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レジスタンス  作者: 猪仲
時を超える研究
3/15

1000年後への時間跳躍実験

【Г1058/12/1】



ヴァストーク国防宇宙軍、5つの巨大国で構成されているこの星で宇宙軍はここにしか存在していない。過去に4回惑星内で大規模な戦争があり、4回目で5つの大国に別れた際に決められたルールだ。


ヴァストークは宇宙軍、宇宙開発権を完全に掌握する代わりに惑星外の敵対勢力にたいして武力行使を行うことになっている。また、惑星内において戦争状態になった場合、圧倒的な戦力となる宇宙軍は使用禁止である。



アンドレイと山本は緊急用ドッグに到着した。通常の船舶と同じような乾ドックであるが、宇宙艦船といえど惑星に入った場合水上航行することが非常に多いため、通常の艦船のように乾ドックで整備されることが多い。



「すげぇ・・・これが山本の、いや日本軍の宇宙戦艦・・・」


「ああ、第3艦隊旗艦大和だ」



300mはあろうかという艦体、巨大な艦橋。主砲らしき砲塔は3つ存在している。しかしどの兵器もカバーがしてあり戦意はないと言わんばかりである。ほとんど水上船のようで、後部に安定翼が設置されている。



「こいつはすごいな、ヴァストークの戦艦とどっちが強いかな」


「さぁな、実際にやってみねぇとわからんな」



甲板にあがり、内部に入った二人は、艦橋の最上部にある制御室へ向かった。制御室は10人程度で運行するよう設計されているように見える。艦長席と思しき場所に山本は座った。



「さて、おめぇさんに見せてぇのはコイツだ」


「これは・・・・」



制御室のメインモニターに写ったのは3つの輪を基準とした設計図だ。これは紛れもなくアンドレイが現在制作している時間跳躍機の基本理論である。



「こいつはな、この島で発見したものをリバースエンジニアリングしたものだ」


「なるほど、1000年持たなかったということだな・・・」


「あの機械はおめぇさんが作ったのか?」


「ああ、山本が見たものはまだ作ってないはずだが、おそらく俺が作ったものだ」



確定はしていなかったが、1000年の時間跳躍まではできるように設計してある。ただ機械のほうは持たなかったようでわざわざリバースエンジニアリングする必要があったようだ。



「この情報を知っているということはやはり時間跳躍してきたのは事実だな」


「やっと信じてくれたかい、そいつぁよかった」


「リバースエンジニアリングしたといったな、どこまで組み立てた?」


「3つの輪を不規則に動かし、超高電力を3つの輪にかけて時間の流れに穴を開ける。そんで電力に応じて移動する時間が変わるとおいらぁふんでいるな」


「やはり大体あっている。やはり俺の理論は正しかったな!」



アンドレイは目を輝かせながら仮説が確証に変わったのを嬉しがった。



「それじゃあ俺の研究を手伝ってもらおうかな?」


「それってタイムパラドックスになるんじゃねぇか?」


「いや、理論はもう完成してるから機械の制作を手伝ってほしいんだ」


「それなら問題ねぇだろうな、わかった協力してやるよ」


「シガールに事情を説明しないとな、技研に戻ろうか」



技研のレベル3区画に戻り、シガールを呼んだ。現時点では一般人だが、難民として登録すれば職員として働くことができる。もちろん技術や技量が最高レベルでないといけないのだが、問題ないだろう。



「シガール、こいつがさっき連絡した山本吾一だ、時間跳躍してきた」


「こいつぁ副所長さん、山本でい。アンドレイくんのサポートをしたいんだ、よろしく頼むぁ」


「シガール・エルディアです、こちらこそ無鉄砲なアンドレイをお願いします」


「シガール、余計な一言はいらないぞ?」


「ははははは!いやいや、おいらのほうが世話になりそうだな!」



挨拶も終え、正規ルートでレベル5区画の研究室へ移動した二人は、早速時間跳躍機の改良を勧めた。シガールから追加予算の知らせを受け、いよいよ長い時間の時間跳躍に向けた本格的な研究が始まったのだ。




【Г1059/1/20】


アンドレイが自ら時間跳躍した実験から1ヶ月ほど経過し、正規実験として改めて人体実験が行われた。被験者は山本で、実験は無事成功し1日の時間跳躍に成功した。


別の場所で作っている本格的な時間跳躍機実験施設のほうも、もうすぐ完成する。完成次第機械の限界である1000年の時間跳躍に挑戦することにした。



「サイズは小さいが実質これが完成形だ、ついにここまできたな・・・」


「いやぁ、一緒に作業してアンドレイ君は凄いと自覚すらぁ、お前は凄い」


「俺はまだまださ、古代人を一つの技術で超えたところでそこまでだからな」



時間跳躍機V1、大型のコンデンサーに繋がれて3つの輪はそれぞれ空中に浮いている。操作は全てコンソールに集約されており、時間跳躍を起動するときはレバーを上げる必要がある。レバーにした理由は誤作動率を下げて安全性を高めるためだ。



乗り物の名前はそのまま「タイムマシン」と名付けた。タイムマシンは自立して飛行することができ、ある程度の耐久力を有している。ただし、タイムマシン単体で時間跳躍することはできない。



タイムマシンは新しい専用の実験施設でも使えるように設計してあるため、そのまま持ち出すことができる。



すべての準備が終了した。



【Г1059/1/30】



時間跳躍機実験施設”ツァイトヴェトリーブ”がついに完成した。強化樹脂剤というヴァストークが開発した鋼より引張、圧縮力、熱耐性があり、更に鋼の1/100の軽さを持った素材をメインに作られた強固な施設だ。


セキュリティも技研のレベル5区画と同レベルまで引き上げられ、レベル5研究員も何人か配備された。発電施設は地下に作られ、最大800京EUの電力を発電することができる。アンドレイが提示した条件は完全に網羅された。



施設に電源が入れられ、起動実験の準備が整った。あとは1000年後に行く人選と必要な手続きを済ませば実験を開始することができる。しかしその人選が問題だった。



「1000年施設が持つ保証はない、飛ぶことができても戻ることができるかわからない。そんな危険な実験だ。俺が行こうとも思ったが却下された」



「それは当たり前だろ、研究の当事者を失ったらその時点でその研究は頓挫するんだ。それより人選の件なんだが、ナビを押したい」



「ナビ?なんでナビなんだ?研究者じゃないだろ」


「ナビのスキルは大いに役に立つと思うんだ。緊急時離脱することは容易だし」


「たしかにそうだが・・・戻ってこれなかったらどうするんだ」



いつになく弱気なアンドレイ、シガールも妹が危険な実験の被験者になる事に大して何も感じていないわけではないはずだ。だがシガールは続けて言った。



「たしかにそうだ、だが1000年後ヴァストークがあるかもわからない。もし見知らぬ人物が変な乗り物、もしくは古臭い乗り物に乗って現れたらどうなる?敵対してきたらどうするんだ?ナビならタイムマシンごと飛ばして隠れることもできる」



「現地の対応力が高いから生存確率も上がるということか・・・理にかなってはいるが・・・」


「いつも強気のお前はどうしたんだ!決断しろ!ナビを信じろ!」


「ウチなら大丈夫だよ、あにぃ」



シガールの背後にナビがテレポートしてきた。さっきの会話を聞いていたようだ。ナビは自信に満ちた表情をしながらアンドレイのもとに向かった。



「ウチを心配してるみたいだけど、心配ないぞ!」


「しかしなぁ・・・」


「あにぃそんな自信がなくなるような人じゃないじゃん!今回はなんでそうなったんだよ」


「アンドレイ君、お前の装置は1000年立っても生きてる。おいらがここにいるのが何よりの証拠じゃないか」


「山本・・・」


「なぁーに、なにかあったならオイラたちが迎えに行けばいいだけよ!」


「・・・わかった、ナビを実験の被験者に採用する」


「了解!」



敬礼のようなポーズをとり、ナビは安心したような顔で再びどこかへテレポートした。これで実験を行うすべての準備が整った。



「ところで山本、ナビのスキルを見てなんで驚かなかったんだ?」


「ああ、そりゃー副所長の手伝いをしてたからでい」


「スキルの研究を手伝ってもらっていたんだ、空き時間にな」


「で、進捗は」


「いい感じだ、また一つスキル発動の原理を解明できたよ」


「まあ、進んでるならよかったな、俺は書類を国防軍に提出してくる。受理され次第準備をして実験を開始する」



そういってアンドレイは施設をあとにした。時間を行き来することができる装置、この装置をどう使うかなどは眼中にはない。ただただ実験を繰り返し完成させることが研究者としての使命だと考えているのだ。




【Г1059/3/1】



実験当日、ギャラリーにははじめての時間跳躍実験を見学していた研究者、軍関係者、そして政治家に加えて国防軍総司令官のアルフォード・エルディアの姿があった。


国防軍のトップにして、シガールやナビの父親だ。白髪交じりの黒紫色をしたオールバックで、左胸に勲章がいくつもついている。室内でもサングラスを欠かさずつけているのは何故だかは誰にもわからない。



時間跳躍機のコンソール前にアンドレイが立っている。山本が設備の最終点検を終えて時間跳躍機の下から出てきた。



「研究者にとってこの瞬間が一番緊張するねぇ」


「そうだな、俺も珍しく緊張してるよ」



実験開始時刻が迫り、施設にアナウンスが流れる。



<<時間跳躍機システム、電力貯蓄率80%>>

<<安定電力まであと160京EU>>



「アンドレイ!タイムマシンの食料、燃料、電池の点検が終わったぞ!」


「あ、ああ、すまない」


<<電力貯蓄率95%、時間跳躍機メインシステム起動>>

<<時空アンカーの転送先情報を読み取りました>>



「あにぃ、ウチはそろそろタイムマシンに乗るよ」


「いいか、なにかあったらスキルを使えよ。移動する前なら大丈夫だ」


「あにぃが作ったものだろ?ウチはあにぃを信じるよ」


「・・・それもそうだな、じゃあ健闘を祈る!」


<<電力貯蓄率100%、三環機回転開始>>

<<作業員、研究員は退避してください>>



「これから1000年未来への時間跳躍実験を開始する!!」


「再出現は3日後だ、時間跳躍機起動!」



半ば叫びながらそういうと、アンドレイはレバーを思いっきり上げた。



<<実行コマンドを確認しました、時間跳躍機起動します>>



実験機とは比べ物にならない量の光を放射し、タイムマシンは姿を消した。次に出現するのは3日後の同時刻だ。施設内の人間はひとまず解散した。


時間跳躍機の電源を落としたが、発電機は可動させた。成功しても失敗しても改めて実験するかもしれない。アンドレイは一通り機械を点検して施設をあとにした。



【Г1059/3/4】


時間跳躍機を起動させたときより人が多くなった施設内。時間跳躍機は帰還するときには作動しないが、一応電源は入れていた。あと3分で1000年後から戻ってくる予定になっている。



「無事に戻ってくるといいが・・・」


「まあ問題ないだろうよアンドレイ。それよりこの機械をどう使うかが問題だと僕は思うけどな」



シガールは危惧していた。時間を移動することができるということが一体どういうことなのかをわかっていたからである。アンドレイは研究さえできればそれでいいと思っている。


しかし、時間を移動できるというのが一体どれくらい危険なのか試すことができない。タイムパラドックスが発生したと仮定してそれで世界が滅亡するか、しないのかなぞわかるわけもない。


そもそもタイムマシンが他の時間に移動した時点でその世界の質量が増えるし元の世界は減る。それはタイムパラドックスではないのだろうか?そういう意味では発生しない可能性もある。



「さぁ、出てくるぞ」



淡い光とともにタイムマシンが出現した。アンドレイは少し安心した顔を見せながらタイムマシンのもとへ向かった。



「あにぃ!ただいま!!」


「おう、無事でよかった」


「ナビ、よくやった!これで実験は大成功だな!」


「そうそう、1000年後の世界だけど山本さんのお仲間がいたよ」


「ナビ、日本軍のことか?事情はわかってたか?」


「いや、わかってなかった。でも山本って名前を出したら納得してくれた」



どうやらこの時代に山本が来たのは向こうでも知られていないようだ。なんのために独断でこの時代までやってきたのかはともかく、山本も1000年の時間跳躍をしたのは事実だと証明された。



「そうだ、その日本軍から技術をもらってきたよ」


「何?どんなものだ?」


「えっと、凄い硬い石とかあと物質を圧縮する技術だったかな」


「山本が言ってたやつだ、ここの設備じゃできないっていってたな」


「アンドレイ、早速解析と制作をやるか」


「ああ、この研究も一段落したしな。楽しみが増えた」



ナビはまだいい足りない雰囲気を醸しながらも、もう一つ頼まれたことのために親父のほうへテレポートした。


「お父さん、1000年後の日本軍ってところのトップが渡してくれって」


「ん?ワシに何を渡すっていってたんだ?」


「何とまではいってなかったけど、時間を超えた友人ができて光栄だって言ってたかな。悪い人じゃないように見えたよ」


「そうか、軍に帰り次第開封しよう」



「無事に1000年の時間跳躍に成功した!!ここまで長いようで短い研究期間だったが、1000年後の技術とやらを入手することに成功した!今度はその研究をしたいと思う、報告はレベル5研究データベースに入れておく」



そう高らかに宣言すると、アンドレイとシガールはタイムマシンを操作して技研のほうへ向かっていった。

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