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16 現実

 カッ、カッ、と靴音を響かせながら、ウィルは階段を下る。降りきった先には扉がある。

 押し開けるとギィ……と不快な音がした。

 その先の光景を見て、ウィルは息を吸う。

「やっぱり……」

 既視感があった。その先にあったのは、あの夢で見た回廊だった。

 夢の違和感をウィルはずっと抱えていた。一番に思ったのは、夢の割にひどくリアルだったということだ。もしかしたら自分は忘れているだけで、前にあの場所を見たことがあるのではないか。ということは、あの場所は遠く離れたところではなく、身近なところにあるのではないか。例えば、この城のどこかに。

 ウィルはもうとっくに、誰かに言われたことをただ素直に聞いているだけの子供ではなくなっていた。それは成長段階で誰もが踏むステップなのだが、魔族の子を養育する立場であるフレアにとっては頭の痛い問題だった。特にウィルは城を探索したり、本を読んだりするのが好きだ。好奇心と想像力の旺盛なウィルにフレアはいつも悩まされた。一方でリーフはそういうところには寛容で、何とかなるだろうとどっしり構えている。

 そうした事情から、ウィルはなるべくフレアがいないうちに探索を終わらせるようにしていた。下手にフレアに見つかると自室へ連れ戻されてしまうからだ。今もフレアは使者としての仕事で市井に降りているはずである。

 ウィルの推理は当たった。城内探索も随分進んでいるので、あとは行っていないところからあたりをつけたのだ。

 先へ進めば進むほど、辺りは暗くなっていく。扉を開けた場所から差してくる外の光以外に光源がないのだから当然だ。ウィルはだんだん心細くなってきた。回廊は緩やかにカーブしながら少しずつ下っているらしく、もとの扉はやがて壁の死角に入って、振り返っても見えなくなった。

 ウィルは前に向き直り、気を取り直して再び進む。空気が澱んでいるせいか、だんだん息苦しくなり頭がぼうっとしてくる。ふらふらと歩き続けて、ようやく夢でみたあの扉の前にたどり着いた。夢の時は偶然鍵が開きかけていたが、今はどうか。その状態を確認するために、手を伸ばした。その時。

「ウィル!」

「ひゃあぁぁぁっ……?」

 後ろからいきなり大声で名前を呼ばれて、ウィルは心臓が飛び出るかというほどすくみあがった。タッタッタッ、と駆けてくるのは、その声の主ーーフレアである。

 フレアはウィルに追い付いて止まり、肩で息をした。暗がりでその様子はよく見えないが、随分と息遣いが荒く苦しそうなことはわかる。今までにこんなに息をあげているフレアは見たことがなかった。

「あの、フレア?今日は街を見に行ってたんじゃないの」

「リーフの伝言をユアが知らせに来てくれましたので、飛んで帰ってきたところです」

 フレアの場合、烏の姿で移動するので、文字通り「飛んで」帰ってきたことになるのだが、それ以上に緊急のように急いで帰ってきたのだということはウィルにも容易にわかった。でも、何故?リーフがユアに伝言してまでフレアを呼び戻したというのはどういうことだろう。

 息を整えたフレアは、ウィルに向き合って問う。

「ウィル、こんなところで、一体何をしているのです」

 やはり怒られるのだな、とウィルはどこか冷静な気持ちで思う。でも今回ばかりはウィルにも言い分がある。

「夢で見たんだ。この場所を。だから確かめなきゃと思って」

「夢で見たならなおさらです。恐ろしいものを見たでしょう」

 ウィルははっとした。それを知っているということは、フレアは知っているのだ。この先に、何があるのか。なぜかあの時、強烈に「確かめなければ」と思ったものの正体を。

「僕は、今確かめなきゃいけないことなんだと思ったんだ。だからあんな夢を見たんだって」

「どうしても、ですか」

「うん、どうしても」

 引き下がらないウィルに、フレアはほうっと大きなため息をついた。そして何事か思案するように黙った後、ゆっくりと言った。

「ならばせめて、私の話を聞いてからにしていただけませんか」

「何の話?」

「魔族が背負った、運命の話です」

 フレアは静かに、しかし重々しく宣言した。

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