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27  戴冠式

 広間は各自治府から集まった役人たちで埋め尽くされていた。こんなに多くの者が城に集まるなど近年にはなかったことだ。混血がすすんだとはいえ、その顔ぶれは多様だった。肌の色や感触、目や髪の色、体の大きさ……。受け継いだ血の濃さや系譜によって、ある種族の特徴が色濃く出ることもあれば、間をとったように特徴が相殺されてしまうこともある。そんな者たちが一同に介しているものだから、まるで種族の博覧会といった様相だ。

 広間に満ちているのは、少しの倦怠と、高揚をはらんだ緊張の空気だった。

 役人たちはその多くが昨夜のうちに城に着き、あてがわれた部屋で一夜を過ごした。ほとんどが遠方の街からやって来た者で、城へ来るのも大半が初めてだ。自治府から城までは、程度の差こそあれ、長旅を強いられる。世界各地を渡り歩く行商ならともかく、旅慣れていない役人たちは人生で一度あるかないかというほどの長旅に誰もが疲れをにじませている。しかしそれと同時に、長らく不在だった統治者の座がようやく埋まるということで、その歴史的瞬間を目にすることに、ある者は興奮し、またある者は感慨に耽っている。

 客たちを広間へ案内したリーフは、まだ執務室に籠っているフレアのもとを訪れた。

「随分熱心ねぇ。もうすぐ始めるわよ?」

 フレアは机に向かい、何やらペンを走らせている。そのまま振り返りもせずに応える。

「これだけ片付けてしまわねば。式の後、ジル殿に渡さねばならん」

 それは今日集まっている役人の中の、ジルという者にあてた書簡だった。ペンを置いて内容に誤りや不備がないか確かめる。

「式が終われば、じきに彼の者を迎える準備だ」

 フレアの台詞に、リーフは天を仰いだ。

「まったく、目が回るほど忙しいとはこの事ね」

「新たな統治者が立つ時というのはこういうものだ。心配しなくともこの忙しさももうじき済む」

「それもそうねぇ」

 リーフが寂しそうにゆるくため息をついたことに、フレアは気づかなかった。


 そして、式は滞りなく執り行われた。

 設えられた壇上にウィルが現れると、広間は一時ざわめき、水をうったように静まり返った。誰もがその姿に注目する。あまりにも若い、最後の純血魔族。装飾の釦やカフスで彩られた肩幅の広い黒の詰襟に、深い赤のビロードでできた纏衣という出で立ちは、統治者の正装である。その衣装がまだまだ体には合っていない様子の少年のウィル。

 重厚できらびやかな冠を捧げ持って登壇したのはユアだった。彼女は役人たちに向けて一礼する。

「本来ならば、ここには我が嫗、アヴェルが登るべきですが、老齢で城まで足を運ぶことがままならず、僭越ながら孫娘の私、ユアがこの大任かわって務めさせていただきます」

 戴冠式で次期統治者に冠を授けるのは、古い竜族の血を引く者が務めるのが慣例だった。今の世ならば、アヴェルが適任なのだが、彼女はもう城まで飛ぶほどの体力を持ち合わせなかった。アヴェルと顔を合わせると緊張してしまうウィルにとっては、もう随分城に一緒にいるユアがこの役となって内心とてもほっとしていた。

 そしてユアはウィルに向き直った。ウィルはちょっとだけ不思議そうにその顔を見返した。そこに、随分前に見た表情が浮かんでいたからだ。アヴェルが世の理を説いた時に見せた、寂しげな表情。だがそれは一瞬で引っ込み、かわりに穏やかな笑みを見せる。

「どうかこの世をつつがなく治められますよう」

「……はい」

 何度も練習してきたのと同じに、跪いたウィルの頭にユアが冠を載せた。新たな統治者が誕生した瞬間だった。

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