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14 空の上で

 執務用の机に肘を付き、フレアはため息をついた。どうやら自分はアヴェルからとんでもない預かりものをしてしまったようである。

 世界を統べる者としての役目を果たす魔族が不在の今ーーウィルが成長すればその役を果たすことになるのだがーー使者であるフレアが代行して施政を執り行っている。世界に点在する自治府をまとめ、折衝があれば間に立って仲裁する。しかしそれはあくまで代役に過ぎず、調整には限度がある。自治府にもそれぞれのやり方、考え方があるので、その内部までは立ち入れないのが現状だ。市井の様子を偵察するのもフレアの重要な責務ではあるが、自治府を直接訪ねるには逐一親書を出し、先触れをして最大限の注意を払う。使者の来訪でさえもそんな有り様だというのに、ウィルをこんな急に街へ降ろす訳にはいかない。何と言ってもウィルは次代を統べる魔族の子なのだ。

 しかも、ユアの言う収穫祭が行われる街には、彼の者がいるーー。

 フレアが一人頭を抱えていると、ふいにクスリ……と笑い声が聞こえた。振り返ると、戸口にリーフが立っている。

「何がおかしい?」

 憮然と呟くフレアにリーフはゆったりした動きで近づく。

「まぁ貴方にとっては頭の痛いことでしょうけど。でもウィルは思ったより楽しそうよ。今はそれで良しとしたら?」

「なぜそんな他人事でいられるんだ。あの街には」

「わかっているわ」

 言い募るフレアの台詞をリーフは遮った。そしてそれまでとは打って変わって静かで、低い声で続ける。

「でも仕方がないでしょう。おそらくこれは、私たちが受け入れるべき変化の一つなのよ。何がどう転ぼうと、純血の魔族はウィルを最後に絶える。誰もが今まで経験したことのない時代が来るのだから」

 そう語るリーフの表情は、どこか悲しげだった。


      *      *      *


「うわぁ」

 星の瞬く空の間を切り裂くように銀の翼の竜が飛んでゆく。その背に乗ったウィルは感嘆の声をあげた。夜闇に散らばる幾千の星に目が吸い込まれそうになる。

 夜の中をこうして飛ぶのは初めてだった。はじめはおっかなびっくりだったウィルも、目の前に広がる光景に心を奪われた。

 少しして、ユアが高度を下げはじめた。その先にその姿が見えてきた。

 暗闇の中で、そこだけが明るい。ひとかたまりに見えていた光は近づくにつれ一つひとつがランタンの灯りだとわかる。その下に垣間見えるのは、祭を楽しむたくさんの住民たち。ユアは向こうから見えるか見えないかのギリギリの高度を飛ぶ。ウィルはヒヤリとした。

「ねぇっ、こんな、低くて大丈夫?」

「平気です。明るい所から暗い所は意外と見えないものなんですよ。今はお祭の最中で、皆そちらに気をとられてますし」

 確かにこちらを注視する者はいない。何にそんなに夢中なのだろうと、光の中に目をこらす。

 櫓の建てられた広場を中心に、きらびやかな露店が並ぶ。足を止めてそれらの店を覗く者、櫓の周りではしゃぐ子供たち、少し輪からはなれて祭を見守る者……。

 祭というものを経験したことのないウィルには、どうしてこんなにみんながはしゃいでいるのか、今一つよくわからなかった。でも。

「楽しそう」

「ふふ、そうでしょう」

 ユアはゆっくりと旋回し、街の上空を離れた。その時にきらきら光る銀の鱗がはらり……と舞い落ちたことには、二人とも気づかなかった。

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