今は今の知恵で
風子は、いつもテーラーのスーツに身をまといおしゃれをしている。これは最初から今まで一貫として変わらない。
スーツに身をまとい、思いっきり高いハイヒールを履いて、化粧は濃いめにはっきりと、爪は綺麗にマニュキアで手入れをしているのがトレードマークにもなっている。
会社も軌道に乗ってくると「女性企業家の為の女性の集い」などという会の講師に呼ばれたりした。その時、中央からも女性経営研究家という肩書の先生が特別講師で来られていた。
「あなた、そんな恰好で建設会社の社長が良く務まるわね?」
その経営学者がと、皆の前で笑いながら云う場面があった。
「心配かけていますねえ……」
風子も笑いながら返した。
その後、風子の講演の締めくくりに、
「私は建設業の社長です。だからと云って、スコップや金槌は手にしません。社長は会社を発展させるための段取りと社員管理です。女性は女性らしく、男性は男性らしく……第一女性であれば男性に負けないように頑張るし、やりがいを見つけられるのです。考え方工夫次第です……」
と、締めくくると、会場皆から大喝采を浴びた。
風子が30年前に起こした建設会社は、年商10億を下らない中堅の建設会社になっている。取引業者も300以上だ。
前夫との子ども長男夫婦とも一級建築士、他に一級建築士が6名、個人住宅専門だが一つとして同じ設計が無いのがすごい事であると関係業者は感心している。
長女夫婦は夫が専務で外交や全体を見て、長女が事務職、事務員をまとめている。
風子はというと、会社に出るのは、月曜日の朝礼で簡単な講話のみ。それでも社長を終わらしてくれない。娘夫婦と息子夫婦が云う
「母さん、あなたは居るだけで会社の信用性があるの……もう少し遊んでいて!」
息子夫婦と娘夫婦の助言に風子は素直に従う。風子が社長を退く日はもう少し先のようだ。
* * *
「一人になるときはパチンコね。欲がないからかしら不思議と勝つの。家にいるときはみんなを呼んで週1回ギター練習のためのギター練習、土日は高校時代の仲間と自宅の麻雀室で麻雀よ」
私は風子に日頃何をしてるの?と尋ねると風子はニコニコしながら答える。その様子は人生というものを謳歌しているものの表情だ。
「風子は人生の役満だよな!俺たち満貫だよな!」
「そうだ、そうだ、俺たちみんなそこそこの社長業だけどな」
「いやいや、風子はひらめきがすごいよ!ビートルズのお蔭だろう」
「何の何の、弁当当番のみんなのおかげよ」
風子と高校の同級生達は麻雀室で麻雀をうちながら楽しそうに話している。
最初の、ハイヒールが印象に残った鳥丸風子が云ったのは「私の事を語れば一冊の本が出来る」だった。
(なるほど……その通りだったわ)
私は風子と仲間達の麻雀を見ながら心の中で呟いた。
「あ、ツモ!!」
風子があがったようだ。そして手を開けると仲間達の驚愕の表情が見える。
「ゴメンネ。“国士無双”役満だわ♪」
どうやらまたエピソードが増えたみたいだ。
〈 終わり 〉