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レジスタンス  作者: 猪仲
時を超える研究
4/15

国防軍総司令部の指令

【Г1059/4/1】



時間跳躍実験から約1か月たった。アンドレイとシガールは1000年後の日本技術をある程度精査し、使えるものはレベル3、ないしは4へ移譲した。非常に便利な技術ではあるが、特に秘匿する必要性はない技術ばかりで、アンドレイのほうは少し残念そうな雰囲気を醸している。



「シガール、1000年たっても人間が考えていることはあまり変わらないんだな、少し残念に思う」


「日本って国がこの惑星に成り立った国ではないからな、1000年の技術の差はないのかもしれないな」



この宇宙は広い。光の速度を超える手段は今の所確立しておらず、ワープ技術というのはワープホールを形成して物理的距離を縮める程度にとどまっている。ワームホールの生成や使用方法は様々である。



人為的にA地点からB地点へのワームホールを形成する方法


あらかじめワームホールを形成してゲートとして運用する方法


取り合えずワームホールを形成してワームホール内に移動してから出口を作る方法



などが挙げられる。他にも惑星によって手段が異なるだろうが、光の速度を越えるためには質量を0にする必要があるのだ。生物や機械がその速度を超えることは今だにできていない。


そしてもう一つ、必ずしも恒星間航行ができる知的生命体であるとは限らないのだ。山本が言っていた地球の座標を調査した結果、山本と同じような刀を持ち、変わった服装と髪型をした人間らしき人物が大部隊を編成して刀の打ち合いで勝負をしている様子が観察できた。



山本の話だとこれは日本国という国ができるずっと前の状態で平安時代と呼ばれる時代なのだという。天皇という君主が存在し、多数の貴族が争いを続けている。貴族たちは互いに国を持っており、君主はそれを統括する存在らしい。ずっと昔のヴァストークとあまり変わらないような気がした。


しかし技術力には決定的な差があった。自動車や飛行機などの燃料を使った乗り物はまったく見当たらず、馬を使った馬車や風を利用した帆船が主な乗り物らしい。これでは宇宙空間に進出するようなことは絶対に不可能だ。



このように宇宙にはまだ恒星間航行を有する文明ではないところも多く存在し、そこへの干渉は何の利益にもならないために多くの惑星は無視している。資源だって近郊の惑星から採取した方が圧倒的に効率がいい。


その土地にしか存在しない希少資源なんてものは当然ないので、調査にいくのも馬鹿馬鹿しいのだ。技術力の進歩と引き換えに効率化しか求めなくなったのは一つの退化と言えるかもしれない。




「アンドレイ、親父から緊急の連絡だ。至急国防軍総司令部に来てくれとのことだ」


「えー?なんで俺が?面倒くさいな・・・」


「時間跳躍機についての話だろ?お前が作ったものだからお前が責任をとれよな」


「わかったわかった、どうせ大した話じゃないだろうけど行ってくる」




アンドレイは技研を後にし、国防軍総司令部がある通称“オニヒトデ“要塞に向かった。



ここ技研や国防軍がある首都、ヴァストーク島は大洋のど真ん中に存在する元火山列島だ。現在火山の活動は終わっており、地政学的重要拠点だと睨んだ当時のヴァストーク政府が軍事拠点として開拓したのが始まりである。


その工事の最中に巨大な地下遺跡を発見し、その技術力の高さから軍事的拠点で、なおかつ重要な研究拠点として開拓する流れに変わった。



現在ではおよそ30万人が暮らし、5割の人間が軍や政府、研究機関の人間だ。それ以外は地下資源から物資を採掘する採掘拠点の近く(もちろんこれは政府が流しているカバーストーリーであるが)のため、貿易や資源加工関連の会社などが集まっている。


莫大な資金が動く都市になったために、それ以外の大手企業の本社や金融、証券取引所までが引越ししてきたためにヴァストーク最大の金融市場という顔まで付随することになった。



軍事基地としての重要性はそのままだが、要塞としての機能は完全に死んでしまい、オニヒトデ要塞はただの飾りとなってしまったのだ。現在生きている要塞の機能といえば、ヴァストークが持つ最強兵器”衛星砲“の発射基地という側面ぐらいだろう。


この衛星砲は惑星のどこにでも攻撃できる戦略兵器だ。第4次大戦の際には使われることはなく、他の国もどのような兵器なのかは理解していない。戦争状態を避けるためのカードとして温存している状況だ。



オニヒトデに到着したアンドレイは、真っ先に国防軍総司令部へ向かった。国防軍の頭脳であり、作戦指揮や軍隊育成、装備編成や偵察指揮などを一括して管理している。宇宙、陸、海、空の4つある軍隊のトップはほとんどこのオニヒトデで勤務している。


ということは当然アンドレイの父親である、エドワルト・ワーグナーもここにいるわけであり



「おー、アンドレイ!どうしたんだ?またアルフォードのやつに叱られに来たのか?」


「親父、そんなんじゃないさ・・・」


「そうか、ところで時間跳躍機とかいう装置の実験成功したらしいな!アルフォード喜んでたぞ?」


「別にアルフォードが喜んでもうれしくねーよ、今日はその件で呼ばれたんだ」


「ハハハハハ、じゃあ行ってくるといい」



父親と別れたアンドレイは、総司令部の司令官室の前にいた。重厚な扉の前に二人の兵士が立っている。要塞内部でもこの部屋は特に警戒されている部屋だ。



「アンドレイ・ワーグナーだ、司令長官に呼ばれてきた」


「アンドレイ・ワーグナー、確認した。入りたまえ」



重厚な扉が開き、30畳ほどの部屋の中央に大きなデスクがあった。部屋の側面には歴代の司令長官の写真が飾られ、部屋の一番奥には巨大なモニターに世界地図が映されている。世界地図には現在どこにどの部隊がいるのかわかるようになっていた。



「アンドレイ、よく来たな」


「ああ、要件ってなんだ?」


「お前が開発した時間跳躍機の今後についての話だ。君は国防軍の技術研究所にいるのはわかっているだろう?」


「そりゃーな、兵器もいくつか作っただろう?役に立ってるかは知らないけどな」


「世界大戦は起きてないから使ってない。抑止力として働いているのかは不明だな、まあそれはどうでもいい」


「どうでもいいのかよ」


「それより、時間跳躍機だが、我が軍の最大戦力である”母艦“に搭載することは可能か?」


「あれに乗せるのか?一体どうして」


「それを知る必要はない、できるのかできないのかどっちなんだ」


「今すぐできると解答することは不可能だ、現在はタイムマシンを転送することを前提に設計されているんだ。それを母艦に搭載するってことは時間跳躍機ごと飛ばすってことになる。そうなったら根本から研究や計算をし直すことになるからな」


「なるほど、ワープ装置と同じようにはいかないということだな?」


「その通りだ、ワープ装置は座標計算はその地点の座標から計算すれば簡単に算出できるが時間を超えてとなると基準がないと大変なことになる」


「では根本から研究をやり直してもいい、母艦に搭載できるよう改良しろ」


「一応考えておくよ、だが可能性は薄いと思ってくれ」


「いいや、やってもらわないと困る」


「アルフォードどうしたんだ?いつものあんたなら・・・」


「話は以上だ、では頼んだぞ」



半ば強引に部屋から追い出された。いつものアルフォードなら冗談の一つでも言って話が終わるのだが今回は違った。アルフォードは無理に要求を突き通すような人物ではない。仮にそうなら今この席にはいないだろう。


何かが違う、アンドレイは不信感をいだきながら技研へ戻った。



「シガール!!聞いてくれよ!」


「なんだなんだ、何かあったのか?」


「お前の親父さん最近何かあったのか?不倫でもあったのか??」


「は?そんなわけないだろ?僕もあんまり父親には会ってないから最近なのかあったかはわからないけどさ!一月前は普通だったじゃないか」


「ああ、一月前はな!なんか今日会った時変だったぞ」


「おめぇさんら、何かあったのかい?」


「ああ山本!あんたはアルフォードにあったことあるか?」


「いや、おいらはあの実験の時にチラッと見たくらいで面識はないとおもうねぇ」


「それもそうか、すまんな山本」


「いいや、気にすることはねぇさ。ところでオメェのところの妹だが」


「リナが何かやらかしたのか?」


「いや違ぇ、あの嬢ちゃん見込みがあるねぇ。凄ぇのなんのって」


「まあワーグナー家の剣術マスターだからな、剣術に関してなら何を学ぼうとも優秀だろうよ」


「兄は知らないかもしれないけどさ、私は勉強も優秀だよ!」



まさか後ろにリナがいるとはまったく気がつかなかったアンドレイは、きゅうりを後ろに置かれた猫のように驚いた。



「そんなに驚かなくてもいいじゃない、それより兄!これみてよ!」


「え?今更どんな剣術をやってももう驚かないぞ」


「いや、剣術じゃなくて私スキルクラフトだったみたいなんだよ」


「へ?スキルクラフト?なんでさ?お前スキルクラフトの適正検査でスキルクラフトじゃないって」


「だって、ほらほら!電気を操作するスキルみたい」



アンドレイは再び驚いた。コンセントにむき出しの電線を差し込み、そこから漏電させた電気を手のひらで放電させずにとどめていたからだ。どうやらスキルで電気を生み出すことはできないようだが、電気ならなんでも操れるのかもしれない。


適性検査ではこの手のスキルを見つけるのは困難なのである。偶然発見したにしてもどういう状況からこんなことができると気がついたのかは想像もつかなかった。



「まぁそういうことだアンドレイ君。弟子のために新しいRM剣を作ってくれねぇか?」



「要するに通電性を持たせたものを作れってことだろ?ヴァストーク七大宝剣ってのがあってな、その中に電気を帯びた剣があるんだ。その剣は電気によって剣に高周波振動を発生させて、どんな物体でも真っ二つにできると聞いたことがある。俺はそんな代物見たことないんだが、理論上は可能だからな」


「やったー!お兄ちゃん大好きー!」


「頼むからお兄ちゃん呼ばわりしないでくれないか?怖いんだが」



アルフォードへの不信感と、リナにスキルがあった事実を目の前にとりあえず新しいRM剣の制作を進めることにした。時間跳躍機の改良はとりあえず進めるだけ進め様子を見ることにした。

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