41 ユアの告白
マリィは身を固くした。暗がりに慣れてきた目にはユアの背が映る。その背が、気のせいかもしれないが震えているように思う。そして意を決したように口火を切った。
「ホラウ殿の言う通りです。私はそのことについて話さなければならないと思いました。ですが私一人では、きちんと話せる自信がありませんでした。それで、ホラウ殿に後見人として見守っていただきたく、ここまでマリィ殿をお連れしたのです」
それは、ユアに会ってから初めて聞くような、きっぱりとした物言いだった。一体何を聞かされるのだろう、と思っていると、ユアが再び身じろぎした。
「背から降りていただける?」
「えっ?でも……」
「大丈夫。息ならできるわ」
そう言われてマリィは恐る恐るユアの背を降りてゆく。ユアを包んでいた膜が今はマリィの体も包んでいて、確かに息はできる。しかし。
「きゃっ」
海底の岩に足をとられてよろめく。いくら暗がりに目が慣れたとはいえ、そんなにはっきりと見えるわけではない。そんなマリィの様子を見て、やっと思い至ったというようにホラウが言う。
「あぁ、そうだった。地上の者にはこの世界は暗すぎるのだったのう。地上からの客人なぞ久しく迎えておらぬゆえ、忘れておった」
目の前の巨大な気配が動く。すると辺りがほんのりと明るくなった。ホラウが手に明るく光る結晶の塊のようなものを持っている。
「さて、これで少し明るくなったろう。前に使者が持ってきた蓄光石が役に立ったわい」
蓄光石というのは鉱物の一種で、地上の光の当たるところに置いておくとその光をためることができる。火を使うことのできない場所で光源として利用される。マリィがいた街で使われることは滅多にないが、湿気の多い地域や天然ガスが湧出している土地などでは重宝されているものだ。もちろんマリィは初めて見るものだったが、それ以上に今初めてその姿を確認することとなったホラウのほうに圧倒された。
大きな体の表面は滑らかで、鈍い銀色に輝いている。それはまるで海の色を凝縮したような美しさだった。二つのつぶらな目は意外にも真っ黒で、つるりとした表面が光を反射していたために光って見えていたのだとわかる。脚はなく、かわりに大きな鰭があり、その鰭を折り畳むようにして座っている。
思わず呆けたように見上げていると、ホラウが朗らかに言う。
「さて、お嬢さん。マリィ殿と言ったか。跳ねっ返りのユアが何か物申したいようだ。聞いてやっておくれでないかい?」
「は、はい……跳ねっ返り?」
隣のユアを見ると、心なしか頬が赤い気がする。跳ねっ返りというのはお転婆ということだろう。ホラウは幼い頃のユアを知っているのかもしれない。
改めてユアとマリィは相対した。緊張しているからか、ユアの表情は硬い。
「もうずっと前に決まっていたことだし、私が口を出すようなことではないのは、わかっているつもりです。でも正直に言えば、解せないことではあった。これまで純血を守っていた統治者の血筋に、よりによって楽族の血を引く妃を迎えるなんて」
マリィはユアに言われたことにびっくりするのと同時に、心がちくりと痛んだ。ここまで来てもやはり血の話になってしまうのだ。一体楽族が何をしたというのだろう。どうしてこんなにも嫌われているのだろう。そんなに極悪な種族だったのだろうか。その血を濃く引いているマリィでさえ、どんな種族だったのか、容姿以外のことなどわからないというのに。
「どうして……?」
絞り出した声に、ユアはたじろいだようだった。これ以上のことを述べるべきか、一瞬考えたようだった。苦い顔をして、それでも今伝えるべきだと判断した。
「楽族は、最初に純血が滅んだ種族。それだけ血を交えることに積極的だったということですわ。そしてその対極ーー混血を最後まで嫌ったのが竜族だった。私たちは対極の思想をもった種族の血を引いているのです」




