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32 攻防

 ラピアはふいにマリィの首に腕を回してふわりと抱きしめた。

「ごめんマリィ。こんな大変なことになってるって、もっと早く気づけばよかった。私はあなたを贄になんてやるつもりはない。そんなの平気なわけないじゃない」

 体を離すと、今度はマリィの目をのぞきこんで諭すように言う。

「いい?大人たちの言いなりになんかなってちゃダメ。だってそうしたらマリィは贄にされちゃうのよ?たとえ捕まっても諦めないで、何とか逃げ延びるの。私も協力する。死んじゃったら全部終わりだけど、生きてれば何とでもなるんだから」

「う、うん……」

 その気迫に押されて、マリィは控えめに返事をした。ラピアは「私の言ってること、本当にわかってるのかしら」と言いたげなうろんな表情で見つめ返す。

 そんなラピアの表情には気づかない様子のマリィは別のことが気になった。いつの間にか首元でしゃらりと揺れるものがかかっている。手にとってみると薄くて丸いキラキラした片に紐を通してある。さっきラピアが抱きついたときに首に付けられたようだ。

「お守りよ」

「お守り?」

「竜の鱗。収穫祭の日に拾ったの」

 竜の鱗ーー稀に装飾品として出回ることがあるそれは、竜族の血を継ぐ者の体表を覆っているもので、手のひらより少し小さい薄い片だ。成長や体の老化で自然に剥がれ落ちるが、硬いので割れたり分解されたりせずに残ることが多く、細工物の職人が集めて装飾の材料にする。光を乱反射するので角度で色が違って見え、人気があるためそれを使った装飾品はいい値がつく。一部の地域ではその頑丈さから不死の徴としてお守りのように使われている。

「さ、そろそろ行くわよ。こっち」

 言いながらラピアはマリィに褐色のフードを被せ、路地の反対側へと誘う。狭くて足場が悪いのもものともしないでどんどん進むラピアに、マリィも必死で付いていく。

 どこからか、ざわざわと大人たちが騒ぐ声が聞こえてくる。マリィはそれをできるだけ聞かないようにした。

ーーどこへ行った。あれは大切な贄だぞ。

ーーこんな失態を知られるわけにはいかない。早く捜せ。

 自分のことを物のように扱うそれらの言葉はマリィから気力を奪う。なんとかラピアに付いていくことだけに集中する。

 先行していたラピアが立ち止まる。路地が途切れ、大通りに出る。建物の影から様子を伺ったラピアがタイミングを計る。

「行くよっ」

 掛け声に合わせて駆け出す。暗がりになれた目が急な明るさに一瞬、眩まされる。

「いた!あそこだ」

 結果だけを言えば、その一瞬が命運を分けた。ラピアの後ろ姿を必死で追ったが、大人に見つかってしまえば逃げ切るのは容易ではなかった。次の路地へ潜り込むあと一歩というところで、マリィは男に腕を絡めとられた。

「マリィ!」

 それに気づいたラピアが引き返す。が、再び大通りに出た瞬間にラピアもまた捕まった。

「こら!このおてんば娘!何をやらかしてくれるんだ」

「離してよ!マリィ!」

 マリィを連れた男はどんどん遠ざかってゆく。ラピアは悔しさに顔を歪めた。マリィは後ろを振り返るのが精一杯で、振りほどくことなどできそうにない。それもそうだろう。マリィはあの家に閉じ込められて育ったのだ。街の中を駆け回ることのできるラピアたちならともかく、マリィの体力で大人に対抗するなど無理な話だった。

「マリィ……」

 その姿を見つめることしかできないラピアは、それでもここから逆転させる術がないか必死で頭を巡らせていた。

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