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魔法少女も愚痴りたい  作者: がらんどう
5/16

終局への階段

    5   終局への階段



三笠環は、初撃がうまく入った事を、ハムとともに展開した結界と、術式の重なりを感

知し、確認した。ガイストの位置は一階階段踊り場。把握。

 全方位に光弾をまき散らしたのは、パッシブ・レーダーとして機能させるためであった。

相手は受動型。結界展開ができているとはいえ、当該対象に動きがなければ、正確な位置

は割り出せない型だ。例えるなら、対潜水艦戦闘の戦術思想であると言えようか。概念魔

術なら、的確に、事前に設定した対象のみを攻撃することができる。故に、光弾の弾着に

よる周辺被害を気にすることなどないのだ。

 だったら撃ちまくれ。撃ちまくって、ガイストの場所を特定しダメージを与え、追い詰

めて追い詰めて、さっさと仕事を終わらせてしまおう。それが、三笠環の考えであった。

 三笠環は術式を展開し、緋色の光弾を撃って撃って撃ちまくる。ビルの階段は緋色と灰

色に繰り返し染まる。

 ガイストは、緋色の光弾に追い立てられ、上へ上へと追い立てられていく。結界の収束

予定地点である屋上に向かって。

 三笠環は階段を全速力で駆け上がりながらなおも緋色の光弾を打ち続ける。辺り一面が

灰色をなくし、緋色だけの空間になる程に。

「タマキ。撃ち過ぎだ。少し抑えて!魔力の供給が追いつかない。それに君の魔眼がつら

れて励起しかねない!」

 ハムにそう言われ、三笠環は少し、ペースを落とした。

 五階の踊り場で、一旦立ち止まる。辺り一面が灰色に落ち着いた。

 立ち止まりついでに、気になることがひとつ。

「ハム。さっきから気になってるんだけど………ガイストは〈受肉〉してるんじゃあな

い?感触ではそんな感じだけど」

 

 普通、彼女たちが相対するガイストは、物理的実体を持たない。彼女たちが〈澱〉と呼

ぶエネルギーが実体化・顕在化したそれ〈ガイスト〉は、その時点では大抵、魔術師や、

霊媒体質といった精神エネルギーへの感受性が高い者達に何らかの姿形として〈視える〉

程度で、三笠環の言う受肉ーーーこの世に物理的に存在するーーーできるほどのエネルギ

ー密度を持つことは稀である。それほどのエネルギー密度を持つガイストなら、事前にハ

ムがガイスト監視時、もしくは結界展開時に感づいていてもおかしくない。まして、物理

的に触れるほどならば………

 

「かもね」

 サラリと言いのける。

「『かもね』?何よ、その投げやりな返答は。」

 ハムは、別のことに気を取られているようだ。そして、少し間をおいた後、言う。

「………実はさっきから三号との連絡がうまくつかない。」

「はあ?」

「違和感が的中したってことさ。くそ、私としたことが。」

 そう言うハムの口調はいつもの戯けた調子のそれと違って真面目で怜悧なものに変わっ

た。

「タマキ。問題が二つある。まず一つ」そう言って続ける。「一つ目。ガイストは受肉し

てなんか居ない。だがしかし、物理的に存在している。ガイストは憑依能力を持っている。

つまるところ………」

「〈憑依されてる〉ってことね。生身の人間が」間髪入れず三笠環が言う。「どうすんの

よ。一般人を巻きこむのはゴメンよ。人払いの結界はどうなってるのよ!」

「一般人云々に関しては心配ない。ガイストが憑依しているのは死人だ。君に人を殺させ

やしないよ」

 ハムは死人を一般人にカウントしない。ただの肉の塊だ。どうでもよい。それよりも問

題なのは………。

「そして二つ目。一つ目の問題にも関係するが………何者かが我々に干渉している。三号

との連絡が取れないのもそれが原因だろう。そして、死人に憑依したガイスト………これ

も何者かの手入れによるものである可能性が高い。」

「つまるところ、アタシ達は何者かに嵌められてる、と?」

「そういうことになるね」

「はあ!?」

 三笠環は立ち止まり、苛立ちながらハムをキッと睨んだ。

「さっさと仕事を円滑に終わらせたいっていうのに、何やってんのよ!この馬鹿ハム公!

大失態じゃない!」

「ああ、そうだ、私としたことが大失態だ。弁解の余地もないね。」

 ハムは冷静に、そう返した。焦った所でどうにもならない。冷静に、次の一手を考える。

「〈同業者〉が我々に干渉しているのは間違いない。これに関しては他のハムに対処させ

る。タマキ」そう言ってハムはしっかりと三笠環の眼を見据えて続ける。「懸念事項は

多々あるが、君がやることはひとつだ。ガイストの退治。君はソレにだけ専念してくれれ

ばいい。」

「アタシがやることは変更なしってことでオーケーってことね。だったらさっさと終わら

せるわよ。」

 そう言って、三笠環は術式を再展開した。放たれる緋色の光弾。辺り一面が再び緋色に

染まる。

(懸念事項なんて知るもんか。ハムの落ち度なんてどうでもいい、アタシはさっさとこの

仕事を終わらせたいだけよ!)

 再び加速する状況。帰還限界点はとっくに過ぎている。ひたすらに、ただひたすらに事

をやり遂げるために進むしかないのだ。例え誰かが弄した策に嵌っていようとも、後戻り

はできないのだ。

 三笠環は緋色の光弾を放ちながら、階段を全速力で駆け上がっていった。

「待て、タマキ!先行するな!私を置いていくんじゃあない!」

 魔術によって強化された三笠環の身体能力は常人のそれとは桁が違う。ハムですら追い

つけない速度で、三笠環は、再びガイストを追い始めた。


     ◆


(さて彼女たちもいよいよ気づいたか。妨害術式を最大出力で展開したのだから当然だが。

さりとて、もう引き返すこともできんだろうて)

 伊坂裕太は人型の紙切れをじっと見つめた。すると、文字が徐々に浮き上がり、ソレに

定着した。

(あとは自律モードで十分だな。撤収の頃合いだ。)

 「撤収だ。車を出せ」

 運転手にそう告げると、車は、地下駐車場から勢い良く飛び出していった。

 揺れる車内の中、伊坂裕太は思う。

(しかし、対象Bはともかく、対象Aが〈彼〉になろうとはな。私としては誰でも良かっ

たのだが。)

 伊坂裕太の計画では、対象Aと対象Bーーー布施弘毅と瀬戸洋平のことだーーーは誰で

も良かったのだ。二人である必要ですらなかった。単なる撒き餌。一般人を魔術師の世界

に巻き込んだという状況を作り、彼女たちが構築している魔法少女システムを妨害し、

〈協議会〉の俎上に上げる。それさえできればよかったのだ。本来の目的を遂げるためだ

けならわざわざ対象を特定する必要はなかったのだが………。

(他ならぬ元相棒の、それもあの方の側近の頼みならば聞かないわけにもいかないだろう

て。それに私自身も………)

 そう呟いて、伊坂裕太は拳を強く握る。闘争本能が湧き上がる。典礼魔術の使い手とし

て、混沌魔術を使う三笠環らと戦いたい。そう、彼は密かに思っていたのだ。

 ジリジリと高まる戦闘欲求を抑える。今はその時ではない。今は、今は。車内にはエン

ジン音だけが響いている。窓の外の景色を見やる。街灯と家々の灯りが徐々に増え始める。

窓に反射した自分の姿と流れる景色を見て彼は再び考える。

(アイツが〈彼〉を選んだ理由………あの人を探す端緒にでもするというのだろうか?)

 

     ………


 車がビルから出て、五分後。伊坂裕太の人型の紙切れが青い炎をまとって、灰燼に帰し

た。それを視て、伊坂裕太は計画の成功を確信した。

 対向車線を、消防車とパトカーがサイレンの音をけたたましく響かせながら通り過ぎて

いった。先程まで、伊坂裕太がいたビルに向かっているのだろう。

 伊坂裕太はゆっくりと息をついて、携帯電話を手にした。彼の主である〈遠野正臣〉に

報告をするために。


     ◆


 階段を駆け上がる。

体に装備した警備道具一式が無駄に重い。

 防刃ベストがずっしりと肩にのしかかる。

 右腰から吊り下げたトンファーと無線機が体のバランスを崩す。

 左腰につりさげた鍵の束はいちいち太ももにあたってジャラジャラと音を立て、不快感

を募らせる。

 息が上がる。

何階建てなんだ、このビルは?

 そう思いながら俺は白い経帷子から逃げる。奇声を上げて近づいてくる。逃げるしかな

い。

 ひたすらに、階段を登り続ける。途中、他のフロアに退避しようと思ったが、すぐさま

諦めた。

 鍵はある。確かにある。しかし大量すぎる。多すぎてどの鍵がどの扉に対応しているの

かさっぱりわからない。

 マスターキーとか普通あるんじゃあないのか?とも思ったが、そう考えている間にも、

奴は俺を追って、階段を登ってくる。

 逡巡はできない。

 止まれない。

 他のフロアへの扉を開く鍵を探している時間?なさすぎる。

 とりあえず登る。階段を。

 息がヒューヒュー切れる。肺がヒリヒリする。

 立ち止まるか?呼吸を整える?

 そしてどうする?立ち向かう?

 手持ちの武器はトンファー。俺には古武術の嗜みがーーーいや、無理だ。あれは人では

ない。

 触れられるからといって、こちらの攻撃が効く保証はない。

 それにこの防刃ベストや装備一式に慣れていない。普段と違い、体が上手く動かせない。

 赤い光も近づいてくる。何度も断続的に光っている。

 閃光弾の類ではない?何度も使うものではないだろうから。

 兵器ではない?じゃあなんだ?生身の人間絡みの線は消えたってことか?

 それが光るたびに口裂け女が奇声を上げる。

 苦しんでいるのか?奇声ではなく悲鳴?激痛の?

 逃げているのか?俺を追っているのではなく?あの光も危険。俺にとっても?

 立ち止まる選択肢は無くなった。口裂け女だけでなく、赤い光も危険だ。

 ひたすらに屋上を目指す。唯一の選択肢。あと何階?

 とにかく、今できる最善のことをする。考えろ!考えろ!考えろ!

 屋上を目指す。それも、できるだけ速く。そして、このくそったれの大量の鍵束の中か

ら屋上へ出るための扉を開ける鍵を探す時間を稼ぐ。

 ーーーそれしかない。そして施錠。その後は?知ったことか!

 とにかく、奴との間に障壁を設けたい!

 階段を登りに登った。人生史上、これまでにないくらいの段数を、人生史上これまでに

ないほどの速度で。

 どうにか屋上に到達したーーー目の前には扉が。

 両の手をバンッ!っと叩きつける!くそう!

 扉があるのは予想していた。あって当然。もしかしたら扉がないかもしれないという淡

い期待。一気に崩れる。

 押し寄せる絶望感ーーー足ががくがくする。息は切れ切れだーーーまだだ、諦めたら終

わりだーーー腰に下げた鍵束を手に取るーーー手が震える。うまく外せないーーーくそ

っ!くそっ!ーーーどうにか外すーーー手当たり次第に鍵穴にーーー一本目、合わない!   

二本目、合わない!三本目ーーー少し廻る、合わない!

 風景が赤くなる。どんどん近づいてくる。悲鳴が、赤い光が、どんどん近づいてくる。

 四本目ーーー廻る!カチリと音が!ノブを回して扉を押し開ける。

 屋上に出られた!即座に扉を閉めーーー追いつかれていた!

 眼前には口裂け女の顔が!

 口裂け女は扉を押しやってくる。俺は必死で扉を閉める   阻まれた!扉越しに押し

合いになる!

 くそっ!くそっ!こっちに来るな!口裂け女は奇声をはしながら、扉の間に体をねじ込

んでこちらに来ようとしている。

 来るな!来るな!来るな!来るな!

 瞬間、赤い閃光。

 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!」

 なんだ!?口裂け女が悲鳴を上げて、その場にガクンと膝から崩れ落ちた。そして、そ

の体はサラサラと砂のように崩れていった。

 何が起きたんだ?助かったの………か………?

 おもわず、力が抜ける。わけがわからない。頭が混乱している。と、誰かが階段を駆け

上がって来る音がする。赤い光!それを発していた主か?

 扉の隙間から人影が視えた。目があった。なんだ?


 ーーーそれは、ゴスロリの格好をした女の子とあのハム公だった。


     ◆


 三笠環は階段を駆け上がり、階段の踊り場で立ち止まった。屋上へ続く扉の前でガイス

トがまごついている?何故?理由は分からないがチャンスだ。とびきりの一撃を食らわす。

両の手を斜め上方にかざして意識を集中させる。

 手のひらからは魔法陣が五つ。直径にして二メートル。水平に、六十センチほどの感覚

で重なりあって現出する。銃における、銃身の如きそれは、重なる数が多ければ多いほど、

発射される光弾の威力を増す。

「ーーーこれでおしまい!」

 そうつぶやくと、魔法陣は小さく収束し、緋色の光弾が放たれた。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!」

 直撃。ガイストが膝から崩れ落ちるのを見た。

(やったのか!?クソ、速すぎる!結界の収束が間に合わない!このままでは不完全だ!)

 ハムは三笠環の術式展開を感知し、急いで強大な魔力をチャージし、結界収束点へ魔力

を流し込む。結界の収束と三笠環への魔力供給がうまくいかなければ、魔術は不完全に終

わる可能性が高い。そうすれば、ガイストは再生してしまう。ーーー処分し損なう!

 三笠環は階段を駆け上がる。戦果を確認するために。

 砂状になって消え去っていくガイスト越しに、三笠環はありえないものを見た。

 

 ーーー警備服を着た、少年の姿だ。


(生身の人間!?な!なんでこんなところに!?)

 三笠環は混乱した。何故?人払いの結界は?アタシの探知にもひっかからなかった?何

故?ハムは?ハムはなにやってるんだ?

「ハ………ハム!一体どういうことよ!」

 三笠環は後ろを振り返って、後続してきたハムに問うた。

「どういうことって………」ハムは、ようやく階段を登り終え、扉の方を見やって事態を

把握した。「!?コーキ!?何故ここに………?」

「い………一体全体なにがどうなってるのよ!?どうして一般人が?これが謀略?罠?そ

れともコイツがアタシたちをはめた張本人?きっちり説明しなさいよ!」

 そう言って、三笠環は矢継早に言葉をハムに投げかけ事態の説明を求めた。と、その時、

「タマキ!後ろ!まだガイストは消滅していない!気を抜くな!」

 口裂け女の姿形をしたガイストは、体の半分を砂状にしながらも、まだ生きながらえて

いた。そして、三笠環の方にぐりんと首を向けて奇声を発し襲い掛かってくる!

「オ、オオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアッッッッ!」

 空気が激しく揺れる程の奇声。

 今まで以上の大きさのそれに、プツン、と三笠環の何かが切れた。

「うるっさいわねえ!今それどころじゃあないのよ!アンタの相手なんかしてる暇なんて

ないのよ!」

 三笠環の感情の昂ぶりに、彼女の魔眼が反応する。魔眼は励起し青色に光り、ハムが遅

れて供給した魔力が満ちた場のエネルギーが収束する。

(しまった!)

 ーーー瞬間、青い閃光とともに爆発が起きた。

 キキキキキン!と空気が震え、空間が割れる。

(くそっ!魔眼が励起して実体魔術が発動してしまったか!しかしなんだこの威力は!)

 ハムはチッと舌打ちをし、自身のミスを悔やんだ。

 明滅を繰り返す青い閃光。

 爆風と轟音があたりを包む。屋上へ続く扉は吹き飛び、建物も損壊している。屋上に備

え付けられた貯水タンクはひしゃげ、水が勢い良く飛び出している。

 塵芥があたりを包む。青い閃光が収まり、辺りは再び夜の灰色に包まれた。その風景の

中、三笠環は呆然と立ち尽くしていた。

「あ………アタシ………何を………」

 三笠環は狼狽している。目線の先には爆風に吹き飛ばされ、フェンスにたたきつけられ

た布施弘毅の姿があった。ピクリとも動かない。ただそこに、物の様に横たわっている。

 ヒューヒューと、風の音だけが鳴っている。

「ハム………アタシ………アタシ………」

 三笠環はカタカタと、震える手を見やる。この手で、アタシは、人を………。

「大丈夫だ!タマキ!彼はまだ生きている!」

 ハムがすかさず声をかける。

「君は誰も殺してなんか居ない!心配するな。後は私がなんとかする。」チチチ………と

ハムの思考に通達が入る。「ーーーよし、三号と連絡がついた。そいつに任せる。とりあ

えず、ここから離脱するぞ。急げ!派手な花火を打ち上げちまったんだ!一般人が集まっ

てくる前に早く!〈死神〉にも感知されかねない。行くぞ!」 

 そう言ってハムは、三笠環の腕を強引に引っ張った。

「やっちまったもんは仕方ない!こうなりゃヤケだ!飛ぶぞ!一気にこの場を離脱して、

結界を張って〈死神〉の探知から逃れるぞ!」

 ハムはそう言って三笠環とともに、屋上から文字通り飛び立った。


     ………


 三笠環達が去った数分後、布施弘毅の前に、ハム三号が近づいていった。爆風に吹き飛

ばされ、フェンスに体をたたきつけられた布施弘毅の体は、ところどころ骨折し、内臓も

破裂している。だがしかし、まだ命の灯火は消えてはいない。そのことを確認するとハム

三号はゆっくりとその身を布施弘毅の体に重ね、自らの体を融合させていった。

 暗雲が立ち込め、満月は雲に隠れた。急に陰った空からは、冷たい雨が降り始めた。陰

鬱とした灰色の世界の中、パトカーと消防車、救急車のサイレンだけがけたたましく辺り

一帯に響いていた。


     ◆


 とある旧家の来賓室で、二人の老人が会話をしている。と、一人の男が口を開く。

「しかし荒神様。日向の娘達の児戯は最近目に余るものがありますな。」

「あれか」と、荒神と呼ばれた男は続ける。「あの場所の霊脈の管理は日向に任せてはい

るものの、確かに珍妙なやり方ではあるな。」

「あまりにも子供じみていますな。荒神様もそうお思いで?」

「さて、どうだろうな。やり方がどうであれ、あの土地の管理ができている限りはさほど

私からは何もいうことはないのだがね。」

「しかし、あまりにもふざけているとは思いませぬか?〈魔法少女システム〉などと!」

そう言って、男は語気を荒げた。「彼女たちはそう呼称して霊脈管理システムを構築して

いるようですが、我々魔術に関わる家系のからすれば伝統も威厳もまったく感じられず…

……」

「まあ落ち着け、マサオミ」そう言って続ける。「あのシステムには君の孫も関わってし

まっていると聞いている。ーーー六年前のアレは酷かった。よもや〈蝕〉が起こるとはな。

発生原因も今だ不明。なんとまあ情けないことだ。事態の収拾にも苦労したものだ。ソレ

に尽力したのは日向家の者で、〈魔法少女システム〉とやらもその対処法として構築され

たものだ。君が憤慨するのもわかるが………」

「しかし、あまりにも児戯に等しくはありませぬか。あまりにも、あまりにも!」

 再び語気を荒げる遠野正臣を諌めるように、荒神は手を上下に振り、言う。

「君の手の届く範囲と手段で、どうにか事を解決したいのはわかるが、あの地の管理を日

向家にまかせている以上、私からは何も言えぬよ。やり方が如何にふざけた児戯に視える

としても、事はうまくいっている以上は………」

「失礼致します。」と、若い男が二人の会話に割り込んできた。「遠野様。お電話が。」

そう言って男は、遠野正臣に電話の子機を渡しそうとしたが、手が滑った。男はなんとか

それを落とさずに済んだ。男は非礼を詫び、遠野正臣に改めて電話の子機を渡した。男は

右手に嵌めた白い手袋ーーー子機を滑らせたのはその右手だったーーーをさすりながら退

室した。遠野正臣は怪訝そうな視線を向けそれを見送った後、部下の非礼を詫びた。

「よいよい。そういえば、あれの右手も、〈蝕〉の被害を受けたのだったな………。仕方

があるまい。そら、私に構わず、電話に出たまえ。」

 遠野正臣は深く頭をたれ、電話に出た。

「ーーー私だ。………うむ。ちょうど荒神様も同席している。事態を我々に報告したま

え。」遠野正臣は、電話のスピーカーをオンにした。

『荒神様。遠野様。電話口で失礼します。伊坂です。火急の報告がありまして連絡した次

第であります。』

 そう言って、伊坂裕太は、ビルで起きた事象を二人に報告した。


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