なんか現れる予感 恋はしません
前回のまとめ。と言えばいいのだろうが、単純に自分の扱う魔法の不備を冷静に突かれ意気消沈するジョージ。そしてそのジョージを無理やりカバンに詰め込んで向かった街。
ジョージ既にノックアウト寸前。
そして、いつになったら少年は魔法を使うのか。魔法少年ムラカミのタイトルのくせに魔法の描写が一切出るどころか、僕が一人称の主人公の名前すら出てこない。苗字斉藤らしいけどなんでなん。ムラカミちゃうやんとかツッコまれそう。
そして、少年の対応がいちいち黒い。腹黒いというか一歩間違うとグロ画像になる。
がんばれジョージ。負けるなジョージ。腹グロ主人公を何とかして魔法少年にするのだ。
「なんか電波的な何かを受け取ったような気がする。ああ、頭が痛い」
「ぬいぐるみには脳みそがあるのでしょうか。とりあえず専門機関で調べてもらうのはどうですか。全身解剖してみたり」
町に着いたとたんに、いきなり目が覚めたかのようにして喋り始めたぬいぐるみに釘を刺す。えっと物理的にではないですよ。言葉という形で、ですからね。
そんな僕の印象が悪くなる原因があるとは思えないですが、ところどころ意味不明な電波を受け取ることが多いので誰かに対して媚を売る。
「それにしても、人が多いな。あれであろうこのようなときは人がごみくずのようだと叫ぶのが礼儀なのだろう」
何に影響されているのか丸わかりであるが、それに一々ツッコミを加えるのも面倒になってきた。そして、愉悦ボイスにも慣れてきてしまった。
「ふむ、それにしても斉藤少年。やはりこれだけ人間がいても魔法の素質のあるものはいないようだ。ここはひとつ、わたしと契約して夢の魔法少年ライフを送るというのはいかがなものか」
懲りていないのか、またそんなことを言う。
「黙ろうか」
人に見られる心配がないカバンの中から、先ほどからごちゃごちゃっと口を開き続けている。ずっと再起不能のボクサーのように白く燃え尽きてしまわれても面倒だったので、人から見えなければ、良いじゃないかと提案すると息を吹き返したように喋り始めた。
他の人に聞こえないことをいいことに僕に話しかけてくるが、それに答える僕の声は他の人に聞こえる。
傍から見ると僕一人だけが、独り言をぶつぶつと呟いているというなんとも危ない絵になる。それだけは避けたい。どうにか避けたい。周りから「え、なんかあの人さっきから一人で話している」とか「なんか危ない感じの人かな」みたいな目で見られたくないのだ。
どうすればいいか。これはかなり迷うところだ。
「む、少年よ。先ほどから何か振動しているぞ。これはなんだ」
「携帯だよ。気にしなくていいから、あれ?携帯?そうか、それを使えばいいのか」
というわけで携帯を片耳に押し当てたまま、街を歩く。こうすれば何かを喋っていても不自然ではなくなる。いいアイデアなのではないだろうか。
「ふむ、それは連絡装置の一つか。この星の技術力の進歩も目を見張るものがあるようだな」
耳に当てている携帯を見て、そんな感想を口にするぬいぐるみ。大丈夫です。あなた方の国?星?のほうが謎の技術力が発展していることが分かります。変態具合という点でも、日本をしのぐ勢いを持っていることだろう。
だってこんなぬいぐるみにお喋り機能を付け加えているんだぜ。納得の変態技術ではないか。
「ふむ、かなり人を見かけたが、やはり素質のあるものはそう簡単には見つからないものだな。しかし、これほどまでに人の数が多いとは、驚きだ」
街の中を一時間は歩き回っただろうか。商店街にアーケード街、そして駅前。さすがに足に疲れを感じたため、街の中心部に位置する広場のベンチに腰掛ける。
「何を言うかと思えば、そんなことか。これでもこの街は地方の小さな町にしか過ぎないんだよ」
「これで小さいというのか、何とも規模が違うことをありありと見せつけられている気分だ」
カバンの中で身を潜めていたジョージはそんなことを言う。
「それにしても探しても見つからないもんだね。魔法の素質って見ただけで分かるようなものなの?」
僕は昨日から気になり続けていた疑問に触れることにした。ジョージにしか分からないのであろう何かなのだろうが、それでも魔法の素質というものがどんなものであるのか気になってしまっていた。
「わたしほどであれば、見ただけで分かる。それはその人間からあふれ出ているオーラのようなものの色で分かるものだ。少年の妹であれば、魔法の素質はないが、体力などの素質は恐ろしいものがある。出来れば関わりたくないほどのオーラが見えた」
どうやらジョージの中では、妹はトラウマになっているようだ。それもそうか投げられ、回転投げされ、ハンマー投げもされたのだからそれ相応の危険対象としてみるに決まっているか。
「それに比べてだ。少年は体力のオーラよりも魔法と扱うものに特有のオーラが色濃く出ている。それがわたしの言う魔法の素質だ。わたしから見ると、少年の体はオレンジ色のオーラに包まれているように見える」
そんな風に見えるのかと感心するが、そのオーラとやらが見えない僕にしてみるとどうでもいいことだった。
「む、何か近づいて来るぞ。この周波数は」
ジョージがそう言った瞬間の事だった。空から何かが降ってきた。大きさにして数メートルほどの物体が地上に向かって落ちてくる。それは昨日見た光景に酷似していた。
一つ違うと言えば、時間帯であろう。昨日は夜の闇を切り裂くように閃光が落ちていった。しかし、今は昼。その物体は太陽の光を遮るように落ちてくる。
一つに見えたそれは、いくつもの塊だった。
「早すぎる。もう始まっていたのか」
「何が?」
「今は説明している暇はない。早くここから離れろ」
ジョージの言う通りに、いくつものの塊が落ちてくる可能性のある広場から離れる。謎の塊はその勢いのままに落ちて、落ちて、あれ?
落ちてこないんですけど。なんか空中で止まったままホバリングしている。
「何なの?あれ?」
僕の問いにジョージは深刻そうに言う。
「あれは私たちの敵だ」
いや、深刻そうに言われても言っているのはぬいぐるみだし、顔の表情が一切変化ないから深刻さが微塵も感じられない。
だが、とりあえず分かったことが一つ。
なんか面倒なことに巻き込まれそうな気がする。