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「こんにちは」

 窓の外には、マリィと同じくらいの背格好の少女がいた。小族の特徴であるやけた肌に、銀の髪。どこかに竜族の血が混じっているようだ。

 笑いかけてくる少女にマリィは戸惑った。この家を訪ねてくる者などいないからだ。ましてや、窓を挟んだこんな形では。

「あぁ、やっと見つけた。窓の人影でもしかして、と思ったら。やっぱりそうだったんだ。あなた、マリィでしょ」

「……?」

 自分の名前を言い当てられて、マリィは目を白黒させた。目の前の少女と面識はないと思われたが、相手はマリィのことを知っているようである。

「あ、もしかして私のことわかんない?」

「う、ん……」

 それはひどく恥ずかしいことのような気がして、マリィは頬を染めてうつむく。しかし少女は気にした風でもなくしゃべり続ける。

「それもそうか。だって会ったのずっと前だもの。私、ラピア。道の向こう側に住んでるの」

 ラピアと名乗った少女はちらと振り返ってその方向を目で示した。

 マリィの家があるこの辺りは治安の悪いスラム街になっているが、ここから川寄りに少し行くと大きな通りがある。その道を隔てて、街の雰囲気は少し変わる。貧しくも、勤勉に働く労働者の区域だ。居住者同士の関係もよく、治安も格段に安定している。監禁される前には、マリィもそちらによく遊びに行っていた。

「ずっと前、私たちのグループで一緒に遊んでたのに、急にいなくなっちゃった子がいたの。私気になって、ずっと探してたんだ。でもどこに住んでるのかも知らなかったから、すごぅく時間がかかっちゃった。そのいなくなった子が、あなたよ、マリィ」

 ようやく思い出した。遠い日の、まだ幼い記憶。

 道の向こうを、建物の陰からただ見つめるだけだった、幼い日のマリィ。その見た目から、街の子に見つかると石を投げられたり、水をかけられたりした。楽しそうに遊んでいる同じくらいの子たちを、だからただ隠れて見ていることしかできなかった。羨ましいと思いながら。あの輪に混じれたら楽しいだろうな、と夢見ながら。

 そんなマリィを自分のグループに半ば無理やり引き入れてくれたのが、今目の前にいるこのラピアだった。ラピアはマリィの見た目を気にしなかった。はじめは嫌がっていた同じグループの子たちも、徐々に慣れて他の子と同じように接してくれるようになった。他のグループの子から嫌がらせを受ければ、ラピアが身を呈して守ってくれた。マリィが監禁されることになったのは、ようやく皆と馴染むことができた、その矢先のことだった。

 マリィは先ほどこらえた涙が、また溢れてくるのを感じた。懐かしさと、嬉しい気持ち。こんな自分のことを、探してくれていたなんて。

「どうして急に来なくなったの?こんな近くにいるなら、また一緒に遊びましょ」

 事情を知らないラピアは、泣き出してしまったマリィに戸惑いながらも無邪気に言う。マリィは首を横に振る。

「私、ここから出られないの」

「……?」

 マリィは自分のおかれた状況をかいつまんで説明した。それを聞いたラピアは一瞬顔をしかめたが、すぐに明るい笑顔を見せた。

「そっか。じゃあ私がこっちへ遊びに来るわ」

 その発言に、マリィは目を瞬かせた。思わず涙も止まる。

「……本当?」

「この辺は危ないから来ちゃダメって言われてるし、毎日とかは無理だけど。でもせっかくこうして再会できたんだし。私が街の面白い話を聞かせてあげる」

 それはマリィにとってとても魅力的な話だった。しかし。

「でも……見つかったりしたら大変かも」

 マリィは外の者と接触してはいけないことになっている。普段はシェリルが目を光らせているが、今は外に出ているのか、気配を感じない。

「あなたの事情はわかったから、これからはもうちょっと慎重にするわ。きっと大丈夫よ」

 基本的にポジティブなラピアの言葉に、マリィも気分が軽くなるのを感じた。

「じゃあ、またね」

「うん……」

 パタパタと走り去っていくラピアの後ろ姿を、マリィは見えなくなってもずっと見つめていた。

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