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53 真相

 その日、いつものように夕食を終えたあと、約束どおりウィルが切り出した。

「フレア、リーフ。……それにユア。ちょっと話したいことがあるんだけど、いいかな」

 ウィルとマリィ以外の三人はそれぞれ席を立とうとしていたところで動きを止め、こちらに顔を向ける。急なことで何事だろうと不思議そうにそれぞれ顔を見合わせるが、最後には皆座り直した。リーフだけは、食器を片付けてから戻って来たが。

 この話を訊くのにユアを同席させるかどうかは少し判断に迷った。事の真相を知るだけであれば、ユアは無関係であるから、この場にいる必要はないとも言える。だがウィルには引っかかっていることがあった。それはユアがマリィを妃に相応しくないと考えていることだ。それならばいっそユアにも一緒に聞いてもらえば、そのわだかまりもなくなるかもしれない。そういう理由から、ユアもこの場に残ってもらった。

 一瞬目を伏せて、息を整える。そして改めて皆と向き合う。その所作には少しだけ、この城の主としての、あるいは統治者としての威厳のようなものが垣間見えた。ゆっくりではあるが確実に、ウィルもその位に相応しい者へと成長しているのだ。

「これは、マリィと話し合ったことなんだけど、これからのことを考えると、マリィが妃に選ばれた理由を訊いておいたほうがいいって話になったんだ。フレア、説明してもらえるかな」

「理由、ですか」

 訊き返すフレアはいまだに怪訝そうな表情をしているが、唯一ユアだけはその顔を引きつらせた。きっと自分が余計なことを言ったからだと思っているのだろう。それでウィルは先に言った。

「今わざわざ訊かなくても、いずれわかることという気もするけれど。でも実際今マリィはそれを気がかりにしているし、不安は早いうちに解消しておいたほうがいいでしょう」

 その不安にはユアの気持ちも入っているということを、ウィルはユアに目配せをすることで暗に示した。ユアは自分の発言を責められるわけではないとわかってほっとしたようだ。

 フレアはしかしまだ納得してはいないようで、今度はマリィに向き直る。

「何がマリィ殿を不安にいているのでしょう」

 それでマリィは自ら口を開いた。

「どうして私なのだろうというのは、ここへ来てずっと考えていることです。それで思い当たることを探してみて……もしかしたら、血の記憶が関わるのかなって」

 それからマリィは先頃明らかになった楽族の血の記憶について語った。純血と共に絶えて久しかった、語り部という血の記憶。

「もしそれで私に何かを期待されてて、でもそれが予想と違っていたなら、私はやっぱりここにいるべきではないのかもしれないと思って……出来るだけ早く確かめなきゃいけないと思って。楽族の血の記憶のことは、知られていなくてもおかしくないし……」

「……知っていましたよ」

 マリィの独白を途切れさせたのは、フレアの静かな声だった。うつむき加減で喋っていたマリィが顔を上げると、真摯に見つめるフレアと目が合った。

「マリィ殿をそこまで悩ませてしまうのであれば、もっと早くに説明すべきだったのかもしれません。申し訳ない」

 頭を下げたフレアを驚きや戸惑いと共にマリィは見つめた。責めるつもりで言い出したことではなかったのに。

 再び居住まいを正すと、フレアは訥々と語り始めた。

「我々はウィルの妃を探す際、ひとつの条件を出しました。それはできるだけ純血に近い血を持つ楽族の者ということでした。しかしそれは、血の記憶が関わっていたのではありません。歴史的に、魔族と楽族が近しい種族であることを知っていたからです」

 この言葉に驚いたのは、マリィだけではなかった。思わず顔を見合わせたウィルも同じように驚きをあらわにしている。

「初めて聞いたよ、そんなこと」

「そのはずです。このことは我々、『影に生きる者』が秘匿しながら受け継いできたことだからです。これを語るには、まず我々の存在についてお話しせねばなりません。創世神話に真の意味で語られていない、我々のことを」

 マリィには、フレアの話は謎めいて聞こえた。真に語られていないとはどういうことか。神話に出てこない存在とは、楽族のことではないのか。

 その疑問を心得ているというように、フレアは再びマリィに向けて語った。

「先ほど、楽族の血の記憶についてお話ししてましたね。語り部の種族だったと。楽族が神話に登場しないように見えるのは、その血の記憶のためです。つまり、この我々の世界を定義づける最も重要な創世神話を語り継いで来たのもまた、楽族だったのです」

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