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12 収穫祭

「ねぇラピア、あなた最近こそこそとどこへ行ってるの?」

 収穫祭前夜、急にそんなことを聞いてきたのは、ラピアの母、ユウナだった。ラピアはドキリとしながらも平然を装って応える。

「どこって、友達のところ。別にこそこそなんてしてないし」

「ハンナがあなたのこと見たって言ってるの。大通りを横切って、路地に入っていくのを」

「げっ」

 思わずひどい声で呻く。ハンナというのはラピアの従兄、ラキの母で、つまりは伯母にあたる人だ。竜族の血が色濃い彼女は遠目が効くので、気をつけていたつもりでも姿を見られてしまったのだろう。

 大通りを横切って路地へ入るーーつまりは治安の悪いスラム街に入ることは、大抵の親が子に禁じていることだ。それもそうだろう。誰だって我が子を危険に晒したくはないものだ。ラピアもユウナから厳しく言いつけられているものの、元来の奔放な性格から真剣に取り合っていないきらいがある。これまで教えてきたことは何だったのだろうと、激しい徒労感に襲われたユウナは頭を抱えた。

「ラピア、もういい加減にしてちょうだい。これまで危険な目に遭ってないのは、ただ運がよかっただけなのよ?どうして言いつけを守れないの?あんなところに一体何の用があるの」

 その言いぐさには少しムッとして、ラピアは母に言い返す。

「だって、友達がいるの。私がずっと探してた子。ほら、ずうっと前に急にいなくなっちゃった子いたでしょ?その子がね、本当はこんな近くにいたんだよ。これまでもずっと」

 ラピアとしては切々と説いたつもりだった。自分がしていることは正当であると。しかし話を聞いたユウナはラピアが予想していたのとは別の反応を示した。青ざめた顔で、見開いた目でラピアを鋭く捕らえた。大抵のことに動じないラピアも思わずその身をすくめる。

「ラピア……ひょっとしてその子は、赤色の、髪の、子……?」

 まるで地鳴りのように低い声はぶるぶると震え、さらにラピアをびくつかせた。その圧力に思わず後ずさりながら思考を巡らせる。

「ええと?うん、どうだったかなぁ。あぁ、そう。確かそうだった気がする」

 一度はとぼけようとして、しかし圧に負けて思わず白状してしまう。

「その、子は、耳が、大き、い……?」

「うーん、まあ、私、よりは」

 詰め寄りながら娘に問うユウナの目は憤怒とも怯えともつかない様子で見開かれている。ラピアは壁際に追い詰められながら心の中で「怯えたいのはこっちだよ!」と嘆いた。

 がしっ、と唐突に肩を掴まれて、思わずひゃあっ、と情けない悲鳴をあげる。

「その子とは関わっちゃダメ」

「へっ?何で」

 余りにも低く鋭い声で言われたために、抗議したいのに間の抜けた返事しかできない。混乱するラピアを、今度はユウナは強く抱きしめた。ラピアは自分の今の状況がさっぱりわからなかった。怒られているのか、心配されているのか。

「これだけは聞き入れて。あの子はダメ。あの子はーーだから」

「え?」

 最後にユウナが何と言ったのかはうまく聞き取れなかった。しかし聞き返しても、もうユウナはただラピアをさらに強く抱きしめるばかりで、応えることはなかった。


      *    *    *


 翌日の夜。

 ラピアが友達グループとともに露店をあれこれ見て回っては黄色い声をあげていた頃。

 マリィは外から漏れ聞こえてくる祭の賑わいに耳を傾けていた。収穫祭の中心となる広場からはそれほど離れていないため、人々の笑いさざめく声も風に乗って遠く近く流れてくる。

 家の中は静かだった。だから余計に外の賑わいがよくわかる。マリィは部屋のドアを少しだけ開き、外をそっと伺ってみた。いつもなら奥の部屋で眠りについているはずのシェリルは、今日はまだダイニングに座って何か本のようなものに目を落としている。この状況下で家から抜け出すことは考えようもない。マリィはひっそりとため息をついた。

 その時、家のドアベルが鳴った。それはとても珍しいことだった。この家に来客があることなどほとんどないからだ。しかしシェリルは平然と玄関のドアを開ける。まるでその来訪をあらかじめ知っていたかのように。

 そこにいたのは、自治府の高官だった。実質的にシェリルの雇い主にあたる。

「異状ないか」

 高官は居丈高にシェリルに問う。

「はい」

「ふん。まぁ何かあれば今度こそお前はクビだがな」

 ドアの陰から様子を伺っていたマリィは知らず緊張した。今度こそ、というのは前回マリィが家を抜け出そうとしたことを指摘して言っているのだ。シェリルはただ頭を垂れている。高官は胸をそらせた高慢な態度のまま、シェリルに知らしめるように言った。その後、マリィが聞かなければよかったと後悔することとなる、その一言を。

「何かあっては困るのだよ。あの子は我々の大切な贄なのだから」

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