47 二人の冒険
マリィはうきうきとした様子のウィルにただついて行った。部屋を出たウィルは迷いなく歩いていく。行き先を知らないマリィとしては不安もあるが、引き留めるわけにもいかない。相手はこの城の主なのだし、ここは任せることにする。
しかしウィルは不安をあおるようなことを言い出す。
「外から見ても大きな城だけど、それ以上に中は広いんだよ。昔はもっと大勢で住んでたからね。今は使ってない部屋がほとんどだけど。けっこう入り組んでて、僕も時々迷っちゃうんだ」
「えっ?」
「フレアによく怒られてさ。あ、だから今から行くところのことはフレアたちには内緒ね」
ウィルは声をひそめて、まるでいたずらを企てる子どものようにささやく。マリィはこくりとうなずいたが、内心ではどこかで迷子になるくらいなら、怒られるはめになってもフレアに見つかった方がいいなどと思った。
こうして歩いてみると、なるほどその複雑さがわかる。ウィルやマリィが普段過ごしているのはたくさんの個人用の部屋が並んでいる一角で、その下が食堂になっている。その辺りは廊下や階段で繋がっているだけなので移動も容易だが、そこから入り口のフロアまで降りて奥へ入っていくと、そこから先はいくつもの通路に枝分かれしている。外から見ると要塞のように見えるいくつもの尖塔はそれぞれが独立していて、ここからそのそれぞれに通路が繋がれているためだ。途中で曲がりくねっているのは、後から無理に増築されたからだ。
ウィルはその内のひとつに入っていく。薄暗くてやはり曲がりくねった通路の先を見通すことはできない。
先へと進むにつれ、窓のない通路は暗さを増してゆく。マリィは心細さをなんとか飲み下す。歩くたびに足元からぴちゃ、と水溜まりを踏んだような音がする気がしたが、あえて無視した。
じめっとした通路の先には扉があった。どうやら目的の場所に着いたようだ。
ウィルが閂を外して扉を開ける。一瞬かび臭い空気が鼻をついた。
先に立ったウィルが壁面のランプに火を入れると、部屋の中の様子がわかった。そこは倉庫のようだった。たくさんの箱が置かれ、奥は棚になっている。そこには何やらやけに古そうな書物のようなものがぎっしりと詰まっている。
どこもかしこも埃が積もっているが、ところどころその埃が払われたところがある。まるでそこから何かを移動させたように。
その内の一ヵ所にウィルが近づく。そして棚から一冊の書物を取り出した。
「僕はたまにこの部屋に来て本を読んでるんだ。これは最近読んだうちの一冊だよ」
確かにその本は積もっていたと思われる埃が綺麗に拭われていた。ずっしりと重いその本を開いてみる。挿し絵の入った絵物語だった。
「面白そうでしょ?」
楽しげな声で尋ねてくるウィルに、マリィは怪訝そうに首をかしげた。
最近リーフを家庭教師役として勉強を続けているマリィは、リーフが書斎から見繕ったいろんな書物を読んでいる。しかしそれらはどれも歴史書や風土紀の類いで、このような物語はなかった。勉強のために読んでいるので当たり前なのだが、だからこそ今このような本を見せられた意図がわからなかった。
ただそれは、マリィにとってはひどく懐かしい手触りのするものだった。以前はとても本が好きだったから。母が読み聞かせてくれた本を、自分でも何度も読んだ。今までに読んだことがない本を目の前にして、読んでみたいという気持ちがこみ上げてくる。
そんなマリィの思いを知ってか知らずか、ウィルはその意図を説明した。
「ここにはこうした物語の本がたくさんしまわれてるんだ。書斎ではなくこの部屋に。昔の統治者が集めたものらしいんだけど。不思議なことに、そのほとんどに作者名が書かれていないんだ」
指摘されて、マリィは本の表紙を見た。確かにそこにはタイトルらしきものは書かれているが、作者は特に記されていない。
「実は、これらの本にはあるいわくがあるんだ」
「どんな?」
マリィはここへ来て初めて自分から積極的に問い返した。目の前の本に興味をひかれたからだった。そのことに満足したようにウィルが応えた。
「これらはすべて、かつて楽族が書き残した物語だったんじゃないかってこと。他の種族にはこのような物語を生み出すことはできなかったから」




