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20 小さな戦い

 ラピアは怒っていた。そのとばっちりを受けてげんなりしているのは、いつも一緒に遊んでいる友達のリリカとトミィだ。

「んもぉーーーぅ!大人って勝手なんだからぁっ!」

 地団駄を踏んで暴れるラピアを、無駄とわかりながらもまぁまぁとなだめる。

「仕方ない、と思うよ?色々さぁ、事情?とかもあるんだよ」

「そうだよ。ほら、ずっと怒ってるわけにもいかないんだし、楽しいこと考えようよ」

 その台詞でぴたりと動きが止まる。やっと落ち着いたか、と二人がほっとした次の瞬間。

「楽しく、なんか、ならなぁーーーいっ!」

 ラピアが吠えた。辛うじて耳をふさいだ二人は、もしかしたら今日はずっとこの調子かもしれないな、となかば諦めたようにため息をついた。

 事の発端は、ラピアがまたあのスラム街へ入ろうとした時のことだ。

「こらっ!」

 ピィ、と笛を吹いてこちらへ駆け寄ってくるのは自警団の大人だ。今度こそ大丈夫と思ってタイミングを見計らって飛び出したのに見つかってしまった。チィッ、と舌を巻いてラピアは引き連れた他の二人とともになんとか自警団を撒いた。

 最近こんなことばかりだ。収穫祭の後、なぜかスラム街の周りを警備する自警団の数がどっと増えた。はじめは治安が悪い地区だから見回る者を増やしているのだと思ったが、どうもそれだけではなさそうである。その証拠に、こうしてラピア達が近づくと追い払われてしまうのだ。おかげでずっとマリィの元へ行けておらず、あの夜に見繕った品物も渡せていない。痺れを切らしたラピアはリリカとトミィを交えて作戦をたてた。それはリリカとトミィに別の場所から撹乱してもらうというものだ。大通りから入りくんだスラムに入るルートはいくつかある。それでそれぞれが別れて一斉に飛び込む。リリカとトミィは自警団の目を引いたところで足に任せて街を抜ける。一瞬の隙さえできれば、距離としてはそう遠くないマリィの家までもなんとか辿り着けると踏んだ。しかし。

 二人と目配せし、さぁ飛び出そうとした瞬間。

「ぎゃっ??」

 ラピアは後ろから首根っこをヒョイ、と掴まれた。

「あれ、ラピアじゃないか。何してんだよ、こんなとこで」

 不思議そうな声で訊いてきたのは、ラピアをつまみ上げた当人、従兄のラキだった。ラピアは少しげんなりした声で言う。

「ラキ兄さんまで……ひどいわ」

 ラキは最近自警団に入ったばかりだ。スラムの警備は持ち回りなのでそこにいたのはたまたまだった。ゆっくりとラピアを下ろす。そこへ同じく自警団に引き連れられたリリカとトミィもやって来る。

 巨族の血が濃いラキはその大きな体を屈めて従妹と視線を合わせる。

「ひょっとして、最近よくこの辺をうろついてる子供っていうのはラピアのことなのか?」

 その言われようにムカッとして言い返す。

「うろついてるとは失礼ね。私はただ友達に会おうとしてるだけよ」

「友達とだったら他の場所でも会えるだろ?わざわざこんなところに来なくたって」

「そうじゃなくて!ここの、中、に……」

 そこまで言ってラピアはしまったと思った。以前母から言い含められたことを思い出す。案の定ラキは厳しい顔をする。

「ラピアが言っているのはマリィという子のことか」

 ほぼ断定するように訊かれてラピアはうつむく。その頭上にラキの大きなため息が降ってくる。

「なぁラピア。どうしてあの子がスラム街の中で暮らしていると思う?あの子は、誰とも会ってはいけない子だからだ。それでこんな風に僕らが見回っているんだよ」

「そんな……」

 薄々気づいてはいた。だが認めたくはなかった。

「これは自治府で決められたことだ。誰も逆らってはいけないことだ。ラピアも聞き分けないといけないよ」

 声は厳しいが、それは咎めるというよりも、この小さな従妹を心配するが故だった。しかし当のラピアは小さな声で呟く。

「私は、嫌だ。……だって、そんなの、まるで」

 仲間はずれにしてるみたいじゃないーー。

 小さい時から、周りの大人は言っていたはずだ。みんな一緒に仲よくしましょう。仲間はずれはやめましょう。ひとりぼっちは寂しいから。輪に入れない子は悲しい思いをするから。だからマリィのことも、なかば強引に仲間に引き入れた。それなのに。

「私はただ、マリィと友達でいたいだけよ。これからも、ずっと」

 握っていた手のひらを開いて、その上に載った物を見る。それはあの収穫祭の日に友を思って買った、銀色の髪飾りーー。

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