クランハウス⑮
人数が多かろうが少なかろうが、ボス捜索用に三つの班に分かれる。今回は、宗乃助・シロ・鉄男が一緒だ。
外周を見回りながら、公式にアップされていたと言う四次職の詳細を鉄男に確認する。
[[鉄男] ん~。えっとな。サブ増える]
[[白聖] え? それってアップデートあってから
サブ育てろってことか?]
[[鉄男] 多分な。じゃねーと、二次とか
三次カンストしてない奴らとの
開きができるから、運営も考え
たんじゃねーの?]
[[大次郎先生] うーん。そうなると狩り場争いおこりそうw]
[[黒龍] まー。運営もバカねーってことだろ?w]
[[ヒガキ] まだ間に合うってことですかね?]
[[キヨシ] 運営バカだからこそ、ゲーム病んでるんじゃ?]
[[宮様] ヒガキさんとゼンさん引きあげておきたいわね~w]
鉄男が語った内容に、サブクラスが同時スタートとなれば、間違いなく狩り場争いが起きるだろうと思えた。
運営がバカじゃないと言う黒に、キヨシがまともな言葉を返す。
ヒガキさんとゼンさんの引き上げは私もしておくべきだと思う。出来る限り狩りに誘おうとは思うが……代行の件も気になる。
やりたい事が目白押し過ぎる。あぁ、身体が二つ欲しい。
外周をモブを倒しながら歩きまわりボスがいない事を確認して、内側へと向かう。内を回っていた黒から、ボスを発見したと報告が入る。
場所は、東北東の広間らしい。私たちのいる場所から、二本先の通路の先にある広場だろうとあたりを付けて急ぎ進んだ。
[[鉄男] おまた~]
[[黒龍] おうw]
[[†元親†] バフバフ]
相変わらず緊張感がないクラチャでバフを集られ、ティタたちのPTが来る前にバフを回す。全体バフはまだ大丈夫だろうと個別バフのみにしておいた。
今のところボスの周囲が空いているため斬り付ける余裕がある。早速。二刀を取り出し斬り付けた。
そんな私の右にチカが陣取り、オラオラと言いながら大剣を振りまわす。
どこのヤンキーだと言いたくなるのを必死に堪え、攻撃をつけていた私の左にティタが入り込む。それを横目に個別のバフと全体バフを更新して、斬りつけ続けた私の後ろに先生が槍装備で立っていた。
[[ren] 退く?]
[[大次郎先生] ん~。大丈夫w]
[[ren] うぃw]
[[ミツルギ] その刀えぐい色っすねw]
[[白聖] 退くならチカだろwww]
[[†元親†] え? 俺?w]
[[ティタ] wwww]
[[さゆたん] renちゃんの装備は
真似したら破産するでしゅw]
後ろにいる先生に、邪魔なら場所を譲るつもりで聞いてみたけど問題ないらしい。それならばとお言葉に甘えそのままボスに攻撃を続けた。
シロの言葉に、あからさまに驚いた様子を見せたチカに、くすっと笑う。さゆたんの言葉が気になる。私の強化方法でやれば、破産はしない! 少なからず欲しい装備はできるはず……時間はかかるけどね。
いつもよりボスのHPが減るのが早いのはやっぱりミツルギさんと鉄男と言う火力が増えたからだろう。そう思いつつ、ボスの尻尾が、背面で攻撃する私たちを襲う。
それを避け近付こうとした刹那、ブレスを吐き出す前のモーションをボスが取る。
[[黒龍] 宮ネェ]
[[宮様] バリア]
黒に呼ばれ宮ネェがいつものようにバリアを張る。続けてチカがバリアを使いなんなくボスのブレスをいなした。
安定したボス狩りも悪くはないんだけど……やっぱり、あのソロで冷や冷やしながら狩る感覚の方が私的に好みだ。
脳内で一人あの感覚を思いだした途端、ボスが最後の断末魔の叫びを上げ倒れると黄色い粒子になる。
システムログを確認するよりも早く、スキル書狙いのティタがなんでだと頭を抱える。その姿に、年単位で通わないと出ないよ? と慰めと諦めを込め言葉をかけた。
先生が、全員に帰還を促し各々が帰還する。
最後に黒と先生と顔を見合わせ、帰還の護符を使いハウスへと帰還した。
ハウスに帰還し、皆は狩りに行くようで誘ってくれたが、やりたい事があると断った。
代行もやりたし、まずはさくっとキヨシの魔法書を作る。
熟練度と言うものが有れば、それだけ時間もかからなくなるはずだが……このゲームにそんなものは存在しない。
けれど、プレイヤー間の妄想に近い噂では、裏に隠れているのではないかと言われている。
頭では絶対にないとは思いつつも、必ず20回は同じ魔法書を製本で作ってしまうあたり……私もどこかで期待しているのかもしれない。
「よし、やるか」
無駄な事を考えるより手を動かす。脳内で、別の事を考えていても手は勝手に動くのだが、ミスの確率があがるので集中する。
メテオのペンタグルを見つめ、書き写す事数時間。
半分が終わったところで、部屋をノックする音が聞こえ集中が切れた。
「はい?」
返事をしつつ扉を開けば、そこにはミツルギさんが立っていた。思わぬ襲来に、少しだけ戸惑いを感じながらもどうしたのかと聞けば、折入って頼みがあると言われ事情聴くため、室内に招き入れた。
「えっと、飲み物……アップルとオレンジとミックスどれがいい?」
「ミックスでお願いするっす」
「うぃ」
アップルとオレンジを合わせミックスにして差し出す。
あきらかに、え? マジで? と言う表情でジュースを私を交互に見つめたミツルギさんの表情が、私のツボに入り声を出して笑った。
「はぁ。笑った。で? どうしたの?」
「あ、ジュースはそのまんまなんっすねw」
「うん。ミックスだから……美味しいらしい」
「あぁ~! それで、その聞きたい事がありまして」
「何?」
「その実はですね……PVPの結果のことで――」
ミツルギさんが言うには、加入PVPの結果全員が敗北した。にも拘らずミツルギさんはだけは加入できた事に対して、何故、自分は落とされたのか? その違いを知りたいから聞いて欲しいとリアル友に言わてたそうだ。
その答えを聞くために来たと言う。
「別に加入できなかったからって言う訳じゃなくて、その違いがなんだったのかを知りたいらしいっす」
「なるほど。まぁ、誰が言ったのかは聞かないでおくよ。
全員の詳細は覚えてるから、私的に却下にした理由を名前毎に言う感じでいい?」
「はい」
と言う事で、詳細に説明を入れながら、ミツルギさんにひとりずつダメ出ししていった。
一人目。春巻さんの場合。
まず動くと言う事が出来ていない。魔法攻撃職の人に多いことだが、うちのクランとしては、固定砲台じゃ意味がない。
クラメンの多くはそこに引っ掛かって居たので、それを理由にあげる。
「まぁ、うちのPKは基本全員が動くから、一人固定砲台やられても死ぬだけw」
「そう言えば、そうでしたね……今日のやつで、さゆたんさんもキヨシさんも動いてたっすね」
二番目の枝豆さんの場合。
あの人は動けてたとは思う。が、少しでもHPが減れば回復してしまう。簡単に言えば、オーバーヒールだ。
これは、回復職が一番やってはいけない事だと私は考えている。
例えばの話だが、MP枯渇気味の状態でオーバーヒールを繰り返せば本当に欲しい時にMPが無いと言う状態になりかねない。その為、枝豆さんは却下されたと考えている。
流石に、チカに負けたから却下なんて言葉は言えないので、理由としてそれをあげておいた。
「オーバーヒールは正直、下手がすることって言われてる」
「あぁ~。やっぱそこですか……本人もそれは言ってたのでw」
「分かってるなら今後期待できるw」
三人目のシュリンクさんの場合。
冷静に対処出来ていた点は非常に優秀だと思う。けれども、シロの言う通り同じ職、いずれ自分が使う可能性のある武器に対しての対処が甘い。
月弓・ツクヨミの効果を知りながら放置していた事、もし知らなかったとしてもそれは、本人の勉強不足であり、少なからず知らない武器に対して警戒するなり、対処するなりしなかったと言う理由にあげておいた。
「私は採用でもいいと思ってたけど、同職のシロの話を聞いて無いなと思ったよ」
「なるほど……確かにツクヨミの効果は、シュリンクも知ってたっぽいかったっすから、それの対処が甘いと言われたらそうなんっすよね~」
四人目の苑斬さんの場合。
これはもう、はっきりと伝えて良いだろう。
黒の挑発ごときで頭に血が上って周囲が見えなかった事。私が考える盾とは、誰よりも先に周囲の敵に気付き対処することだと思っている。なので、あの程度の事で周囲が見えなくなるようでは、一緒に戦う後衛を殺す事になるのだと説明しつつ理由を伝えた。
「そう言われると確かに苑斬は、直情型なんっすよ。あの性格なら、盾よりATKのが向いてそうっすね」
「こんな感じの理由なんだけど……いい?」
「はい。俺も納得できる理由だったんで、本人たちにも伝えておきます」
「うん。ミツルギさんの知り合いってことで、再戦と加入は受け付けるよ。
但し、同じメンバーと戦って貰うから、ダメだった理由が同じだった場合は以降受け付けないって言う条件が付くけどね」
「わかりました。伝えおくっすw」
どうやら無事に納得して貰えたようで私も一安心だ。
部屋を後にするミツルギさんが、ミックスジュースを一気に飲み干し「マズイっすねw」と言った。
それと同時に騙されていた事を知った私は、騙した相手を思い浮かべそのうち仕返しする事を心に決めた。
キヨシめ……何が美味しいだ――!
足を運んで頂きありがとうございます。少し長くなりました。すみません。
次回より多分章がかわります……不確かですみません。




