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57 それぞれの行方

「フレアたちが最後?」

 執務室でのこと。ふとフレアが漏らした言葉にウィルが反応した。曰く、影に生きる者たちが城へ仕えるのは、今の代であるフレアとリーフが最後になるかもしれない、と。フレアがその真意を説く。

「あくまでも我々の祖先が契約を交わしたのは当時の魔族の統治者でしたから。純血が途絶えるというのはその頃には想定されていませんでした。契約としては当代で途絶えると考えるのが妥当ですが、これからをどうなさるかは次の代の方次第です」

「そう、なんだ……」

 ウィルは改めて、自分が時代の変わり目に立たされていることを自覚した。今までの慣例さえ変わりかねないというのは、何とも落ち着かない気分を伴うものだ。ここへ来てようやくウィルは、この世界を今覆っている不安の根源に触れた気がした。

 今まで誰も経験したことのない時代が、ついにやって来る。それによって何がどう変わるのか。どう変えていけばいいのか。それをひとつひとつ検分していかなければならない。

 影に生きる者と魔族、というよりも当時の統治者との契約が交わされたのは遠い昔。それは世界の創世神話が確立してまだ間もない頃のことだった。彼らはその経緯も何もかもを彼らの間だけで口承によって伝えてきた。文献の類いは一切残していない。世界にわずかに存在する一部の賢者だけが、彼らこそが真の叡知を湛える者であることを知っていたーーそれはアヴェルやホラウといった、長き時を生きてきた者たちだった。

 執務室で仕事を片付けながら、ウィルは今後のことに思いを馳せていた。この世界に生を受けてからずっと変わらずにあった暮らし。肌に馴染んだ今までの秩序や概念が急にがらりと変わってしまったら、それに順応していくのはひどく大変な所業に思えた。もちろん、やむを得ないこともあるだろう。でもできることなら、せめて少しずつ変化していくように。その環境を整えるのが己の責務であると感じた。先代の、父ができる限りの道を敷いて逝ったように。

「うん、それがいい」

「はい?」

 思わず独り言を漏らしたウィルを、別の仕事をしていたフレアが訝しげに振り返る。その様子があまりにも普段通りなので、ウィルは思わず笑った。

「ううん、なんでもない」

 それでもクスクスと笑っているので、フレアはしばらく首をかしげていた。


    *    *    *


 その頃、マリィは自室で筆をとっていた。それは手紙、というよりも、招待状を書くためだった。宛先はラピア。もう随分会っていない旧友にあてたものだ。

 実は先ごろある提案を受けていた。それはウィルとマリィの婚姻にあたり、長らく催されていなかった祝宴を開くことだった。時代が大きく変わるこの節目にはふさわしいだろうと、リーフが提案したことだ。皆は新しい世界がどうなっていくのかという不安を持っているが、そこには希望だってあるはずなのだ。新しい時代の始まりを明るい空気で迎えたい。そのひとつのきっかけとなればいいのではないかということだった。フレアやウィルも賛同を示したため、その方向で準備が進められることとなった。

「あまり派手なことはできませんが、せっかくですからどなたか懇意の方をお呼びしてはいかがでしょう」

 そう言われたとき、真っ先に浮かんだのがラピアのことだった。あんなにマリィのことを親身に思ってくれたラピア。今も元気にしているだろうか。そう思うと切なさがこみあげてきて、胸の奥が苦しくなった。

 忙しさにいつしか心の底にしまいこまれていた、ここへ来る前の暮らしが急に懐かしく思い出された。あっという間だと思っていたのに、時は流れているものだった。季節はいつの間にか移ろい、花盛りのときを迎えていた。

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