43 助言
「使者どもがどういう判断で今回のことを決めたのかは私にもわからぬ。だがどのみち純血の魔族は当代で途絶えるのだ。それから先は、全くの新しい時代となるのだ。未来のことなど誰にもわからぬ。ならば今は示された道を試しに歩いてみるのもよかろうと私は思うがね」
最後にホラウはそんな助言を与えて二人の娘を見送った。
海面から空中へ出て、通常の空中飛行に戻ると、ユアは気まずげに口を開いた。
「騙し討ちのような真似をして、ごめんなさい。それでも私はこのことを内に秘めたままで、あなたと向き合っていくことはできないと思ったの」
「……」
風圧にも慣れてきて、ユアの言葉はなんとか聞き取ることができた。ただそれに応えることはできなかった。それは風で口がきけないというわけではなく、深く物思いに沈んでいたからだ。
マリィは確かに、今まで世界のことを知らなさすぎたのかもしれない。それは仕方のないことだったとしても、ホラウの言葉はマリィに新たな不安をもたらした。それはおそらく、世界中の者たちが今感じているであろう不安。
それは純血が絶えた後の、未知の未来への大きな不安。
一体それは世界に何をもたらすのか、誰もわからないから戸惑っている。これからの生活はどうなるのか、どうやってその新たな時代に備えればいいのか、変わることが大きすぎて答えを導くことができない。そのとてつもなく大きな不安が世界を覆ってしまっている。ユアも、おそらくはホラウも、そしてウィルたちも。
それでも世界は進んでいってしまう。否応なしに。
急にマリィは今しなければならないことに思い至った。大きな不安を感じたからこそ、はっきりした思いだった。
とにかくまず、ウィルと話さなければならない。運命の時はもう進みはじめてしまっているのだから。
城に着くと、しかしすぐにフレアとリーフが飛び出てきて、マリィはリーフの腕に絡めとられてしまう。
「心配しておりました。お怪我はございませんか」
「い、いえ、大丈夫です」
「よかった。あまりに遅いものですから、何かあったのかと。あと一時遅ければ、フレアが捜しに行くところでした」
ほっとしたように息をつくリーフを大仰だという思いで見ていたマリィだったが、よく周りを見てみればもう日が中天をとうに過ぎている。出発したのは朝だったのだから、確かに随分長い時間の外出になっていた。
「あの、ごめんなさい。心配かけて」
「あなたに落ち度はないですから、謝る必要はありませんよ」
そう言ってリーフはマリィの肩を抱いて城の中へ入っていく。首だけで振り返ると、今しがたまでマリィを背にしていたユアがフレアと対峙しているのが見えた。その姿が小さくうなだれて見えて、マリィは促されるままに歩いていた足を止めた。
「あの、ユアを怒らないでください」
背を向けていたフレアは驚いたように振り向く。そのフレアが何かを言う前に、マリィが早口で言う。
「その気持ちはわかる気がするから、お願いします」
そして後の言葉は聞かずに再び城の中へと歩きだした。背後でリーフとフレアが目を合わせた気配がした。
マリィの身をいたわるように寄り添いながら、リーフが訊く。
「一体どちらに行かれていたのですか?」
「海の賢者のところに」
「まぁ、そんな遠くまで」
話しながらリーフはマリィの部屋へ誘導する。本当は今すぐにでもウィルと話をしたほうがいいような気がしたが、今は忙しいかもしれないと思い直した。年の頃はあまり変わらないとはいえ、相手はすでに統治者として世界を担うという大きな役目を果たしている者なのだ。
部屋に着くと、マリィは促されて椅子に座った。
「少し休んでください。今お茶を淹れますから」
すでに盆の上にお菓子が用意されている。その隣には湯を入れたポット。それらで茶を淹れるリーフを見て、マリィは考えを変えた。まずはこのリーフに話を聞いてみよう。
「お願いが、あるんですけど」
茶の準備をしていたリーフは振り返って微笑んだ。
「何でしょう」
まるでお願いされることが喜びだとでもいうようにきらきらした目で見つめられ、マリィは一瞬たじろいだが、もう後には引けないという思いで言った。
「いろいろ、教えて欲しいんです。このお城のことでも、ウィルのことでも、何でも」
それを聞いたリーフは目をぱちくりさせるばかりで応えないので、マリィはしばらくいたたまれない思いを味わった。




