
宮ネェから届いたメールを恐る恐る開いてみれば……あぁ、やっぱりと言う感じだった。
私の部屋の天井からつり下がるハンギングサインが鎖で繋がれまるで一本のさげもんの様な状態になっていた。
[[ゼン] 壮観ですね~!]
[[ren] 却下、外して]
[[宮様] きっと喜ぶわよw]
[[さゆたん] renちゃん酷いでしゅw]
[[大次郎先生] まー。renの事だから
そう言うだろうとは思ったけど……w]
[[黒龍] じゃぁ、代行何出すか決めろ?w]
[[ティタ] やっぱりそう言うよねw]
[[キヨシ] 折角ヒガキが頑張ったのに?]
[[ren] クラン内で代行しないから全部外して
作って貰ったのは中に後で飾る]
[[†元親†] ヒガキ頑張ったのになぁ~。酷いよなw]
[[ヒガキ] やっぱりそうなりますよね。
流石に多いとは思いましたし]
必死に取り外しを要求する私に対し酷いと言う、さゆたん、キヨシ、チカ。何かに絞れと言われても、クラン内で代行をするつもりない私は、黒の言葉にはっきりと意思を伝える。
折角作って貰ったものだし、素直に可愛いと思えたから室内には飾る予定にした。
私の持つ代行の種類は多い。以前あげたお金を稼げるであろうものは調理師以外全てを覚えている。けれど……製本以外、ほぼ使っていないのが実情だ。
その事を知っているはずのさゆたんたちが、今回悪ノリして作らせたのだろうと思った。
足を運んで頂きありがとうございます。
面白いと思っていただけましたならば、ブクマなどを頂けますと非常に嬉しく思います。
さげもんについての補足を――。
さげもんとは、福岡県の柳川市の女児祝い。要はひな祭りに飾る飾りです。
40cmの竹輪に赤白の布を巻きつけ、柳川マリやその他の人形を7列7個で49個飾りつけ、それをつるすもので高さは150cmぐらいあります。
山形県酒田市にも、さげんよりも大ぶりな傘福(笠福)と言う飾りがあるそうです。




