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序 [私、書かせて貰うわ]

 鳥丸風子に初めて会ったのは25年前である。


 秋も深まりかけた少し寒い夜だったかなあ~…… 指定された場所は、通称「ニシタチ」と云われている場所の小料理屋だった。


 そこは、九州でも小都市の飲み屋街ではあるが、巨人のキャンプ地でもある宮崎は、来宮者も多いし飲み屋街の景気も良く、その頃、密集飲み屋街としては、日本でも三本の指に入ると云われるくらいの知名度の高い「ニシタチ」と云われていた。


宮崎の中心地、西橘通りにあるから「ニシタチ」と云われている。

 

風子に会うための指定の場所は、ニシタチの路地に少し入った古い小さな小料理屋だった。 

 

今夜はここで風子との面談が用意されている。何故かというと、風子は最初から国会議員である中田代議士の有力な後援者だったからである。

 

私は、ひょんなことから、中田代議士の地元秘書にと内々話があり、事務所の別の秘書から鳥丸風子に会ってみてくれないかと、連絡があったのは、今日の今日だった。

 

元、公務員の私は夜の街に出かけるのもしばらく振りで何かしらウキウキしていた。

 

鳥丸風子に会うのに何となく興味もあった。元々、人に興味のある私だったから秘書候補になったのかも知れない。


 しかし、突然のことで、風子についての知識は全くなく、代議士事務所の女性事務員から少し聞いただけであった。


 それは、第一に、凄腕の女の住宅関係会社の社長であること

 

第二に、同じ県内でも当時は選挙区の違う区域から出ていた中田代議士の応援をしている変わったグループの一人であること。

 

第三に、会社は風子一人のたたき上げ、公共事業はほとんど受注していないし、個人住宅の建設会社で伸びている成長会社。


 ……とだけ聞かされていた。



 奥の小さな部屋に案内されると、その部屋の前に並べられている、鰐皮の驚くほどにヒールの高いピカピカしている靴は、強烈で、庶民的な小料理屋には不釣り合いだった。


 二枚障子を開ければ、一期一会の本番スタートである。やはり、初対面となると緊張する。


「こんばんは」


 私はそう言って障子を開けるとそこにいるのは小柄な女性が視野に入った。


 湯気の立った鍋の中に白菜をぎこちない箸の使い方ではあるが、器用に並べ入れながら、ちらっと目を合わせると


「いらっしゃい!こんばんは~ここ、解りにくかったでしょう」


その小さな体の女性は普通の知り合いに声をかけているかのようにさりげなく言った。

 

初対面の私への何気ない気配りかと思うが、あれー?! 鳥丸風子という女社長は、自分の描いていたイメージとは完全に外れたと思った。 大きい勇敢な女社長であろうと思っていたが、本当に小柄な普通の女性であったのだ。


 ぽっちゃりした目鼻立ちのくっきりした顔を見ると……明らかに化粧でアレンジしている。それが、何とも安心するのは何故だろうと思いながら鍋を共にした。


 話は弾む。二人すき焼き鍋は良いころに味も馴染んできた。


「はい、これ!」


本当にぎこちない箸の持ち方で、鍋の中の肉を寄せて食べるように促す。


「私は見ての通り、お肉を蓄えているのよ!これ以上、身長と体重のバランスが

取れなくなると困るのよ、私こんにゃくを食べるわ!あなたお肉を食べなさいよ」


 と言いながらさらに話を進める。

両方ともに興味のある話を聞くのに何回か箸が止まる。それほど風子の話は面白いし、それを聞く自分も新しい息吹を貰うような気持ちになったものだ。


 「私の事を語ろうとすればね、長編小説が出来るわよ!」


 風子は自信たっぷりにそう言った。私はそれを冗談ととらえるとこちらも冗談で応じることにした。


「じゃあ、書かせて貰おうかしら?」


 私の返答に風子は楽しそうに笑いながら返した。


 「どうぞ、どうぞ……私ね、話はできるが、文才も無いし書こうにも今は時間が無いし……あなたが書いてよ!協力するわよ!」


 風子はそういうが、このご時世やたらと守秘義務、守秘義務とうるさく言われていることもあり実際には書くことはないだろうと私は考えていた。

 この奇妙な依頼から25年が経った。私は中田代議士の地元秘書を辞めてからも鳥丸風子と交流を続けている。

いつも、彼女について思ってきたことは、ごく普通の女性でいながら、彼女からは学ぶことが多いと思った。お付き合いしたい女性に不足はない!むしろ得をする。


小柄で容姿も普通の風子であるが社長としての力量から出るエネルギー、知恵、道理、決断力に私は確かに魅せられてきたのだ。

 私は国会議員の地元事務所で秘書として働いている間、数々の人に出会った。中には国会議員、有名人も数多かったが、鳥丸風子という女性はどのような有名人にも劣ることのない強烈な個性を持った女性であるのは間違いない。


 私は無性にこの鳥丸風子がどのような人生を歩んできたかを小説という形で表現したいと思い25年前の依頼を果たすことにしたのだ。


「は~い…鳥丸風子を…書くよ」

「は~い…どうぞ書いてみて♪」


 私がこの度鳥丸風子に了解をそう求めると風子はニコニコしながらそう返答する。


 さて、鳥丸風子の青春に何が起こったのか? それは

さて、鳥丸風子の青春に何が起きたかって!? それは1966年の事


「行くな!東京に行くな!ビートルズ公演に行ったら退学だぞ!」


宮崎空港の玄関入り口で補導教師が仁王立ちになって制止した。


鳥丸風子、高校三年生、人生の岐路だったのかも知れない。




 そして、始まった!!



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