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29 反逆の狼煙

 ラキは頭を抱えた。実の妹のように可愛がってきた小さな従妹は一体何を考えているのだろう。まだまだ子供だと思っていたのに、いつの間にか自分とは違う自我をもって成長していたということだろうか。

 倉庫のような建物に誘き入れられてしまった、あの後。ラピアとその友達、リリカとトミィの三人娘は、ラキにとんでもない要求を突きつけてきたのだ。

「もうすぐマリィは贄にされるのよね?」

 静かな声で問いかけというより念を押すように言われた言葉に、ラキはびっくりした。そんなことを、大人はともかくラピアのような子供が知っているとは。動揺して余計なことを訊いてしまう。

「誰にそんなことを聞いたんだい」

 その言葉は噂が真実であることを明らかにしてしまった。ラピアはまるで大人のようなため息をついて応える。

「街中で噂してるわよ。私たちにはわからないだろうって高をくくった大人たちがね。失礼しちゃうわ。子供だってわかるわよ、それくらい」

 ラキは頭をかいた。困った者がいたものだ。自警団に入っているラキはその話を自治府から聞いている。しかし内容が内容なだけに基本的には公言しないよう言い渡されているはずである。目の前の娘たちに事情を説明する言葉をラキは持たなかった。

 腕を組み、ラキを睨むように見てラピアは告げる。

「これだけは言っておくわ。私たちは納得してない。あの子は私たちの友達なの。仲間なの。どんな事情があろうと、大人たちの勝手になんかさせない」

「僕にどうしろって言うんだよ」

 いよいよ困りきった声で訊くと、ラピアはつんと顎を上げて応える。

「あら、最初に言ったでしょ。ラキ兄さんには私たちに協力してもらう。私たちのスパイとしてね」

「スパイだって??」

 まったく、このおてんば娘はどこでそんな言葉を覚えるのやら。

「私たちの最終目標は、マリィを奪い返すこと。そのためには情報がいるわ。たくさんの大人たち相手に情報もなしじゃ作戦だって立てられないもの」

「奪い返すって……本気で?」

「もちろんよ」

 ラピアの両隣のリリカとトミィも頷く。どうやらこの三人の中では話がまとまっているらしい。

 言い出したら聞かないラピアの性格は厭というほど知っている。そんなことはできないとここで突っぱねたところで引き下がるはずはない。もっと危険な手段をとるかもしれない。そんなことはさせられない。可愛い妹のようなラピアに、ラキは結局のところ甘かった。

「わかったよ。できることはしてみる」

 そう約束してしまい、しかしそれがいち自警団員のラキに許されることではなく、こうして頭を抱えることになったのだ。


    *    *    *


 結局ラキがラピアたちに情報をもたらしたのは、それから約半月後のことだった。マリィが次の月始めにどこかに移動させられるらしいというものだった。ラキも役人ではないのでそれ以上詳しい情報を知ることはできなかった。三人はその日、作戦を実行することにした。マリィ奪還作戦を……。

 作戦を練ったある日の帰り道。ラピアと別れたリリカとトミィは道すがら喋った。

「まぁ正直私やトミィはそこまで本気じゃないけどね」

「そだねぇ。ぶっちゃけマリィとはそんな仲良くなかったし」

 二人はそんな軽口をたたく。ラピアほどには熱くはならず、どちらかと言えばなだめる方に回ることが多い二人だ。

「でも私たちだって」

「大人の言いなりばっかは」

「嫌だものねぇ」

「だから、これは反逆」

「ラピアのための」

「でも私たちのための」

「油断してたら」

「痛い目を、見るねぇ」

 クスクスと笑いあう。それは一見、年相応の少女たちのさざめきのようだ。

 そして、その日は静かに、何でもない一日のようにやって来る。

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