《解説》魔術属性と象徴石
第四章「第6話 二重生活のはじまり(1)」で主人公シャルルが受けた魔術の講義内容に沿った解説となります。
・属性と象徴石
古来から、六門のそれぞれの属性を宿す宝石や鉱物が存在している。
その生成においては様々な要因が考えられているが、ともあれそれぞれの石と魔術との相性関係は極めて良好であることは既知の事実である。
属性同士の相性と言う物も存在し、一般には火と水、土と風、聖と魔は互いに打ち消し合いが起こることは周知だろう。
一方で、この打ち消し合いが発生しうる属性同士を調和させることで莫大な力を生み出すことも可能であると古くから伝えられている。
それ以外の相性関係としては、聖は水と土、魔は火と風が比較的良好な相性であるとされている。
火:紅玉
水:蒼玉
土:翠玉
風:紫水晶
聖:黄玉
魔:爪石
高位の術者は自らの源流となる二門の属性を象徴する石を身に着けることも多いが、大概は衆目に晒す形ではなく懐に忍ばせる形で所有している。
また、これらの属性と存在の善性、悪性は一致することはない。
かつて降臨した天の御遣いの大多数が聖の属性であったが、その一部は人間の魂を狩り取ることを目的とした。
また、現在もルナティアの辺境で見られる妖精の中には魔の属性を持つ物もいることも確認されるが、それらが必ずしも人間に害を為しているわけではない。
・複合属性
人間のみが特権的に二つの属性を持って生まれてくることから、長らく霊長であると自負する向きも強いが、魔術の本質に迫れば迫るほど、これが大きな制約でもあることのように感じられる者も少なくはない。
単一属性であれば、相性が悪い属性という物は一つに限られるのであるが、複合属性を持つことにより、その相性関係が極端に悪くなる、複数の属性と相性が悪くなるなど、不都合な点も多い。
一般には血統、血縁でその属性の遺伝がされると言われるが、まれに例外的存在も誕生する。
火+水:陽炎:紅水晶
火+土:火山:赤碧玉
火+風:嵐:紅玉髄
火+聖:光:柘榴石
火+魔:日蝕:黒金剛石
水+土:津波:海玉髄
水+風:雷:電気石
水+聖:雨:水宝玉
水+魔:海:黒曜石
土+風:氷:瑪瑙
土+聖:黄金:黄金
土+魔:地震:孔雀石
風+聖:空:瑠璃
風+魔:月:月長石
聖+魔:天:金剛石
複合属性に関しては便宜上、象徴する属性の名は当てられているが、これらの属性を持つことが必ずしもその人物の性格や性質と一致するかと言われると疑問符が付くほど曖昧な物であり、学術的な分類とは言えない。
しかしながら、多くの場合において簡易な分類が出来ることもあって広く親しまれた物でもある。
相克関係にある属性の陽炎、氷、天は時に忌み子、時に時代の寵児と言われる。
互いの力が打ち消し合うため、これら三属性を持つ者たちの存在は限られる。
それ故に、氷の属性を繋ぎ続ける稀有な家柄としてクラウディア家とその家系の存在は大きい。
傑出した能力を示す者たちが代々の当主を務めており、王国内でも常に歴史書に名を連ねる。
ルナティア国内では唯一黄金が忌み嫌われている。
・象徴石と魔術
現在ルナティア領土内では天然石としての発見は稀であり、採掘もごく一部に限られる。
一節には古代帝国時代までに大半が採掘され尽くしたのではないかとも言われる。
天然自然で手に入る象徴石を含む宝石類や一部の鉱物が市場に出回ることは少なく、多くは学術研究などに利用される。
我々大衆が手にする物は魔術により合成、生成された物が普通だろう。
その組成や構成さえ分かってしまえば、専門の術者の手でいくらでも再現ができ、これら人工の象徴石でも魔術の触媒として十分に機能する。
では、天然で得られる象徴石に価値が無いのかと言われれば全く違う。
先にも述べたように、その希少性ゆえに時と場合によって政治的取引の材料ともなるほどである。
しかしながら、魔術の分野において触媒として扱うには不安定な面が大きい。
人間の手によって計算されて生成された人工の物の方がむしろ実用性があると言うのが実状である。
自然生成された宝石には世界の記憶が眠るとも伝わっているが、伝聞の類いでもあるとの説もある。




