陰鬱高校生の自分語り
この物語の主人公と作者は全く関係ありません。
無とはなにか、考えたことはあるだろうか。
考えたことはあれど、その真理にたどり着いた者はいないだろう。
無だと認識したその時、その無は失われるのだから、
と、そんなことを考えながら、僕、渡辺陽介は帰り道を歩いていた。
自分が無の状態だと思ったことが何度かある。
いや、そんな自分がカッコいいと酔っていただけだが。
しかしそれが悪いことだとは思わない。
それは高校生2年生の冬にして発症した、遅めの中二病なのだから。
仕方がない。
「ただいま。」
「あ、お帰り〜」
なぜか上機嫌な母がソファーに寝転びながら答えた。決して母がなにもせずダラダラとしていたわけではない。
今の時刻は22時30分で、僕は家から離れた場所にある塾から帰ってきたところなのだ。
寝ずに待っていてくれただけでもありがたい。
「ご飯食べるー?シュウマイあるよー」
もそもそと起き出して、どうやら遅めの夕飯を温め直してくれるようだ。
「うん。食べます。」
母親に対して敬語なのは心の距離があるからではなく、ただの癖だ。
僕には自分の中にいくつかのルールを設けている。その1つが「年上には敬意を払う」というもので、
母への敬語はその信念の表れだ。
自分でも不思議だが、僕は自分のルールに逆らえない。
逆らおうと思ったこともないが。
そしてたまに、自分のルールを他人に押し付けて、勝手に失望し、他人なんだからしょうがないと諦め、
大人になった気分に浸る。
そんなどうでもいいことを考えていると、
「お風呂、追い焚きするー?」
と、母に間伸びした声で聞かれ、
いつのまにか目の前の皿が空になっていることに気づく。
「いや、いいです。」
と答え、空いたお皿を食洗機に放り込み、
自分の部屋に入ると、抗い難い睡魔に襲われ、
着替えもせずに眠りについた。