13 新たな試み
一瞬強く風が吹き去っていった。肩で息をするウィルの火照った体を優しく冷やす。
城の中庭にあたる広場は柔らかい下草が生え、渡し廊下の間から森の清々しい風が吹き抜けていく。その中庭に、ウィルとフレアは距離を置いて対峙している。息のあがったウィルに対し、フレアは平然としている。
今二人が行っているのは、整身術と呼ばれる体術のひとつだ。見た目には激しい動きをすることなく相手の動きを封じる術で、古い武術の流れをくむ。「稽古をつけてほしい」というウィルの願望を受けて、まず手始めにとフレアが指南しているのだ。しかし……。
型の練習を一通り終えて実践練習に入ると、フレアにまったく歯が立たない。フレアも相当手加減をしていて、特段防御に徹しているわけでもないのだが、ウィルは技を何一つ決めることができず、先程から一人で踊っているような妙な動きを繰り返している。
「ウィル、まずは心を落ち着けましょう。心と体は繋がっているものです。心の乱れが静まれば、体のブレも収まりますよ」
フレアは穏やかな声で助言する。ウィルは滴る汗を拭うと、言われた通り心を落ち着けるため深呼吸をする。そして再び間合いを詰めた。
今度は、うまくいった。ウィルより数段丈の高いフレアの体をころんと転がす。仰向けに倒れたまま、フレアは微笑んだ。
「お見事。今日のところはここまでできれば上出来です」
その時、二人に近づいてくる気配がした。リーフと、先日から城に滞在しているユアだ。
「ウィル、フレア。お茶を入れますから、少し休憩しましょう」
リーフの姿を認めると、ウィルは頬を染めた。稽古の姿を見られるのは何となく気恥ずかしかった。
四人は渡し廊下がちょうど屋根のようになっているテラスで、リーフがいれたお茶と菓子を楽しんだ。そこでおもむろにユアが口を開いた。
「そういえば、今日は近くの街で収穫祭をしているようですよ」
「収穫祭?」
ウィルが不思議そうに問うと、ユアは笑って説明した。
「麓のそう遠くないところに、昔楽族が造った街があるんです。その辺りは今がちょうど実りの季節。街の住民はその実りを祝うお祭りをするんです」
「へぇ」
さすがあのアヴェルの孫だけあって、説明は端的で分かりやすかった。感心しているウィルに、ユアは意外な提案をした。
「よかったら、行ってみませんか?街の視察を兼ねて」
「僕が?」
それは大胆な提案だった。思わずフレアとリーフに目をやると、二人とも驚いた顔をしていた。ユアがそんなことを言い出すとは想像だにしていなかったのだ。困惑したようにフレアが口を挟む。
「お言葉ですが、ユア殿。魔族の者が直接街へ下るというのはいかがなものでしょうか。いらぬ混乱を招く恐れがあります」
その言葉を聞き咎めて、ユアは目を丸くした。
「あら?私はそのために遣わされたのではなかったでしたっけ。つまりは、ウィルに世界を見ていただくために」
「もちろんそうです。しかし街となると、それを管轄するのは自治府です。私は使者として市井に降りることもありますが、ウィルが直接街へ下るとなると、先触れも必要です。今日の今日でというわけには……」
律儀に説明を続けるフレアをユアは手で遮る。その表情はどこか楽しげだ。
「分かりました。ならば降りなければ良いではないですか。上から眺めるだけでもどんな様子かは知れるもの」
どうやら退く気のないユアに、フレアは渋い顔をする。
「たとえ上空を飛ぶだけでも、見つかれば事です。やはりあまり奨められません」
それでもユアは勝ち気な態度で言い切った。
「大丈夫。夜闇に紛れてしまえば。明るい街中に慣れた目では、闇は見分けにくいものです。夜に紛れるのは、フレア、あなただけの得意分野ではないのですよ」




