表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/60

プロローグ

 辺りは静寂に包まれていた。夜空を明るく照らすはずの月はちょうど雲に隠れ、世界は闇を濃くしている。街の住民たちは皆眠りに就いていて、明かりを漏らす屋敷は見当たらない。

 深く眠る夜の街。その時計塔の上に、あるはずのない生者の眼が四つ輝いている。

 黒いフードを纏った、人の姿をした二つの影。

「どうやら問題はなさそうね」

 女の姿をした一人が、夜風に漆黒の髪をなびかせながら呟く。

「当たり前だ。問題があっては困る」

 男の姿をしたもう一人が応える。フードの下から紅がかった銀の髪がのぞく。その言いぐさに、女の方が笑みを漏らす。

「あら、そう確信してるなら様子を見になんて来なくてもよかったでしょうに」

 男の方は不服そうにぼそりと言う。

「……念のためだ。万が一でも問題があってはならぬのだ」

「はいはい。そんなことは解ってるわ」

 三角屋根の下で、大きな時計の針が動くガチャ、という機械音がした。そして再びの静寂。

 男を揶揄するように笑っていた女も、黙って時計塔の下に広がる街並みを見つめる。その横顔にはまるで子どもの成長を見守る母親のような、慈愛のようなものが浮かんでいる。男の方も似たような表情を浮かべて同じ方向を見つめている。

 暫しの沈黙の後、男が低い声で言う。

「これが最後の大仕事になるのだろうな。我々の」

「そうね。おそらくは」

 雲が動き、わずかに月明かりが漏れはじめる。二人はほぼ同時に空を仰いだ。

「闇が途切れるな。戻らねば」

「えぇ」

 女が隣の男の方に顔を向ける。なびく髪の奥で、二つの目が黄色く光る。

「帰りましょう。私たちの、最後の子どものもとへ」

 強く風が吹いた。それと同時に二人の姿が消えた。……いや、正確には消えた訳ではない。本来の姿に戻ったのだ。

 男は大きな烏に、女は毛並みよい白猫に。

 烏は猫をその背にのせて、闇の彼方へと滑空していった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ