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風子 小料理屋をする

 少し話を元に戻して、風子が保険勧誘を始めてから間もなく、貯金ばかりでは面白くないのに気が付いた。有効利用しなくては!と、考えるようになっていた矢先、


 たまたま、街の飲み屋に営業の積りで行った時、隣に座って静かに飲んでいる中年の男性がいた。隣同士になったので、会釈の積りで、話をしているうちに、その男、飲食業をして資金繰りが思わしくない、もうこんな仕事辞めたいと、話し出した。


「じゃあ、私が買ってあげるよ」

「エッ!? お姉さん、冗談はよしてくださいよ」

「冗談でこんな大きな話は云えないよ!」


 男は戸惑いの言葉を投げ掛けるが風子は全く恐れるでも無く返答する。


 お金を持ち過ぎている風子は、繁華街に一つぐらい不動産を持つのもいいなあ!

と、考えていた時であったのだ。


 それは単なる気まぐれであったのかもしれない。だがこの人の良さそうな男を助けてやろうという考えも確かにあったのは事実であった。


 風子は今まで大事なところでは直感が冴え渡り、その直感を決して気の迷いとは思わずに従ってきたのだ。その直感が“買うべし”と告げていたのだ。


「実際見ないといけないから明日物件を下見に行くわ」

「本気なんだな」

「もちろんよ」


 なおも戸惑う男に風子はニンマリと笑って返答する。


翌日、その店に行くと思った通り、飲み屋街の一角に5坪ばかりの土地付き建物が思ったより安かったので、その場で手付金を支払った。男はハトが豆を飲み込む時のような顔をして驚くがすぐに実感が湧いたのだろう喜色を浮かべるのであった。


 風子は別に飲み屋をしようと思ったわけでもなかったから、しばらくはシャッターを閉めたままにしていた。


 そして、入院して退院、会社を辞めた後、ゆっくりしていたが、逆に言えば思案にかける時間が大幅に確保できるという事であった。


(この辺りで全く違う仕事もしてみたい!やってみよう!)


 風子はそう決断するとちょうど手に入れた建物を利用することを考えた。


(さて……どうしようかしら……そうだ!!)


風子は考えたら即実行に移すというのがモットーだ。


風子が選んだのは新鮮な魚料理だけの小料理屋である。店名は「海山」とした。


 板前は従弟で免許を持っている実君が来てくれたのだ。


「実君、料理の事はあなたに任せるわ。頼むわよ」


 風子の言葉に実はしっかりと頷く。風子の言葉は板前にとって信頼の証のようなものだ。この信頼に答えないのは板前としての矜持が許さない。


「任せてくれ。それで風子さんは何するの?」

「私は皿洗いと営業よ」


 実の言葉に風子は力強く返答する。板前に直接責任を持たせると言った以上、風子としては調理場に出来るだけ立ち入るつもりはなかったのだ。また板前に直接責任を持たせるのが一番良いし長続きがする事を知っていたし、客の様子が黙っていて分かるのだ。


(今までの保険会社での名刺があるから案内を出すとしましょうかね)


 風子は保険会社時代の人脈を早速使う事にする。そうするといとも簡単、今までの保険会社での名刺がざっと3000枚もあるのだ。

案内を出したところ、初めのうちは、たった5坪の店に10人座るか座れないところに、わんさと客が集まって来たからたまらない。

 入れなかった人が怒って帰った人もいたが、住所だけは確かめて後から電話などして手土産持って行くとさらに近しくなっていった。


 それからは、新鮮な魚料理に必ず味噌汁が付く店、と云うことで評判になり客が客を呼んでいった。一夜は長い、客は何回転もした。


 建設関係、保険会社での関係、いずれも今まで勤めていた所の関係が実を結ぶことになっているのだから、自分の手の中のようなものである。

 また、情報関係も迷惑にならない程度には出来るし、第一、小さい食べ物屋で掛けで食べる人はまずない。 掛けがないからお客さんは安心して来ることができる。


 小銭は大銭になるそのものである、の教訓である。


 お店は予想通りに繁盛した。



 ある時、内川の同級生で椎名と云う男が大阪から帰って来てお店に来た。羽振りがよさそうだった椎名という男は語った。


「風子さん中竹工務店に勤めはったんだって?相談に乗ってくれへんかな?」

「何故?私になの?内川に相談すればいいじゃないの?同級生でしょうが」

「いや、あんたの評判、聞いたんや……皆に、ようけ世話したはるんと云うてたで?

旦那より話をよう聞いてくれはるし、その道のベテランだと」

「………そんなこと、良く云うわ」

「建設業やりたいんや、金なら、ようけ稼いだから大丈夫、段取り手伝ってもらわへんか?風子さんにお願いしたいんや、宜しいやろか」


 宮崎では特に目立つような関西なまりで威勢よく話して、それでも一応頭を下げた。


(何故……内川じゃなく私のところに来たのかしら? 私がお店をやっているから話しやすかったということかしら?)


頼まれると、分がありそうと判断如何によっては、あらゆる知恵を絞って協力してみる前向きな性格な風子である。


 風子は、今までの経験(建設会社、保険会社、取引銀行)等で慣れたもので、土地を世話したり銀行や手続きの方法を教えたりした。手数料お礼も十分貰った。


 次は「職人さんはいませんか?」と云うので、これも建設業に必要であろう業者を、27社くらいを紹介した。


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