表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女も愚痴りたい  作者: がらんどう
8/16

少年に何が起こったか?

     8 少年に何がに起こったか?

 


 病院から退院した俺は、親父の事務所に来ていた。なにしろ停学中でやることもないし、

早苗さんに反省の意を表すためもある。出禁?特に言われてないし。それに家からそう離

れているわけでもないし、非行少年になっちまったんだから別にいいんだよ。偉い人のお

墨付きだ、ははっ。

 それにーーーなんとなく、あの奇妙な事件には父さんが関わっている気がしてならなか

ったからだ。高校生を違法な深夜バイトに雇う警備会社。どう見ても堅気ではない警備員。

経帷子の口裂け女。そして、ゴスロリの格好をした少女とあのハム公………。警察やマフ

ィア絡みの案件、そして超常現象の案件。全く共通項を見いだせないとは思うのだけど、

なにかつながっている気がする。

 父さんが失踪した後も事務所は今もそのまま維持してある。早苗さんが「いつ帰ってき

てもいいようにしておきたいから」と言って引き払わないのだ。賃貸ではなく持ち家なの

だけど、それでも維持費がかかる。それでウチには金が必要だったのだ。俺が違法なバイ

トを引き受けたにもこういう背景がある。

 事務所は、二階建ての建物の二階部分だ。一階は、古本屋をやっていると聞いている。

〈古書店いろはにほへと〉とシャッターには書いてある。しかし、この本屋のシャッター

が空いているところを見たことがない。倉庫代わりに使っているのかな?

 ーーーまあいいや。

 建物の脇に備え付けられた階段をのぼり事務所の扉を開ける。空気が埃っぽい。長らく

人を入れていないから当然だ。年に数回煤払いのために来る程度だから。

 とりあえず、鎧戸を開ける。眩しい光がさっと刺す。目がくらむ。


     ◇

 

 ペンライトが眩しい。医者は俺の顔をじっくりと眺めている。

 医者の診断では、軽い打撲と脳震盪とのことだった。「あれだけの事故の現場に居合わ

せたにしては奇跡的ですヨ、君、運がいいネ」と褒められてんだか呆れられてるんだかな

んだかわからないような調子で言われた。

「とはいえ、後から不具合が出てくるかもしれない。一日、検査入院ということで。様子

を見ましょう。」 

 そう言うと、医者は白衣を翻し部屋から出て行った。あまりにもあっさりと、早足に去

っていったので、付きの看護婦さんが慌てて俺達に会釈をして、早足で追いかけていった。

 病室には俺と早苗さんが取り残された。うーん。気まずい。どう弁明したものか………。

 と、思っていると。

「コーキ!コーキが目覚めたって本当っすか!」

 と廊下から洋平の声がした、勢い良く扉を開けて洋平が飛び込んできた。

「おお!コーキ!よかった!無事だったんだな!」

 洋平は俺を見るなり満面の笑みを浮かべた。おう、なんかしらんが生きとるぞ。洋平も

無事で何より。

「ああ、ああ、ホントーによかったよ、俺はてっきり………」

 洋平はそう言いかけたところで、ようやく早苗さんの存在に気づいたらしく、慌てて会

釈して、今回の件について詫びた。

「早苗さん!今回の件は俺が!俺が悪いんス!コーキは悪くないんです!すいません!ほ

んっとーにすみませんでしたっ!」

 そう言って洋平は事の始まりと顛末を話しだした。


     ………


 ひと通り話し終えると、洋平はふうと息をつき、適当な椅子に座った。

 洋平の話によると、あの時、洋平はやっぱり地下駐車場にいた。適当にふらふらしてい

ると、爆発が起きて、なんだ?と思った瞬間、気を失い、気がついた時には救急隊員に保

護されていたとのことだ。とまあ、ざっくばらんにまとめるとそういうことになるのだけ

れども、どうにも洋平の話ははっきりしていなかった。洋平も、そのあたりに関しては自

覚しているようだった。

「でもなんか、記憶が曖昧なんだよなあ。気を失ったのが爆発の前だったのか後だったの

かよくわからんし、なんかもやもやするんだよなあ………」

「事故のショックで記憶が曖昧になることはよくあることよ。爆発に直接巻き込まれたわ

けではなくっても、記憶が曖昧なのは心配だわ。ヨウヘイ君も検査入院したらどうなの?

親御さんも大層ご心配されてるでしょうし………」

 早苗さんにそう言われると、ああっ!と洋平は声を上げた。

「っだーーーっ!そう言えば!」

 と言って、ケータイを取り出して画面を見る。

「てかl,親父とおふくろに連絡とってなかった!うわー!やっべやっべ!ってか学園の

方から連絡いってんのか?ちょっと!外行って連絡してくるわ!」

 そう言うと、ダダダッと病室から飛び出していった。「廊下は走らないように!」「す

っすみませーん!」というやり取りが聞こえてきた。うむ。焦り過ぎだ、洋平。しかし元

気そうでよかった。

 しかし、洋平のケータイの件で思い出したけど、連絡用のケータイってどこやったっ

け?俺のケータイは?つか、持ちもんどうなってんだろ?

 ようやく、少し落ち着いてものを考えられるようになった気がする。服は………あれ?

入院服に着替えさせられてる。そりゃそうか。あれ?さっき来た時の洋平の格好って私服

だったよな?警備服から着替えたのか?

 ーーーまあいいや。

 そんなことを考えていると、早苗さんが口を開いた。おうふ………。

「んー………とりあえず、洋平君から事のあらましは聞きました。違法なバイトだなんて、

ウチはコーちゃんにそんなことをさせなきゃあならないほど困窮なんてしてません!も

う!コーちゃんはどうしてそういっつも無理なことするの!ケースケさんが居なくなって

からいっつもそう!」

 そう言って、早苗さんはぷりぷり怒りだした。うわあ、本当にごめんなさい。いつも仕

事の愚痴を聴いているので慣れてはいるけど、こう、怒られるってのは慣れないのでしん

どい。ひいいっ。

 早苗さんは一方的にまくし立てた後、すっかり満足したのか、話し始めた時とは一変し

ていつもの穏やかな感じに戻った。ふう、なんとか切り抜けた………。

「もう、こんな危険なことはしないでね?ケースケさんだけじゃあなくて、コーちゃんま

でいなくなったら私………ね?とりあえず、今日はゆっくり安静にすること。ね?」

 そう言うと、早苗さんは俺の頭をそっと撫でて病室から出て行った。子供じゃああるま

いし。でもうん。ほっとした。病院の人や学園の人との話があるとのことだ。そうだよな

あ、どうなるんだろ、俺。退学かなあ………。

 ーーーまあいいや。どうとでもなれ。

 とりあえず、沙汰が出るのを待つしかないし。後のことは寝て起きてから考えよう。


     ◆


 事務所の空気を入れ替える。扉をバタバタと開けていく。事務所にはメインスペースと

簡単な炊事スペース、それにトイレと謎の部屋がある。この部屋に続く扉は鍵がかかって

いて開かない。他の扉と比べてとても古めかしい扉だ。鍵穴がはっきりと見て取れる程の

大きな鍵を必要とするやつだ。鍵は親父だけが持っている。その親父は絶賛失踪中だし、

合鍵もない。

 そういえば、小さい頃からこの事務所には出入りしてたけど、この部屋には入れてもら

ったことがなかったなあ。奇妙な部屋だ。ひょっとしてナルニア国につながってたりして

な。ってか、あれはクローゼットだってーの。セルフツッコミ。そんなことを思いながら

埃っぽい空気をさっさと外に吐き出すために、天井のシーリングファンをまわす。無駄に

でかいそれはゴウンゴウンと音を立ててくるくると廻る。


 退院してからの一連の出来事は、それこそ目が廻るような速度で執り行われた。

日があけて、体に問題はないと医者に太鼓判を押された俺と洋平は、日向特別理事に呼

び出された。日向特別理事からの沙汰は〈停学一週間〉。やけに軽い処分で面食らった。

 それに、事件のことについて、口裏を合わせるように言われた。俺達は、違法な深夜警

備バイトをしていたのではなく、たまたま、深夜を徘徊していたところ、爆発事故に巻き

込まれた非行少年ということにされるそうな。

 この辺りに関しては、腑に落ちない部分もあったけども、退学処分になるよりはマシだ

し、色々つっこんでヤブから蛇が出てきても怖いので、不承不承ながらも口裏を合わせる

ことに了承した。

 早苗さんが抵抗するかもなあと思ったけれども、早苗さんは以外にも口裏を合わせるこ

とに了承してくれた。流石、探偵の妻である。その辺りは臨機応変にか。そう思ったのだ

けど、一番の決め手になったのはどうやら、早苗さんの友人が、俺達の処分を軽くするの

に尽力してくれたことらしい。そのことを尋ねると、

「マキイロハちゃんって言ってね。私の後輩なの。今はカウンセラーをやっててね。日向

学園にも来てるんだけど知らない?」

 そう言えば、カウンセラー室ってあったような?入学式の時に挨拶されたっけ?どうだ

ったかなあ………?

「コーちゃんが病院で目覚めた時、一緒に居たんだけど?」

 ああ、なんか聞き覚えがある声だと思ったらそういうことか、知らないうちに記憶の中

に残っていたんだろう。納得。

「とりあえず、コーちゃんは停学ってことになったけど、ホッとなんてしないでね!今度

こんな無茶したらゲンコツ喰らわすからね(はぁと)」

 はい、今後気をつけます………。

 その後は、警察からの取り調べや実況検分といったものに同行させられたのだけど、ど

れも形式上といった感じで、ごくごく短時間に、流れ作業のように終わった。この間、た

ったの三日である。件の警備会社については何も聞かれなかった。口裏を合わせるまでも

なく、既に警察に政治的な圧力がかかっていたようだ。そういえば、日向学園を経営する

日向家ってこの地方の有力者とは聞いていたけれども、そこまで力があるとは………大人

の世界って怖いわ。そう思った出来事だった。

 そういえば、それに関連しているのかはわからないけど、俺と洋平が着ていた警備服と

装備一式は綺麗サッパリなくなっていた。勿論、キタノに渡されたケータイも。その代わ

り、着替える前に来ていた私服が洋平には着させられており(洋平もわけがわからないと

不思議がっていた)俺の病室には爆発で煤けた私服と、壊れた私物のケータイやらが置か

れていた。

 病院も日向学園の附属病院だし、警備会社もたしか雇ってるし………ああ、あんまり考

えたくないなあ。色々と、水面下の大人の世界で短期間の間に色々取り決めがあったみた

いだ。ろくなもんじゃあないんだろうなあ。まあ、それに巻き込まれて、この程度で済ん

だのは奇跡なわけだけども。いや、自分から首突っ込んだんだっけ。反省。おっかねえお

っかねえ………。

 と、突然、事務所の電話が鳴った。思わずビクッと飛び上がった。

 六年間も使ってない事務所に誰が電話をかけてくるんだよ………。

 おっかねえおっかねえと思っていた所にこれである。いや、そのおっかねえ話は警察や

マフィアや有力者達の政治の話なんだけれども、このタイミングでの電話は………。

 ーーー非日常な、超常現象の方のおっかねえヤツ何じゃあねえのか?

 《ホマホマホマ!ホマホマホマ!》と電話の呼出音が鳴り続ける。余談だが、この電話

のホーン部分は調子が悪いのでこんなマヌケな音を出しているんだけれども、それが余計

に気味の悪さを増している。

 よもや、ハム公がいないだろうなあと俺はあたりを見回す。ーーーとりあえずその影は

なし。うむ。覚悟を決めて電話にでるか………。

 おそるおそる受話器を取る。と、実にあっけらかんとした声が聞こえてきた。

『もしもしー?コーちゃん?私〜。』

 早苗さんだ。ほっとした。そうだ、ケータイは壊れちまってるから連絡手段はこれしか

ないし。

『お掃除ご苦労様〜。てかね〜あのね〜学園から連絡があってね〜。追加の処分があるか

ら従うようにって〜』

 へ?追加の処分?停学一週間だけじゃあなくてか。ああ、なんか課題とかあるんかなあ

………。

『日向茉莉花特別理事からね〜カウンセリングを受けるようにって言われたの〜。』

 へ?カウンセリング?何故ゆえに?

『さあ?わかんなーい。でもねー、やっぱり非行少年にはカウンセリングは必要だと私も

思うわけですヨ。なんかコーちゃん、変なこと口走ったんじゃあないの?頭を強く打った

し………大丈夫?』

 あ、そうだった。ぼーっとしてたというか何がなんだかわからなくって、日向特別理事

に色々聞かれた時に、うっかり秘密にしてきた〈人ならざるモノが視えること〉っつうか、

それを実際に視たってのをそれとなーく言っちゃってた気がする。

 ーーー迂闊だった。幻覚が見えるおかしい人判定されたってことかー。うわあ。

『なんにせよ、大きな事件だったんだから、コーちゃんのメンタルヘルスケアは必要だと

思うのよね。だからさっさとお行きなさいぃ〜………これ以上マミーに心配をかけないよ

うに心の内を吐き出してきなさいよぉおお………』

 そう言って、早苗さんは『ヨヨヨヨ』と泣き崩れる演技をした。電話越しでもわかるく

らい滑稽な調子だ。ああ、風景が眼に浮かぶ。

『というわけで、さっさと家に帰ってきてそのまま行ってらっしゃいな。交通費渡すから

はやくー。』

 ん?結構遠いのか?カウンセリングって学園でやるんじゃあないのか?ああそういえば

停学中だった。学園内には入れないか。

『そうそう、停学中だからカウンセリング室の使用はチョット控えて欲しいんだって。あ

とマスコミ対策とか?色々あるみたいー。ちょっとご足労だけど、イロハちゃんの個人事

務所がある名護屋までいってらっしゃーい。イロハちゃんも今日は予定が空いているらし

いからなる早でー。』

 名護屋とな。特急に乗れば、まあ三十分くらいか。ってか学園の指示とはいえ、停学中

の生徒をここまで外にふらつかせていいものなのか………うーむ。色々裏がありそうで嫌

だなあ。

 とは言え、行かないわけにもいかないのでさっさと伺いますかね。まだ十二時を回った

ぐらいだし、すぐさま終わるだろ。マキイロハさんだっけ?早苗さんの後輩かあ………。

『そーなのー卒業以来、会うことがなかったんだけど今回の件で偶然!世間は狭いわぁ。

そうそう、コーちゃん好みの美人ダヨ!惚れんなYO!』

 惚れねーっつーの。息子の恋愛感情茶化すかね、この俺のお母様は………。

 そういえば洋介は何やってんだろ?俺と同じでカウンセリング受けるのか?アイツ、寮

生だけど………。

『ヨウヘイ君?ああー、さっきいろはちゃん経由で聞いたんだけどねー、なんかご両親と

寮母さんにこってり絞られて、罰として学園内の除草作業やら小間使いに奔走中だってー

あははー。』

 ………うん、俺、洋平より全然マシだわ………ガンバ、洋平。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ