エピローグ
それから歳月は流れーー。
「あ、ほらナナ、あっちにもあるよ」
「え、ずるい。待ってよ、クウ」
高い城壁に囲まれた庭で、二人の子供が元気に駆け回っている。クウとナナはマリィが産んだ双子の兄妹だ。ケンカしているのかじゃれあっているのか、どちらにしろ仲睦まじい様子で遊んでいる。庭は一面柔らかな下草で覆われていて、どれだけ転げ回ろうが怪我をする心配はない。今はその下草が咲かせる青やピンクの小さな花を競い合うように摘んでいる。
庭の様子は、窓を開け放てば執務室からでも窺うことができる。もっとも、そこから身を乗り出すようにして下の様子を始終覗いているのは、父親のウィルではなく、今や使者というよりも爺やという印象のフレアの方である。
「……ねぇ、フレア。そんなに身を乗り出すと落ちるよ」
「ご心配には及びません。いざとなれば飛翔できますから」
少々呆れ気味にウィルが言っても、フレアは気にしない。ウィルも別に本気でフレアが落ちると思っているわけではない。もはや髪の色は完全に抜け落ちて白銀となってはいるが、体つきには全く衰えを感じさせない。
その横顔は幸せそうに緩んでいる。やれやれ、とため息をつきながら、ウィルもまんざらでもない笑顔を浮かべる。
今のところ、双子の子供たちは順調に育っている。今後覚醒を起こすことがあるのかどうかはまだわからない。だが、今から気に病むことはないとウィルは考えている。今はただ穏やかに、その成長を見守ろう、と。
トントン、とノックをしてリーフが扉を開けた。
「少し休憩にしませんか?外はすごく気持ちのいい天気ですよ。テラスにお茶を用意しています」
「じゃあお言葉に甘えて。ありがとう、すぐ行くよ」
テラスでは先程まで走り回っていたクウとナナがマリィの両隣に座ってあれやこれやと喋っている。すっかり母親という雰囲気になったマリィは両方の話に相槌をうちながら二人のお菓子を準備している。
ウィルとフレアのお茶を給仕しながらリーフが告げる。
「今日のお菓子はユアが送ってくれたものなんですよ」
「ユア……懐かしいな」
あれからユアは、いよいよ高齢となった竜の媼アヴェルの身の回りの世話をするために城を離れた。その名を聞くのは久しぶりだった。だがリーフによれば、このように菓子を送ってくれたり、今でも交流はあるようだ。ここのところ忙しくしていたウィルが知らなかっただけのようだ。
最近ようやく、世界各地の自治府との諸々の手続きが終わったところだ。場合によってはウィル自身が自治府まで赴くこともあったため、こんなにも時間を要してしまった。ただ、これだけ時間をかけたことで、世界に渦巻いていた漠然といた不安のようなものは少しずつ薄らいできているようだ。これでやっとウィル自身も少し落ち着くことができる。
子供たちと過ごすマリィは穏やかな表情をしていて、ウィルは安心した。この城にやって来た当初とは比べ物にならないほど笑顔も増えたし、肩の力も抜けているように見える。それは喜ばしい変化だった。
双子に目をやっていたマリィが、ふと顔を上げてこちらに目を向ける。首を少しかしげて笑いかけるので、ウィルも笑顔を返す。
穏やかで、幸せな時間。願わくはこの時間が少しでも長く続くように。見上げた空はすべての願いを吸い込むような清冽な青に染まっていた。
〈終〉
これにて本作は完結となります。
連載約一年二ヶ月、お付き合いいただきありがとうございました。
またいつか、別の作品でお会いできることを願って……




