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2 魔の棲む城

 よく晴れた青空を背景に滑空する黒いものが、城めがけて飛んでくる。それは一羽の烏である。しかしその大きさは翼の端から端までがゆうに3メートルはあろうかという巨大なものだ。その大きな真っ黒い鳥は城塞を飛び越えて尖塔の窓枠に留まった。その図体の割に軽やかに、いともたやすく留まっている。たたんだ両翼をくちばしで軽く整えると、慣れた様子でかぎつめを引っ掛け、窓を開ける。

 バサリ、とひとつ大きな羽音をたてる。

 次の瞬間、同じ場所に烏の姿はなかった。代わりに男が立っている。

 背が高く、すらりとしているというよりはガタイのいい体つきをした、初老の男という印象。眉間に刻まれた深いシワが切れ長の瞳と相まって厳めしさを強調している。赤銅色の髪はその半ばが白髪にかわり、銀色に紅を混ぜたような不思議な色をしている。

 ガチャリ、と音を立ててその部屋のドアが開いた。

「あら、フレア。お帰りなさい」

「……ああ」

 そこにいたのはリーフだった。紅銀の髪の男、フレアは無愛想に返事する。

「何か食べる?私たち、先に朝食済ませちゃったの」

「随分早いな」

 ふいにリーフはクスリと笑みを漏らした。フレアはそれを怪訝そうに見返す。

「ウィルがお腹空いたって言ってね。なんだかソワソワしてたわ。早くに眼が覚めたみたいだし。そうそう、あなたを捜してたわ」

「私を?なぜ?」

「さぁ。理由は教えてくれなかったけど」

 なぜか楽しげに話すリーフに、一体何がそんなにおかしいのか問いただしたい気分だった。しかしフレアは黙ってやり過ごす。片付けなければならない仕事を思い出したからだ。

「私の食事はいい。昼までぐらいはもつ」

 薄い外套をはずして棚にかけ、リーフに背を向けるように机につく。それは普段からフレアが執務に使っている机で、木製の年季物だ。

 羽ペンを薄手の羊皮紙に走らせはじめたフレアを見てリーフはやれやれとため息をつく。

「真面目もほどほどにしないと体に毒よ?」

「まだそこまで老いぼれていない。これくらい何でもない」

「そうですか」

 それ以上は何も言わず、リーフは部屋を出た。


 魔の棲む城ーーこの世に生きる者たちはある種の畏れをこめてその城をあだ名する。

 一体いつの時代から、世界を魔族が統べるようになったのかは定かでない。それは創世神話にも書かれていないからだ。そもそもこの神話がいつ、誰の手で語られたものなのかも遠い昔に忘れ去られてしまった。そして、その城がいつからそこにあるのかも。

 城には魔族以外に、代々住んでいる者がいる。「使者」と「従者」と呼ばれる者たち。それがフレアとリーフである。城に住み、魔族の身の回りの世話をするが、その一番の仕事は子育てである。城に住む魔族の子には、大抵の場合、親がいないからだ。

 彼らはおおむね二つの姿を持っている。例えばフレアのような烏の姿と、魔族の見た目と似たような人の姿。リーフにも猫という別の姿がある。彼らがどういう種族なのかもよくわかっていない。城のある山麓の森の中に生きる者たちで、必ず使者と従者が揃って城にいる。もし、城で彼らが亡くなれば、また新たな者がやってきてその役目を継ぐ。彼らは一体何者なのかーーある者は野に下った魔族と混血した者たちだといい、ある者は神話で語られる、はじめに世界に住んだ者の末裔だという。どれも確かな根拠などはなく、そんな謎めいた者たちが住むことも、城の存在を畏れさせる一因となっていた。

 そして今、フレアとリーフは代々受け継がれてきた最後の仕事にかかっている。今やたった一人になってしまった純血魔族の子、ウィルを育てるという仕事に……。

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