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六歳の二人

幼少編、から複数人の視点で物語を進めて行こうと考えています。

一人称である事に変わりは無く、誰の視点であるのか即座に分かる様努めたいと思っています。

 夏が過ぎ秋が過ぎ、冬が過ぎて春が過ぎ。

 俺とエリスは六歳になっていた。


 先日、この地が帝国は帝都である事を知れた。


 俺の前世では王国が母国であった。

 エリスの前世では皇国が母国であった。

 そして、俺とエリスの今世は帝国が母国である。


 両者とも母国が前世と違う事が知れたときは、良く出来た物だ、と二人で感心し、頷きあった。


 また、勇者と魔王が相討ちとなってから、今年で二〇年が過ぎる事も知れた。

 俺とエリスは今六歳であるから、相討ちと果てて一四年後に転生を果たしたと言う事になる。

 一四年や二〇年程度では文化や習慣の変遷は少ないはずで、今後を過ごすに差し支える事は無さそうだ。

 一〇〇年先や一〇〇〇年先に転生を果たしたのであれば、勝手は変わるのであろうが。


 そして、王国と皇国は未だ小競り合いの最中らしい。

 勇者と魔王が相討ちと倒れた事をきっかけに、争いの規模は大幅に縮小されたらしいが、まだまだ国境線周辺はきな臭いとの事。


「何、難しい顔をしていますの? もしかして、なすびをどう残してやろうかと言い訳を考えていますのね?」


 エリスが隣から俺の眼前にある皿をのぞき込み、眉をしかめた。


 今日の朝食は先生お手製のラタトゥイユだった。

 お手製なんて大袈裟だね、何て先生は笑うが、相当の手間をかけて作ってくれた事を俺もエリスも知っている。

 具材となるそれぞれの野菜は、それぞれを別々に炒め下味をつける事で火の入り方や味付けが最適化されているし、煮込む為のトマトコンサントレは丁寧に弱火にかけ適度に水分が飛ばされている。

 他にも、味がぼけてしまわない様、油で重たくなってしまわない様、多々と工夫が施されているのだ。

 前世に王都で食べたラタトゥイユが酷かった事を思い出す。

 水っぽくて、野菜の旨味も何もあった物では無かった。

 その癖、表面には油が浮いており、店主曰く、コクが出た、とか何とか。

 

 今朝のラタトゥイユに限らず、先生が振る舞ってくれる数々の品々は、前世で食べた繁盛店の品々と比較しても遜色は無い。

 店を出したなら繁盛する事は間違い無いと言える位だ。

 ましてや、先生は美人との形容が役不足である程の美女だ。

 そんな佳人が鍋を振り絶品なる料理を振る舞ったなら、繁盛しないはずは無い。


 何故、先生は孤児院の先生であるのか、疑問に思う時がある。

 先生はまだ二〇代前半のはずであり、孤児院の先生として子供の世話をするには若すぎる様に思える。

 ひまわりの様な快活な性格に整った目鼻立ちは、どこに行っても耳目を集めるだろうに。

 孤児の世話を焼くに終始する姿を見ていると、もったいない、とか、申し訳無い、とか思ってしまうのだ。


 言えば、余計なお世話だよ、何て一笑に付されるんだろうけど。


「じゃ、俺が食べてやろうか」


 対面から兄貴分であるゴドルーディックが、俺の皿にフォークを伸ばして来た。

 そうして、突き刺した野菜は、なすび、では無く、かぼちゃ、だった。


「「あ」」


 俺とエリスの声が重なる。

 兄貴はそんな事お構いなしに、フォークに突き刺したかぼちゃを自らの口へと運んだ。


「はふ、はふ、ほくほくしてて美味い!」


 にんまりと微笑む兄貴。

 兄貴に強奪されたかぼちゃは最後の一つであった。

 かぼちゃは俺の好物だ。

 俺は好きな物は最後に食べる派なのだ。


「ちょっと、兄様! いくら兄様と言えどそれはあんまりですわ! かぼちゃはオルフェの大好物ですのよ! オルフェと兄様の好みは似通っているのですから、おわかりでしょう!」


 エリスが身を乗り出し前のめりになりながら、兄貴に向かって抗議の声を上げてくれる。


「わかった、わかった。そんなに怒るなよ、エリス。オルフェにはこいつをくれてやるからさ」


「「あ」」


 再び俺とエリスの声が重なる。

 兄貴が自らの皿から俺の皿へ移したのは、なすびであった。

 俺の嫌いななすびである。

 エリスが口にした様に、俺と兄貴の嗜好は似ている。

 すなわち、兄貴もなすびは嫌いなのであった。


「兄様! もう! もうもう!」


 再びエリスは憤慨すると、信じられない、と首を振った。


「いいさ、エリス。俺の皿には最初からかぼちゃは無かったんだ」


「よくありませんわ!」


 乾いた笑いをこぼす俺をエリスは睨めつけると、俺の皿にフォークを伸ばし、増量されたなすびの全てをエリスの皿に移した。

 さらに、かぼちゃをエリスの皿から俺の皿へ移してくれる。


「オルフェの嫌いな物は私の好きな物ですわ。私がオルフェの嫌いな物を引き受けますから、オルフェは私の嫌いな物を引き受けて下さいな」


「エリス……」


 思わず感激してしまった。

 確かに、エリスはなすびが好物だ。

 しかし、かぼちゃが嫌いと言う訳では無い。

 にも関わらず、嫌いだから食べて、と俺が気に病まない様に理由をつけてまでして、かぼちゃを差し出してくれたのだ。


「あんたたち、他人の皿をつつき回すのはちょっと行儀が悪いんじゃないのかな。それに、栄養が偏らない様に苦心している私を目の前にいい度胸をしているじゃないか」


「「「ご、ごめんなさい……」」」


 にこにこ微笑む先生に三人で声を揃える。

 何から何まで先生の言う通りであり、謝る以外の選択肢が無かった。


「まったく、仲が良くて悪い事は無いけど、仲が良すぎると言うのも考え物だね」


 そう、先生は咲いた花の様な笑みをこぼした。






「じゃあ、行ってくるよ」


「じゃ、行ってくるぜ」


「「行ってらっしゃい」」


 朝食を終えややしばらく、身支度を整えた先生と兄貴を玄関先から見送る。

 先生は仕事に、兄貴は子供会の集まりに。

 俺とエリスは留守番である。

 

 先生は俺とエリスに手がかからなくなった去年より、ほぼ毎日、仕事、と外出する様になった。

 午前中に家を出て、帰ってくるのは夕方である。

 それから夕食の準備をしてくれているのだ。


 先生に仕事の内容を聞いても、秘密だよ、と教えてはくれない。

 しかし、俺とエリスは、先生は冒険者としてダンジョン探索をしているのではないか、と睨んでいる。

 帰ってくれば体力や魔力を消耗しているし、たまに軽い怪我もしている。

 体力はともかく、魔力を消耗した上に怪我まで負うなんて、街中で働く限りでは考えづらい。


 ダンジョンとは、世界各地に存在する迷宮や魔宮の総称である。

 それらダンジョンよりアイテムを持ち帰り日々の糧とする連中が、冒険者、と呼ばれる。


 ダンジョンには、魔力生物――魔物と呼ばれる人間の天敵が存在する。

 魔物には人間の魔力を求める性質があり、その魔力は人間にとって生命力と言い換える事も出来る。

 求められるままに魔力を奪われては、人間は死に至ってしまうのだ。


 しかし、魔物は冒険者に取って飯の種とも言える。


 魔物の身体は魔力で構成されており、維持困難なまでに消耗をすると、魔石、と呼ばれる魔力の結晶を残し霧散する。

 魔石は魔道具や魔法符の製造に必須なアイテムであり、常に需要がある代物である。

 拳大もある大きい物だと、一年遊んで暮らしてもお釣りが来る程の値段がつくこともある。

 また、魔石の他に、魔物片、とされる魔物の一部が残る事もある。

 魔物の身体でも特に魔力濃度が濃い部分であり、全体が霧散したとて一部がそのまま残る場合があるのだ。

 これも物によっては高値がつく事があり、冒険者に取っては捨て置けない物である。

 そして、これら魔石や魔物片はドロップアイテムと総称される。


 他にもダンジョンより得られる物はあるが、冒険者が手にするアイテムの八割はそうした魔物由来のドロップアイテムであるのだった。


 先生の仕事とはそうした冒険者なのではないか、と俺もエリスも見立てている。


「先生、大丈夫だろうか」


 先生を見送った後はいつも胸が締め付けられる。

 俺が知る限り、ダンジョンで生命を落とす冒険者の割合は全体の三割を数える。

 万が一、なんて範囲では無い。


「そうですわね……。せめて、帰って来てから少しでも休んでもらえます様に、今日もお洗濯やお掃除を頑張りましょう」


 先生がいない間に料理以外の家事全般を片付けるのは俺とエリスの役割だ。

 先生は、そんな事しなくてもいいから遊んできな、なんて言ってくれるが、そんな気にはなれない。

 とはいえ、毎日遊びに外出する兄貴を悪く思うつもりも無い。

 子供としては兄貴の方が正しいし、先生もそうして欲しいと望んでいるのだから。


 俺にはエリスがいる。

 エリスにも俺がいる。

 外に遊びに出なくとも、俺とエリスは互いがいれば満足なのだ。






 先生と兄様とを見送った私とオルフェは、まずお洗濯を片付ける事としました。

 お洗濯は庭で行います。

 屋内でお洗濯をしてはちょっとした拍子に床が水浸しとなってしまいますし、洗った衣類は庭で干すので、庭で洗うのは都合が良いのです。

 お洗濯には水瓶を用います。

 私たちの首辺りまである水瓶で、口の広い水瓶です。

 そのお洗濯用の水瓶に汚れた衣類を入れ、洗剤を入れ、洗剤を目がける様に水を入れ、水瓶の七割程度に至るまで水で満たします。

 洗剤は植物由来の油に植物灰と微砕魔石が混ぜ込められた魔法消耗品で、孤児院で用いられている洗剤はいくつか種類がある中でも特に香り立ちの良い品なのだそうです。

 どれだけこぎれいな恰好をしていても臭いのはダメだ、と先生はおっしゃられます。

 確かに、洒落た装いでも臭いが鼻をついては台無しです。


「エリス、水は溜まったぞ」


 オルフェが水瓶の傍ら、踏み台の上より私を向きました。

 オルフェは台所と水瓶とをバケツを持ちながら往復し、水瓶に水を溜めてくれたのです。

 力仕事は俺に任せろ、なんて、オルフェは私にバケツを持たせてくれません。

 今も、陽光を背に力強く微笑んでいます。

 ……見とれてしまいそうになるのは内緒です。


 断腸の思いでオルフェより目を切り、ポケットより魔法符を一枚取り出します。

 それを洗濯用の水瓶に貼り付け、魔力を注ぎます。

 貼り付けられ魔力を注がれた魔法符は効果を発揮し、水瓶の水に流れをもたらし始めました。

 やがて、水の流れは激しさを増し、泡立ちながら渦となり、衣類をごちゃまぜにかき混ぜます。


「オルフェ、どうぞ」


 踏み台の上から水瓶をのぞきこむオルフェに洗濯棒を渡します。

 洗濯棒は木製で、麺棒を一回り太くした一メートル足らずの棒です。

 洗濯棒を受け取ったオルフェはそのまま水瓶の中に突き立て、水流に逆らう様にかき混ぜ始めました。

 衣類が洗濯棒に絡まっては洗濯棒を水瓶より抜き取り、また水瓶に突き立てては水流に逆らいながらかき混ぜ。

 こうする事で、泡はより立ち、衣類にこびりついた汚れは落ちるのです。

 

 水流に逆らい、衣類を絡めながら洗濯棒をかき混ぜるは六歳の子供にはなかなかに重労働です。

 オルフェの額や頬には珠汗。

 とはいえ、言っても変わってはくれないので言いません。

 そのまま背中を見つめます。


 そうして、一五分程度。

 魔法符が効果を失い、水瓶の中が徐々に水面を作り始めます。

 魔法符はお洗濯用の魔法符として製造された代物であり、効果時間が調整されております。

 過剰に魔力を注ぐなど無理な運用をしない限りは、繰り返し一〇回程度は使えるのです。

 

「じゃあ、水を抜きますわね。オルフェは口がつまらない様に洗濯物を押さえておいて下さいまし」


「ああ、わかった」


 水瓶の下部にある栓を外し、中の水を抜きます。

 水はあらかじめ掘られた穴に向けて流します。

 雑に垂れ流しては流れに流れて辺り一面水浸しとなってしまうのです。

 

 あらかた水が抜けましたら、オルフェにはもうひと頑張りを。

 衣類にはまだ洗剤が残っているはずで、それをすすいでやらなければなりません。

 再び水瓶に栓をし、洗剤を入れずに中を水で満たし、水流を発生させ、洗濯棒でかき混ぜ。

 魔法符が効果を失い水流が停止されたなら、水瓶の栓を抜き、水を抜く。

 水が抜けたら二人で水瓶を横に倒し、洗った衣類を取り出しやすくする。

 

 ここまででオルフェはお役御免です。

 ここから先、洗濯物を干して、後に取り込み片付ける、それが私の役割です。


「お疲れ様、一休みしてくださいな」


「ああ、そうさせてもらうわ」


 オルフェは、ふうふう、と肩で息をしながら木陰へ避難。

 枝に干してあったタオルを手に、顔に浮いた汗をぬぐっています。


 それでは、私は私の役割を全うしましょうか。

 

 お洗濯が終わったら次はお掃除です。


 

 

 






 そんなある日、先生が大怪我をして帰って来ました。


この様な感じで視点を動かしながら物語を進めて行きたい予定です。

対する意見も含め、ブックマーク、評価、感想など頂けましたら嬉しいです。

よろしくお願いします。

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