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魔法少年ムラカミ  作者: 菊水 一心
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命名ムラカミ ただし、変身はしません

 少年は悲劇に出会う。

 それは何と言うかいたたまれない悲しい運命。

 被害者は少年。ここまで固有名詞として名前すら出てこない主人公である。とりあえず便宜上ムラカミとしよう。なぜムラカミか?

 某愉悦系ぬいぐるみがそう命名したからとしか言えない。これはひどい。主人公の名前が出てこなかったり、呼ばれなかったり、主人公の名前を知っているものはなんか死んじゃう小説はいっぱいあるけど、名前が出てこないからって勝手に命名されることが今まであっただろうか?

 少年は涙で枕を濡らしても仕方がない。いいぞ、存分に泣くがいい。そのままにそのぬいぐるみを抱き枕扱いして首を絞めてやってくれ。



 「なんか変な電波を受け取った気がする」

 目を開けるといつも通りの自分の部屋。朝日が入る東側の窓。本棚の上に置いてあるいくつかの小物とそしてぬいぐるみ。床に置きっぱなしになっている学生カバンに全開に開けられているクローゼットにある見覚えのある学生服と身に覚えのないカラフルな衣装。

 あれ?僕の部屋だよね。いくつか身に覚えのないものがある。ぬいぐるみに衣装。

 「ふむ、少年。ようやく起きたようだな」

 聞き覚えのある、二度と聞きたくない声。渋いおっさんの声。なんか愉悦とか言いそうな声。

 本棚の上にあったぬいぐるみが宙に浮く。

 「ほら言っただろう。君は魔法少年にならざる負えない事になると。潔くわたしと契約することで魔法少年になると良い。そうすれば、君に秘められている魔法の力が覚醒することに、くぎゅ」

 目覚めの悪い朝をご提供したぬいぐるみにはそれ相応の対応が必要になると思う。

 「いや待て、無言のまま私の頭を掴んでどうするつもりだ。いや、やめろ。それ以上はわたしの体は絞ることはできないぞ。わたしは雑巾ではないだからそれ以上はやめ、やめ。グロ画像になるぞ。いいのか朝から提供できない様なグロ画像になるぞ。やめて捻らないでそんな体操選手じゃないからひねりとかできないから。シライとかつぶやかないでホント、無理。綿が出ちゃう。なんか出ちゃうから」


 自主規制


 「ひどい目に合った」

 ぬいぐるみはそう言うと頭を押さえる。時計を見るといつも起きる時間より早い。睡眠時間が奪われたのは目の前のぬいぐるみのせいか。そうか、やっぱこいつどうにかしないと。

 「燃やすか」

 「君は何と恐ろしいことを言うのだ。こんなに見る目麗しいぬいぐるみを燃やすというのか」

 「それじゃあ、八つ裂きにするか」

 「それはだめだ、これ以上お茶の間に見せられないよを出すことはできない。綿とか中身とか色々出てしまうではないか」

 「中身、中身言ってるけど本当に中身なんかあるのか?中身腐ってるんじゃないか?」

 腐っていると言われたことにダメージを食らったのかぬいぐるみは膝から崩れる。その姿すらぬいぐるみであるため可愛らしいが、如何せん中身が腐ってそうだしな。

 「それでぬいぐるみ。僕に何の用だ?馬鹿馬鹿しいことなら二度と喋れなくなるようにその口縫い付けるからな」

 とりあえず、昨日の授業で使った裁縫道具をカバンの中から取り出す。そしていつでも縫い付けができるように針に糸を通して一本取りをする。針通しなんか使わなくても、モノの数秒で準備は出来る。

 さて、あとは縫い付けるだけか。

 「早まるな、頼む早まるな」

 ぬいぐるみから冷や汗が噴き出ている。うん、見ていて不思議な光景だ。気持ち悪い。だが、こいつの謎の生態を把握するために研究機関に売り飛ばすというのもいいかもしれない。 

 「何を考えているのか分からんが、わたしにとって良くないことであることだけは分かるぞ。頼むから話を聞いてくれ」

 「なら、早く話してくれ。とりあえず、お前の名前と目的、そしてなんで僕にこだわるのかを明確にはっきりと教えてくれ。隠し事なんかしようとするなよ。その口を縫い付けてどっかの大学か研究機関に売りつけるからな」

 小さくを悲鳴を上げる。

 「少年、君は何と恐ろしいこと」

 「早よ、喋れ」

 「わたしの名前はジョージ。魔法使いだ。わたしの目的はわたしと共に戦う魔法使いを探すことだ。この星はあと何日かで、ある外宇宙に組織によって侵攻される可能性がある。だからこの星を守るために共に戦える素質を持つ魔法使いを探しているのだ。そして、その素質を持っている君にはわたしと契約して魔法少年ムラカミになって戦ってほしい」

 

 「は?」

 

 意味が分からないことだらけではあるが、とりあえず。

 「なぜに魔法少年ムラカミなんだ?」

 「なぜって、語呂が良いだろう」

 とりあえず、縫い付けまではいかなくてもガムテープで口は塞いでおこう。ついでに動けないように両手足を縛っておくか。


  

 「あら、早いわね」

 リビングに入ると既に母さんが朝食の用意をしていた。味噌のいい匂いがするからたぶん味噌汁用意だろう。

 「起きてきたか、おはよう」  

 父さんは椅子に座って新聞を開いている。

 「何かニュース載ってた?」

 「昨日の変な光の事について書かれている記事があるが、それ以外は特に変わったことは書かれていないな。テレビをつけてくれるか」

 父さんに言われたままにテレビの電源をつけると、昨日の光についての話がトップニュースになっている。それ以外はスポーツに芸能と変わり映えしない。おっと、野球は東北ライブゴールズがサヨナラ勝ちか本拠地は勝ち越しだな。

 「ゴールズは今年はクライマックスいけるかもね」

 「怪我人が出たりしなかったら可能性はあるな。3位と2ゲーム差で、首位と5ゲーム差か」

 父さんは新聞から目を離さずにそう言う。新聞の方にはより細かく順位表やゲーム差が載っているようだ。

 「おはよう」

 元気にリビングに入ってきた妹。その手には朝から僕を憂鬱にさせたぬいぐるみ、改めジョージがいた。心なしかぐったりしているようにも見える。

 「はい、おはよう。持ってきたんだ、それ?」

 「兄さんを起こそうと思って部屋に入ったら、紐に縛られてるぬいぐるみ見つけたの。これ兄さんのなの?」

 「いや、違う「それじゃあ頂戴」けど、それ借り物で返さなくちゃいけないんだよね」

 ふーんと貰えないと分かると興味なさげに応える。我が妹様は少しばかりわがままなようだが、聞き分けがいい。

 「それにしても何で紐で縛られているの?」

 「ああ、それはそういうデザインなんだよ」

 用意してあった答えを間髪入れずに言う。携帯で調べながら縛ったにしては、出来がいいのかジョージは、動かない。まあ、動いたりしたら、どうなるか。妹にいいおもちゃにされるだけか。

 「まあ、いいや」

 と完全に興味を失った妹はぬいぐるみを僕に渡す。

 仕方なく、僕はぬいぐるみを部屋に戻すべく二階に上がるのだった。




 「ひどい目に合った」

 「今日その言葉を聞くのは二度目かな」

 周りに人がいない環境でようやく喋れる環境になったのか、ジョージは疲れたおっさんのような声でそう愚痴る。何とも哀愁漂う。バスで時折見かける通勤帰りのおっさんのようだ。

 「朝から縛られるは、振り回されるは、カウボーイの投げ縄の気分になるは、ハンマー投げのハンマーの気持ちになるは。ほんと、なんて日だ」

 どうやら妹には投げられていたようだ。それもハンマー投げの要領で。

 「もう酔う。回転しすぎて酔う。何であんなに回っているのに足元がふらつかないんだあの小娘は。化け物か」

 ジョージの中では、我が妹は化け物の一種のようだ。分からんでもない。あの体力オバケの妹には、男女の性差は機能していないのかもしれないと思わせるものがある。どうにか年齢やらなんやらで今のところ体力測定ではあの体力オバケに勝っているが、もう数年としないうちに抜かされるかもしれない。

 「あいつなら、魔法少女やるかもな」

 なんにでも興味を持つ妹ならば、面白そうという単純な理由でやるかもしれない。まあ、家族の誰かが止める可能性はあるが。

 「それはない」

 だが、それ以前にジョージが認めない分には魔法少女になれないだろう。思った通り妹に会っても反応の悪かったジョージは否定する。

 「あの小娘には素質はない」

 「ふーん。素質ってそんな重要なのか」

 「重要だ。というより、それ以外に必要なものはないと言ってもいい」

 そうは言うが、それ以外にも必要なものはありそうな気がする。例えば興味・関心とか。

 素質のあるものに片っ端から声を掛けていって興味がある奴に寄生したほういいんじゃないかと思う。まず、その素質とやらがある僕は一切興味を持っていない。興味のない奴はどれほど言葉を掛けられようが、絶対にやらない。

 「僕以外の誰かを探したほうが建設的なんじゃないか」

 そう言うと、ジョージは黙る。

 一分ほどの沈黙の後、ようやくその口を開く。

 「移動手段である船がなくなってしまった現状では、移動は危険を伴う」


 「は?」

 トンデモ設定がここでも現れることになるとは...



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