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「こちらにはもう慣れた?」

 応接用のソファに座るよう促しながら、ウィルはマリィに訊く。マリィは固い表情でこくりとうなずく。その様子では本当に慣れたのかは疑問が残る。

 向かい合わせに座る。ウィルはぎこちなくなることを承知で笑顔をつくった。

「それで、僕と話したい気になってることって?」

 本当ならもっと当たり障りのない会話で解きほぐしてから本題に入るものなのだろうが、ウィルにはまだそのようなスキルはなかった。なにせこの部屋にフレア以外の者と一緒ということ自体初めてなのだ。賓客を迎えるようなことはまだ一度もない。

 ウィルもひどく緊張していたが、それはマリィも同じだった。うつむきがちに、言葉を探している。

「あの、今さらこんなことを言うのもどうかとも思うんですけど……」

 視線が左右にさまよっている。とても話しにくそうだ。ウィルは先に切り出した。

「僕に気を遣う必要はないよ。気軽に話して」

 マリィは一瞬窺うようにウィルを見ると、やはりうつむきがちで話し始めた。

「……どうしても、わからなくて。私が選ばれた意味が」

「意味?」

 おうむ返しに問うと、マリィは唇を噛んだ。

「私は今まで、自分が引いた血が原因でいろんな目に遭ってきた。髪の色や、耳が大きいことや、そうした楽族の血のせいで。嫌われ者だったの。それがいきなり、あなたの妃になるのだと聞いて……正直、何かの間違いなんじゃないかって、今でも思ってる」

 自分のことを語るマリィは辛そうで、ウィルもいたたまれなかった。マリィが顔をあげる。そこには不安が滲んでいた。

「ねぇ、これは本当に何かの間違いじゃないの?私はこれからも、ここで、生きてていいの……?」

 今にも泣き出しそうなマリィに、ウィルは静かに質問を返す。

「どうして、そんな風に思うの?」

「だって、あまりにも今までと違うから。あんなに街の人たちからは疎まれていたのに、こちらに来てから、生活のすべてが変わってしまって……。それに、ユアにも言われたの。統治者を継ぐ魔族は純血を守ってきたのに、一番最初に純血が途絶えた楽族の血を妃に迎えるのはおかしいって」

 ウィルから見ても、マリィは不安定な状態に見えた。環境の変化が大きすぎて負担になっているのかもしれない。

 何とかして、マリィの心を解きほぐしてあげたいと思った。

「大丈夫。間違いなんかじゃないよ」

 声に確信がこもるように、はっきりと言う。目の前で震えている少女を安心させるために。その言葉を聞いて、やっとマリィはウィルをまっすぐに見た。

「僕は不思議なぐらいだよ、君にそんなに自信がないのが。少なくとも僕ら魔族には楽族だから疎むという発想はないし。君を妃として連れてきたフレアとリーフも同じだよ。それは君も、二人を見ていればわかるんじゃない?」

 ウィルが問えば、マリィはゆっくりとうなずいた。

「ユアの言ったことが気になると言えば気になるけど、どのみち純血は僕で途絶えるからね。どうしてもそこが引っかかるのなら一度調べてみても……そうだ」

 幾分思案するような様子で話していたウィルは、急に何かを思いついたような顔をした。

「じゃあ、これから調べてみようよ。僕も気になってたことがあるんだ。楽族のことについて」

 いきなりの提案にマリィは目を丸くした。しかしとうのウィルはいいことを思いついたと言いたげに一人で何やら納得している。

「そうしたら僕の疑問も晴れるし一石二鳥だな」

「あの、その気になってたことって?」

 当然の疑問を口にされて、ウィルは我に返る。どうも一人で思案することに慣れすぎて、周りを放っておいてしまうきらいがある。ウィルは気まずげに頭をかいた。

「ごめん、おいてけぼりにして。でも今ふと思ったんだ。楽族の血を引いた君がいる今なら、長い間もってたこの疑問も解けるんじゃないかって」

 マリィの質問の答えにはなっていないということに、この時のウィルは気づいていなかった。少し舞い上がっていたかもしれない。

 統治者の役についてから心の中にしまっていた好奇心が、再び顔をのぞかせていた。

「僕と一緒に、疑問を解決してくれる?」

 ウィルの目は輝いていた。マリィはそれに気圧されたように小さくうなずいた。

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