第3話 夢
「はぁ... ったく、ニテラのやつ晩飯の時間なのにどこに行ったんだよ...」
夜の森は静まり返り、
アシの歩みに合わせて落ち葉がカサカサと音を立てている。
「灯りも持たずにウロウロしてるんじゃないだろな... この暗さだと村に帰れないぞ」
焦りと不安の中、森の中をひたすら歩いていくと、
やがて、ぼんやりとした光が見え始めた。
「...おーい!ニテラ!」
彼女は詠唱をやめ、後ろを振り向く。
「こんな遅くまで何やってるんだ?エレナおばさんが晩飯の時間だって、探してたぞ。」
「あ、ゴメンね。マナを作る練習をしていたの。つい、集中しすぎちゃったわ。」
「灯りも持ってきてないみたいだし、俺が迎えに来なかったらどうしてたんだよ... さぁ、急いで帰るぞ。」
「うん。」
暗い森の中を村に向かって歩きはじめる。
「...迎えにきてくれてありがとね。」
「お前を連れて帰らないとエレナおばさんに怒られるのは俺だからな。」
「何よそれ。こんな誰もいない森の中に一人でいる、か弱い女の子が心配じゃないの?」
ふくれっ面のニテラ。
「はぁ?何がか弱い女の子だよ。俺なんかよりよっぽどたくましいだろ、お前は。」
「ふふっ、そうかもね」
みるみるうちに顔がほころぶ。
ニテラの笑顔に、少しドギマギするアシ。
「...そういえば、お前、マナを作る練習をしてたんだよな?」
「うん。もっと練習してたくさんのマナを作れるようになるんだ。」
隣で話しているニテラの横顔は、少し上を向き、
何か将来のことに想いを馳せているように見えた。
「お前は真面目だよなぁ。」
「アンタが不真面目すぎるのよ。アンタだってもっと頑張ればちゃんとマナを作れるようになるわよ。」
「いやぁ、無理だよ俺には。分子構造の解析なんてほとんどできないし。まぁ、気長にやってくよ。」
二人の間を沈黙と冷たい風が吹き抜け、落ち葉は舞い、
カサカサと音を立て、再び静けさが戻ってくる。
「私ね... 夢があるの。」
ニテラは目先の落ち葉を見ながら、真剣な様子で話し始めた。
「マナは今、世界中で不足しているの。数年前まではこの世界を十分に満たしていたマナが、突然不足しはじめた。マナは命の源。多くの生き物がマナを手に入れることができず、命を落としているわ。」
「原因はまだわかっていなかったような...」
「うん。マナの不足は全ての種族、生き物にとって生死にかかわる問題だから、プランテではすぐに調査チームが組まれ、原因の解明に動いたそうよ。」
「でも、原因はわからなかった。」
「そう。だから何とか悪化することだけは避けようと、私たちプランテは毎日欠かさずマナを作って、世界中に流しているのよ。でも、まだまだマナは足りない。私はね、もっと立派なプランテになって、世界中を旅しながら、マナが不足している原因を突き止めたいの。そして、苦しんでいるみんなを助けてあげたい。」
淡々と話すニテラだが、その言葉の端々には力がこもっていた。
「その夢... 叶うといいな」
「うん。 ...もちろんアンタも協力するのよ!」
足を止め、先ほどの真剣な表情とはうって変わって、
明るい表情で詰め寄ってくるニテラ。
「えっ!俺も!?」
「当たり前よ!こんなか弱い女の子一人で旅をさせる気?」
「えぇ...」
たじろぐアシ。
「...わかったよ。どこまでもお供させて頂きます。」
しぶしぶ了解するアシ。
「約束だからね!」
詰め寄ってくるニテラとの距離にドキドキするアシ。
顔が近く、目のやり場に困る。
「わかったよ!約束!」
顔を仰け反らせ、目を背けながら答えるアシに、笑顔で頷くニテラ。
二人は村に向かって再び歩きはじめる。
ーーみんなを助けてあげたいか... お前ならできるよ。きっと。
しばらくして、ようやく村の入り口に帰ってきた二人。
何やら村の広場に村人が集まっている。
「あれは?」
不思議に思って、広場に向かおうとする二人の目の前に、
エレナおばさんが駆けつけてくる。
いつもの優しい彼女はそこにはおらず、
鬼気迫る表情で二人の肩を力強く掴む。
「アンタたち!急いで家に入りなさい!!」