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31 再会

 マリィは目を白黒させた。いきなり腕を引かれて路地に引き込まれたからだ。

「きゃっ」

 思わずあげた声にシッ、と咎める声が重なる。

「あまり大声を出さないで。見つかってしまうわ」

 声を低くして話す、マリィを引き込んだ張本人の正体に、さらに驚かされる。

「……ラピア?どうして?」

 そこにいたのは、あの収穫祭以降会うことのなかったラピアだった。


    *    *    *


 一方、その頃煙をあげる家の中では。

「ゲホッ、ゴホッ、まったく。リリカのやつ。楽な方の役取りやがって。ゲホッ、でも、私にゃあいつほど演技力、ゴホッ、無いけどね。ゲホッ、ありゃ大人になったら、ゴホッ、悪女に、ゲホッ、なるね」

 そこは随分使われてない空き家だった。一時誰かが間借りしていたのか、鍵は壊されていた。その土間のところで、集めてきた枯れ葉やらぼろ切れやらで盛大に煙にむせながら焚き火をしているのは、三人娘の一人、トミィだ。なぜ土間なのか。板間でやったら本当に火事になってしまうからだ。燃やしているのは無駄に煙の出そうなものばかりで、火種はそんなに大きくないのに真っ白な煙がもくもくと上がっている。お陰でトミィはもう既に涙目で、口を押さえながら懸命に火を焚いている。今頃リリカが火事を騒ぎ立てて向こうの気を引いているはずである。ラピアは無事マリィと落ち合っただろうか。

 その時。バタンッ、と大きな音をたてて空き家のドアが開かれた。その先は煙でよくは見えないが、リリカが上手く一仕事終えて戻って来たのだろうと思った。ところがその時聞こえてきたのは「うわっ、何だこれは!」という野太くしわがれた男の声だった。

「げぇっ」

 思わず身を縮めたのは、その声の主がこの辺を指揮する自警団の団長、トウキのものだとわかってしまったからだ。

「ごめん。ばれた」

 強ばった声で控えめに報告するリリカは既にトウキに捕まり、思いきり耳をひっつかまれている。

「えー、もう?」

 トミィはがっくりとうなだれる。結構頑張って火を焚いたというのに。

 そんな短い言い合いの脇で、うぅぅ……と低く唸っていたトウキが、怒鳴った。

「お前たちは一体何をやっとんのじゃっ!?」

 しかしそんなことで怯む二人ではない。ラピアを含めてこの辺りでは有名なおてんば跳ねっ返り娘たちにとっては、大人からどやされることなど日常茶飯事だった。リリカとトミィは煙越しに目を合わせる。

「何って、そんなの」

「決まってるわよねぇ?」

 そしてトウキに向けて声を揃えて宣言する。

「人助け」


    *    *    *


「バタバタして忘れそうだから今渡しておくわ。はい、これ」

 がさごそと斜めがけした皮鞄を探っていたラピアが差し出したのは、あの髪飾りだった。路地は暗くてよく見えないが、手渡されてみればその感触から繊細な装飾が施されていることがわかる。

「これを、私に?」

「あら、忘れた訳じゃないでしょう。マリィの分も見繕って来るって言ったの」

 マリィは言葉が出なかった。これは夢だろうかと思った。こんなギリギリのタイミングで会いたかったラピアに会えたこと。その友がこうして変わらずマリィを思ってくれていたこと。

 ずぅっと、ひどく寂しかった。友達など望んではいけないのだということもわかっていた。暗がりのような日々の中に、ふいに差し込んだ一条の光のように感じていた、ラピアの存在。

「もう、マリィは泣き虫さんねぇ。ほら、顔を上げなさいよ」

 涙で濡れる頬をラピアが拭ってやろうとすると、マリィはしゃくりあげながらやっとのことで言葉を紡ぐ。

「ごめん……ありがとう。私、嬉しかった。最後に、こうやって、ラピアと会えて」

 最後、という言葉に反応してラピアがピクリ、と動きを止めた。そして少し怒ったように言う。

「何言ってるの。逃げるのよ、ここから一緒に」

「……え?」

 思わず涙も引っこんだマリィはきょとんとラピアを見つめた。

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