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風子建設会社を起こす・ 女の勇気

 会社設立から二年くらいはやはり大変な事が多かった。


 女性社長の建設会社と云うことで、他業者からの冷やかしも多く、注目の的と云っても過言でない。


 風子はそれを良しとした。


 人から注目されなくなったら終わり、注目されてこそやる気が出るものと考えた。


 そして、失敗も多かったがそれを一つ一つ克服していった。まさに失敗は成功のもとである。


 職人と云えば徹底主義やその分少し変わり者が多くそれだけに気配りもした。

特に30歳そこそこの女社長から50歳、60歳のオジサン達が指図されるのも面白くないだろうし、気持ちの良いものでもないだろうと思うと、そのあたりの風子の気配りと、つり合いのとれたやり方には天性なものがあった。


 あまり多くを語らない代わりに、打ち合わせは徹底したし図面を頭に入れて後は任せた。仕事に関しては それだけに、屈することはしなかった。


 ある時、左官工事で工事個所の不具合を指摘したが、生返事で直してなかった。


 風子は意を決して、夜に一人で懐中電灯を持って現場に行き金づちで打ち壊して帰った。

 左官屋は初めて事の成り行きが分かって平身低頭に誤った。


 そのうちに業界にその事が知れ渡り広がっていくと“鳥丸社長は女なのにやるものだ”ということで一目置かれるようになっていった。



 この業界の不思議な事は色々な世界で、外から文句が付けられることである。


 隣同士の土地境界や騒音などの問題が、何故か大阪や福岡辺りから、通称ヤクザ風な方々が入れ代わり立ち代わり来て愚だを並べ、取り合わないと脅しにかかることも少なくない。


 ある時、通りかかった車の上に水がかかったと威勢の良い男の声で、社長へ直々に電話があった。風子が電話に出ると


「社長と云っただろ!社長を出せ!」

「私が社長です。御用は?」


 その男は、エッと云って次に驚きを一旦置いておくような態度で風子に言う。


「なんだ、女社長か、水を掛けられたんだ!どうしてくれまっか?」


男はじんわり云った。


「それは申し訳ありませんでしたネ、水、痛くありませんでしたか?怪我は有りませんか」

「大阪から来たんだ。侮辱されたから、あんたと話したいんだがね?」

「そうですか、時間を都合付けて参りましょう」


男の言葉に、風子は丁寧に返した。風子の声はまったく乱れることはなかった。



 あくる日の話し合いの場所は宮崎ホテルのロビーの喫茶店であった。


 風子は待ち合わせ時間より早く行って奥のソフアーに座って待っていた。


 風子はいつもの濃いめの化粧に、赤い超ハイヒールで足を組んで、指は真っ赤なマニュキアの手で煙草を吸っていた。

 問題の男が二人キョロキョロして、こちらに向かってやってくるのが見える。中肉中背で色黒、背を丸めて歩いているのを見て風子は“この男たち大したこと無いな?”と思った。


(堂々としてないし、もしその筋の方だというのなら下の方かしら?)


 風子は男たちに顔と目で合図をすると男二人は風子のデンと座っている側に来て、上から下まで見てちょっと驚いたようだ。

 

「鳥丸社長でっか?」


 男はやや躊躇いがちに風子に尋ねる。風子はまったく臆することなく返答する。


「はい、そちらにどうぞ」


風子は座ったまま向かいのソフアー椅子を進めた。


「それにしても宮崎は良いところでんな」

「ええ、宮崎は観光地ですしね」

「そうでっか」


 いろいろ世間話からはじまりなかなか相手は話の本題に入らない。


 風子は相手と話すときは相手の目を見ないで相手の胸元を見るようにしている。挨拶以外に出来るだけこちらから話さないで頷くようにしている。

本当は、風子自身は少し恐ろしさもありながら賭けに出ているのであまり話したくないだけであるのだが、この寡黙作戦は思わぬ効果を生んでいた。


 相手が風子の情報を全く手に入れられないために心配になってきたのだ。


(なんだ……この女社長……全然俺達にビビっていねぇ)

(ひょっとしてどこかの組の親分の……女?)


相手のことが分からないと余計な事を考えてしまうようで風子には男達の動揺が手に取るようにわかった。

 そうなると風子はさらに落ち着いてきている。すでに心情的には風子は男達の数段高い所から見下ろしている気持ちである。


「社長はこちらの出身ですか?」


男の一人が尋ねると風子はやんわりと返答する。


「大阪でない事は確かね……」

「はあ……福岡か鹿児島でっか」


男のもう一人が尋ねた。


「ご想像に任せるわ……」


 風子は余裕たっぷりに返答する。風子の余裕の態度に男達二人はゴクリと喉をならした。


(まずい……どっかの組の姐さんだ)

(まさか周りの連中って……護衛じゃねぇだろうな)


 風子の態度から男達は、福岡の組の姐さんが建設会社をしているのだと思い込んだらしい。一旦そう思うと周囲の男達が風子の護衛のようにしか思わなくなってくるから不思議である。


「昨日は失礼しました。社長と会って胸がはれました。有難うございました」


 男達は慌てて立ち上がると風子に向かってそう言うと頭を下げる。


「いえいえ、作業員によくよく注意しておきますからね!良かったら、どうぞお先にお帰り下さい。私は引き続きお客さんとここで会うことになっているのですよ」


風子は優しく微笑む。男達は風子の言葉に何度も頭を下げながら慌てて立ち去っていく。


「ふぅ……」


 男達が去ったのを見て風子は安堵の息を漏らした。次の予定など何も入ってなどいない。風子が立たなかったのは小柄な風子が立ち上がる事で侮られる事を防ぐためである。

それと、赤いハイヒールと赤いマニュキアに煙草を吸っていたのはそれらしい雰囲気を出すためである。


 風子はたびたび襲いかかる困難を男達を追い払ったような度胸と閃きで乗り越えてきたのであった。


 会社は風子の天性なひらめきと広い人脈と営業で成長して連鎖倒産寸前の関係業者も蘇ったのである。


 建設会社の初年度は8000万円の収益決算であった。しかし、初年度で不勉強の為税務申告の失敗があり、800万円ほどの追徴があった。


 そして、この時、税務署から指摘されたことは、社長の給料はもう少し多くもらっても良いですよ!とのアドバイスをもらった。可笑しなことである。


 2年後には一億六千万円、3年後には六億と、倍以上に成長、上がっていった。これは下請け業者の風子崇拝の協力でもあった。

 もちろんこの頃には税知識も出てきている。

 

これらの事は25年前である。



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