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54 影に生きる者たち

 魔の棲む城が鎮座する山の麓には、鬱蒼とした森が広がっている。そこは昼間でも日が差さないため、常に濃い闇に沈んでいる。一度迷いこんでしまえば二度と日の光を浴びることはかなわないような、深い闇。

 普段は誰も足を踏み入れないが、唯一の例外は城へ出向く時である。そのときはどうするか。できうる限りより集まって隊列を組み、篝火を焚いて粛々と進むのだ。城までは決まった通路があり、踏み固められた細い道が続いている。少人数であれば、翼を持つ者ーー大抵は鳥族か竜族の血が入った者ーーに上から運んでもらうということもある。実際、昔はそういうことを生業にする者もいたが、城への来客がめっきり減った今では廃れてしまっている。

 明かりを灯さなければ、一メートル先も見通せないような闇の中。太古の昔から立っていたというような大木が密に折り重なるように生えている。空が木々の枝葉で覆われているせいで、下草もほとんど生えておらず、腐葉土が積もった地面は常にじっとりと湿っている。生ける者を寄せ付けないようなその場所に、昔から棲んでいた者たちがいる。それが、真の意味で神話にも登場しない「影に生きる者」だ。

 城を訪ねる隊列の篝火も届かないような奥の奥。自然の倒木や枝葉、大小の岩がそこらじゅうに転がっていて、慣れない者が足を踏み入れれば怪我は免れないような天然の要塞のようなその場所で、彼らはひっそりと、誰の目にもつかぬように生活している。

 彼らの住居は洞穴だ。木々や岩の合間を縫って自力で掘られたものか、あるいは自然にできた洞窟か。広さは集住している頭数によって様々だ。湿気が多く、火を焚くことはほとんどできないため、蓄光石が唯一の明かりとなる。環境で言えば、住みづらいことこの上ない。他の種族ならこの地に住むことなど選ぶはずもないような、世界の辺境。

 ではなぜそんな場所に彼らは住んでいるのか。それは、他の種族から見て彼らが異形の者だったからだ。

 彼らの中だけで、口伝によって伝えられた伝承がある。それは、創世神話が語られるよりもずっと昔のことである。その頃は、彼らも普通に日の当たる場所で暮らしていた。争いもない穏やかな日々。しかしそれはあるとき突然奪われた。彼らの住んでいた地にやって来た他の種族によってその地を追われたのだ。

 神話に登場する他の種族にとって、二つの姿をもつ彼らはひどく特異な存在だった。その者たちは彼らを忌み嫌い、辺境の地へと彼らを追いやったのだ。楽族が神話を語る前に、彼らは日の当たる表の世界から姿を消した。それ以降、どの種族とも関わらずに、息を潜めて静かに暮らした。

 状況が変わったのは、魔族が世界を統べる存在として城を構えた頃だ。

 居が近かったこともあってか、魔族と彼らは接触する機会が多かった。やがて野に下った魔族たちも森の中に住みはじめ、その機会はさらに増えた。そんな中、とある代の統治者が、彼らを城へと招いたことがあった。はじめは戸惑いからその申し出を断っていた彼らも、あまりに熱心に招かれるので、ついにその申し出を受けた。

 城へ出向くと、統治者を筆頭とする当時の魔族は彼らをいたく気に入った。その頃には既に楽族の語った神話が確立しており、彼らがそこに登場しない存在であることも明らかだったが、魔族は彼らを忌み嫌うことはなかった。むしろお互い居を近くする者として交流していくことを望まれた。

 日の光から遠のき、影に生きる者となって初めて共存を許してくれたのが魔族だった。僻地に追いやられた存在であった彼らにとって、そのことがどれだけ励みになったことか。彼らはその恩を返す思いで魔族にすすんで仕えるようになった。それが現在まで続く、使者と従者の始まりだった。

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