住めば都と言うけれど… 02
この村―オラガ村―の朝は早い。
明け方に目覚め、最低限の身支度を整えたら、見回りを兼ねて街灯を消す作業に入る。
昨夜も人は来なかったらしい。村の入り口の呼び鈴も鳴った様子は無く、呼び鈴のそばに置かれた案内看板―ようこそ、オラガ村へ!―と書かれた看板が、どことなく物悲しく見えてくる。
夜勤の守り人がいないため苦肉の策で作ってみたが、今まで活用されたためしがない。正直もう要らないんじゃないかと思えてくるほどだ。
やや落ち込みつつ、村の中心部へと向かう。と言っても空き家が数件と見張り台、小さな教会と村長の家、そして畑がある程度の村なので、中心もへったくれもないが。
配属当初はもう少し人がいたが、ひとまずの出稼ぎや、村の発展のための勉強をしに都へ留学してしまっているので、あと2、3年はこのままだろう。
今現在この村に定住している人間は、村長夫婦と神父様、そして私の4人。
通常なら外から技術者を手配したり、労働者を募集して、とにかく交通の便を整え、人を呼び込むべきなのだろうが…そうもいかない事情があるのだ。また、それが私の目下の頭痛の種でもある。
まず、見張り台に向かい、台の下、地面から半分ほど顔を出している白亜結晶―結界の核となっている鉱石の様子を見る。
変化は無し、いつも通りだ。それに向かって、結界の効果を増幅する魔法をかけ、その場を後にする。
教会の近くにたどり着くと、畑仕事に精を出す皆に出会い、丁度腰を休めていた神父様と少々世間話に花を咲かせる。
「おや、おはようございますアンナさん。毎日お疲れ様です。」
「おはようございます、神父様。そちらも毎日お疲れ様です。
どうですか?畑の様子は…」
「ええ、順調に育っていますよ、収穫はまだ先になると思いますが、今から楽しみです。
そうそう、この前いただいた果物でジャムを作ったので、よかったらどうぞ。」
差し出された瓶を受け取りつつ、礼を言ってその場を後にする。
一人で消費するにはやや多いが、彼に分ければ丁度いいだろう。
そう思い、村の外れのさらに奥…森の入り口近くを目指して足を進めた。
森の入り口、明らかに異質な木の門の前に佇む、イノシシ頭の魔物―オーク―に声をかける。
「あー!姐さん!オツカレッす!どしたんスか?」
「おはよう、神父様にジャムをもらったから、おすそ分けに来たんだ。」
「おおー!ジャムッすか!あざっす!姐さん太っ腹ぁ!
あ、チョイマチっす、この前の獲物の干し肉、出来てるから持ってくるっす。」
バタバタと走っていく年若いオークを見送り、少し待つ。
…うん、私もようやく慣れてきたなぁ。
この村の特徴であり、最大の問題、そして私の頭痛の種。
何と、この村はどういうわけかオークと共生しているのだ。ちなみに、村からやや離れた所の洞窟に住むゴブリンとも交流がある。
私の配属前からこうだったらしく、オーク達に聞いても昔から、としか返さず、一番の古株の村長に聞いても要領を得ない。どうやら、色々あったらしいが…。
ともあれ、住む場所はある程度分けられているが頻繁に村内にオークがうろついているので、なかなか人を呼べない。そこで苦肉の策の留学だ。
彼らが新しい技術を持ち帰ってくることしか、道はないのだ。
そんな事を思っていると、丁度干し肉を手にした彼が戻ってきた。
「この前、若手の皆で作ったんすよー。…何の肉だったか忘れたけど、とにかく美味いっすからオススメっす!」
そう言って差し出された干し肉を受け取り、礼を言ってその場を後にする。
…何の肉かわからないといっていたが、食べていいのだろうか?まあ、この辺で取れる動物は限られているから、きっと大丈夫だろう。
干し肉を手に、帰宅。
少し遅いが、朝食にする。雑穀のおかゆと、貰った干し肉が今日の朝食だ。
問題は多いが、ご飯は変わらず美味しい。取りあえず何とかなるさと思いつつ、食事を楽しんだのであった。