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11 楽族の血

 ラピアを見送った後も、マリィは随分長い間自分の髪に目を落としていた。ラピアが綺麗と言った、緋色の長い髪。

 それは、「禁忌の血」とも呼ばれる、楽族の血を色濃く受け継いだ証である。長く伸ばしているのは、もう一つの証であるところの大きな耳を少しでも隠すためだ。

 混血のすすんだ世界。それは楽族に端を発していると言われている。元々楽族は子供を多く産まない種族だった。なぜか同族同士では子供が出来にくかったのだ。それでいつの頃からか、楽族は他族婚をすすめるようになった。血を交えなければ種を保てないほどに少子化してしまったためだ。そうしてはじめに純血の種族が絶えたのが楽族だった。

 マリィの父と母は、どちらもどこかで楽族の血を引いていた。そしてその特徴は、娘に色濃く受け継がれた。

 そう、とても不幸なことに。

 楽族の血がなぜ禁忌とされているのか。それはひとえに神に祝福されぬ血だからである。

 この世界に生きる者であれば誰でも知っている、創世神話。その中に楽族の名は登場しない。世界の原初の姿として誰しもが信じているこの最も重要な神話にその名を連ねないということは、まるで突然ふってわいたような不気味な印象で受け取られてしまう。実際楽族というのがいつ、どこからやって来たのか、誰にも分からないのだ。肝心の、楽族の血を引く者にも。

 監禁される前の幼いマリィでさえ、自分が嫌がらせを受けるのはその容姿のせいだと気づいていた。特にこの街には、マリィほど楽族そのものの見た目をした者は他にいなかった。マリィの両親がこんなスラム街の隅に小さな家を造ったのも、マリィが引いてしまったこの血に由来する。そのことを直接両親から聞いたことは一度もない。むしろマリィが負い目に感じないよう、精一杯配慮してくれていたのだと、今では否応なしに身に染みてしまう。マリィに本当の意味で血の負い目を感じさせたのは、監禁されてから漏れ聞いた声だった。それは家の外で口さがなく噂し合う、楽族を忌む心ない大人たちの声。たった一人ですることもなく家の中にいなければならなくなって、そうした噂は薄い壁を突き抜けてマリィの心に刺さった。どうしようもないほど周りに賤しまれ、蔑まれてきた血。

 マリィは意気揚々と去っていったラピアを思う。神に祝福されぬ血を引いたマリィは、もちろん収穫祭など足を運んだことはない。さっきラピアとともに見た絵本に描かれた賑やかな光景が、心象に描ける精一杯だ。そんな想像の中だけでもワクワクと心が踊った。ラピアが言ったように一緒に出かけることができたらどんなに楽しいことだろう。元々マリィは好奇心の旺盛な子供だった。それが度々おとしめられ、しまいにこの家に閉じ込められたことですっかり心が折れてしまった。「仕方ない」と自分に言い聞かせ、諦めることに慣れてしまった。

 以前の自分なら、多少危険をおかしてでもラピアの誘いに乗っていたはずだ。じゃあいつから……?いつからこんなにも、当たり前のように諦めるようになったのだろう。

 マリィは引き出しを開けて一枚の古びた紙を取り出した。それは写真だった。この家が完成した時に撮られた、たった一枚の家族写真。

 写真にはマリィとはあまり似ていない父と母が写っている。母の腕には、物心もつかない頃の小さなマリィが抱かれている。

「お母さん、お父さん……」

 端がふやけ、折り目がつき、写真はもうぼろぼろだった。それはマリィがこうして、よくこの写真を眺めているからだ。もうこの世にはいない両親の生前の姿を留めた、それは唯一のものなのだ。

 マリィはその写真に向かって語りかける。本当は生きている父母に聞きたかった、永遠の問いを。

「ねぇ、私、何のために生まれてきたの……?」

 もちろんその問いに答はない。それでも生きなければならないという、厳然とした事実が残るだけで。

 そして時は容赦なく過ぎてゆく。街の賑わいの最高潮、収穫祭が目前に迫っていた。

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