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いよいよ離婚にこぎ付ける

夫は相変わらず女の影がいつもついて回った。風子に十分なお金の余裕が出来たから特に治夫の給料は自分で使えるようになっていたからなおさらのことである。

 しかし、治夫は女の所に行っても外泊はしなかったし夜遅くには帰っていた。


 風子にとって、少し大きくなった子供の面倒をよく見てくれる治夫は必要ではあるが、“もう、この辺りで生活のめどは立ってきた。そろそろどうにかしなくてはいつまで経っても今の形態から抜け出せないではないか?”とそう思うようになっていた。


 その一方で“自分はこの夫と別れるためのエネルギーで頑張ってこられたのだから……感謝しながら別れなければならない”と考えるようになっていた。

離婚を決意した時に夫への愛情がなくなった事を自覚し、いつの間にか風子の中で内川という存在は過去の存在になっていたのだろう。


 もんもんとしているうちに、実家の両親も一緒に住みたいと言い出した。風子も

せっかくの父母の思いを聞いてやりたい気持ちになった。


 この時代は家は住宅金融公庫を通して建てるのが常識とされていた時代である。

風子は家の一軒ぐらい建てる金はないでもなかった。


 すでに住宅金融公庫からは夫の名義の今の家に使っているので、夫の名義では使えないのが幸いした。


(決着をつける時が来たというわけね)


 風子は心の中で内川と離婚する最終段階に来たことを察していた。


 

 ある日曜日の昼下がりに治夫も風子も久しぶりに、横になってごろごろしていた時に風子が内川に話しかけた。


「ねえ、治夫さん、実家のお父さん、お母さんの為にも私が家を建てようと思っているのだけどねえ」

「ううん、いいんじゃねえの……」


眠そうにしながらも半分聞いて云う治夫が横にいた。


(きっと昨夜は遅く帰って来たようだが女といちゃいちゃしていたんだ)


風子はそう察すると、自分も大きな騙し方をしてやりたくなった。風子はさりげなく会話を続けた。


「だけどさあ、この家のローンが残っているから山川治夫では出来ないのよね」

「ふうん」


 何か他人事のように云う治夫がそこにいた。


「いっそうのこと、形だけの離婚をして、鳥丸風子で作ろうかしら?母さんたちに住んでもらう家だから……子供たちも世話してくれるし」

「いいんじゃないの……」

「へえ、本当にいいの?手続するわよ」

「だって、しょうがないだろう?どうぞ、勝手に」

「そうよね、このまま私たちは住んでいればいいのだから……子供たちは父や母に預けられるし、治夫さんも楽になるでしょ!私もせっかく今の仕事軌道に乗ったようだから思い切り頑張るわ!」


風子は淡々と語る。何もやましい事はないという風にだ。


 それから、風子は早速、治夫の気が変わらないうちにと思い、市役所に行き書類を書いて、それぞれの印鑑を押して出すと内川との結婚生活は呆気なく終わった。


 書き慣れている保険加入の手続きよりも簡単であった。


(さて、ようやく終わったわ)


 風子は心は晴れ晴れとした気持ちで一杯であった。


 しばらくして日が経ったある時、勤めに出ている内川から電話があった。


 「戸籍謄本をとったら、あんたの名前だけが戸籍から抜けてるがよ……」


内川はびっくりした声で云ってきた。


「何言ってるのよ……お父さんたちの家を建ててやるときに相談したじゃ……

あなた名義では国民金融公庫のローンが組めないから、私名義にするために便宜上離婚するってことだったじゃないの!」

「へーエ……、そのような事か、そういえば、あの時か、冗談かと思った……あんたと一緒にいるじゃあ」

「そう、今はあなたと同棲しているようなものよ、もう、このままでいいんじゃないの?あなたも身軽に気安く女の人と付き合えるじゃない?」

「………」


風子の言葉に夫は思わずだまった。そして、今まで女性関係で引け目があるのか妙に納得していた。ひょっとしたらこの時内川は風子が自分の事をとっくに見限っていた事を悟ったのかも知れない。


 それから、新しく立てた実家の家、今まで通り夫と子ども達との家とを行ったり来たりの生活がしばらく続いた。


 戸籍上別になったと思うと、夫の女性関係にもあまりこだわりが無くなり、かえって普通に意見、進言できるようになった。


 あの人はダメよ、貴女に合わないわ、この人の方が良いのではないの?などと元夫婦のレクリエーション的な会話もできるということ、また、こうも風子は元夫に言い渡している。


「あなたが再婚する時は、私が良いという女性でないとダメよ」

「そんなこと、もう俺は自由じゃないか?」


 内川が不満を口にする。内川とすればそこまで束縛されては叶わないという気持ちで一杯であった。


「ダメ! 子どもはあなたと私の子どもよ!あなたに子供が生まれたら姉弟になるのだから、性格の良い女性でないとね、私が見分けるわ!」


 内川は少し複雑そうな顔を浮かべる。風子の言葉は内川に何の興味もない事の裏返しである。それは嫉妬からではなく子どものために選ぶというのだ。好きの反対は無関心というが風子の内川に対する態度はまさにそれであった。


 そしてあるとき、内川が風子に言う。


「なあ、あんたの紹介した椎名の会社、やっぱり倒産間際らしいよ。しばらくは上手くいってたのだがな。やっぱり無理だったのかも知れない」

「ええっ!何ですって!椎名さんの会社が倒産?それは大変な事になったわ」

「何で? 何もあんたが心配することないよ」


 風子の言葉に内川は首を傾げながら言う。


「だって、私の紹介した27社にものぼる下請け会社はどうなるのよ!連鎖倒産するかもしれないじゃないの!」

「そうか、それがあるな!」

「教えてくれてありがとう!私にも下請け会社さんに対して同義的責任がありそうだからちょっと債権者に会ってみるわ」


 風子は取引下請け会社の連鎖倒産を最小限に食い止めるために日夜考えた。




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