15 悪夢
ここはどこだろう……とウィルは不思議に思った。
辺りは暗かった。両脇に圧迫感があることから細い回廊なのだろうと推測できる。足下は滑らかではなく細かな段差がそこここにある。視界がはっきりしないので、おそるおそる進む。奥に向けて闇が濃くなっていることからも、相当長い廊なのだとわかる。ウィルは訳のわからないままただゆっくりと先へ進んだ。
ほとんど真っ暗になってしまった頃、ようやくその回廊は終わった。ウィルの前に壁のようなものがある。手探りで確かめると、取手のようなものがある。それは壁ではなく、回廊を塞ぐように取り付けられた扉だった。ウィルは取手に手をかけて扉を押したり引いたりした。しかし扉はびくともしない。
「まさか、行き止まり?」
げんなりして後ろを振り返る。そこには長い長い闇がただ横たわっている。ここまで来て引き返すのは嫌だった。
そもそも自分はどうしてこんなところにいるのだろう。いつものように城の中を探索していて迷いこんだのだろうか。だとしても、当初の目的を全然思い出せないのは妙だった。
それでも、進まなければならない。なぜか今は強くそう思う。
さて……とウィルは考えた。進むと言っても、この扉を何とかしなければ進むことはできない。念のためもう一度押したり引いたりを繰り返したが、やはり動かない。ウィルは扉を手探りで調べた。すると中央に閂と錠前の鍵が取り付けられていることがわかった。しかしきちんと締められなかったのか、錠前のほうは掛け金が外れかかっている。少しいじっていると鍵を使わなくても外れてしまった。そのままウィルは扉を押さえていた閂を外す。取手を引くと、ギィ……という不快な音を立てて重い扉は開いた。
奥は部屋になっていた。ずっと閉ざされていたのか、中の空気は埃っぽく、カビ臭かった。暗闇にだいぶ目は慣れてきたものの、それでも容易に見分けられるものではない。ウィルはそろりとその部屋に足を踏み入れた。
そう広くはない空間に物が押し込められているようで、中は狭苦しかった。布を被せられた大きな箱状の物が二つ並べて置かれている。箱はウィルの腰の高さほどもあり、奥に長い直方体をしていた。部屋の奥がどうなっているのか、その二つの箱のせいで進むことも見あらわすこともできない。その間に空いた狭い隙間に無理矢理入ろうとすると、片方の布がさらりとこぼれ落ちてしまった。そしてそれと同時に上蓋とおぼしきものもウィルの反対側にずり落ちてガタンッと大きな音を立てた。びっくりして反射的に箱の方を見る。
そこに入っている物に目を凝らして、ウィルは固まった。
入っていたのは、血まみれの死体だった。
「うわあぁぁぁぁっ!?」
情けない叫び声をあげて、目を開けるとそこはひどく明るかった。
あれ?と思う。さっきまでいた場所はあんなに暗かったのに。
周りをよくよく見てみると、そこはウィルの自室のベッドの上だった。
ガチャリ……と音がしてドアが開く。ウィルは先程まで見ていた光景がフラッシュバックしてびくりとした。そこにいたのはリーフだった。
「ウィル、どうかしましたか」
心配そうな顔をしてベッドに近づいてくる。さっき自分がかなり大きな声で叫んだことに思い至って赤面した。
「ううん、大丈夫。ちょっと夢を見てたみたい」
「夢、ですか」
朝の柔らかな日差しで満たされた部屋を見て、ウィルはそう理解した。夢にしては余りにもリアルだったが、状況からしてそうとしか考えられない。ウィルはリーフを安心させようと笑顔を見せるが、反対にリーフはウィルのおでこに触れる。冷たい汗が流れ落ちる。
「顔色がお悪いですよ。お気分が優れないのでは?」
「いや、本当に大丈夫だよ?」
焦ったように言い募るウィルを優しくいなす。
「今日は大事をとって、食事はここに運びます。必要とあらば医術師を呼びましょう」
「うん……」
最後には押しきられてしまった。ウィルは心の中で「過保護だなぁ」と呟く。
リーフが部屋から出ていってしまうと、やはり夢のことが思い返された。ちょっと気持ち悪くなる。だが、ただの悪夢と流してしまうには何かが引っかかった。
あれは、一体何だったのだろう……?




