蝕・記憶
11 蝕・記憶
扉を抜けて、数十キロの距離を一瞬にして移動した俺は、疑問符だらけの頭を抱えたま
ま、どうにか家についた。早苗さんは出勤して居ない。ふらふらと自分の部屋へ歩いて行
く。早苗さんが居なくてよかった。今、何を聞かれても何も答えようがないから。それ程
に俺の頭は混乱していた。
鞄を放り投げた。ベッドに寝転ぶ。顔面から、ぼすっと。ぼんやりとしている。あまり
にも色々な出来事がありすぎた。それも、不可思議なものばかりで、情報量も半端ない。
うああああああっと声に出して唸った。あまりにも色々なものが鬱積してたまらない。
特に、六年前のこと。父さんが失踪した日。あの時俺は、その場に居合わせたと。そう
真希いろはさんは俺に告げた。そのことが、俺の胸を酷くかきむしる。
◆
扉の向こうには山ほどの本があった。書庫………?特別変わったものは………いや、な
にかがおかしい。違和感が………なんだろう………?
呆然と立ち尽くしていると「さあ、こっちへおいで」と俺の手を真希いろはさんが引い
ていく。書棚の間をすり抜けて、奥へ進む。書棚を見る。視線を下から上へ。天井がやけ
に高い。
違和感が何なのかわかった。広すぎるのだ。空間が。あまりにも、あまりにも。あの真
希いろはさんの事務所のある建物の大きさにそぐわない空間がそこにはあった。
縦方向だけでなく、横方向にも広いその空間を、どんどん進んでいくと、シャッターに
突き当たった。真希いろはさんがそれを開けると、見覚えのある風景がそこにはあった。
ーーー俺の父さんの事務所の前の風景だ。
真希いろはさんが、俺の肩をポンと叩いて言った。
「ーーー六年前。この街に〈蝕〉が起こった。君の父親ーーー布施啓介ーーーは、その事
件に巻き込まれて失踪した。それはさっき話したとおりだ。しかし、重要なことが一点。
《君はそこに居合わせた。》でも思い出せない。そうだね?」
何を言っているのかわからない。俺が?父さんの失踪現場に居合わせただって?あの時
は………?思い出そうとすると、靄がかかる。あれ?なんでだ?あの時俺は家に居たはず
で………サイレンの音が辺り一帯に鳴っていて、マスコミがテレビで騒ぎ立ててて………。
「違うね。君はこの二階。ケースケさんの事務所に居た。そして、父親が出て行くのを見
届けた。」
そう言って俺の肩に手を回し、顔を近づけて続ける。
「その後君は、こっそり父親を追いかけて行った。そして、〈蝕〉に遭遇した。」
心臓がドキドキする。真希いろはさんの顔が近いから?いや、そうじゃあない。なにか、
スイッチがカチリと入った気がする。今までその存在にも気づかなかったスイッチに。
そして何かが動き出した気がする。でもとても不完全で、上手く繋がっていない感じが
する。
指先が震える。冷や汗が止まらない。何かがグルグルと頭の中をのたうち回っている。
『ホマホマホマ!ホマホマホマ!』
電話のベルの音がする。特徴的なあの音。
ーーーそうだ、俺が居たのは自宅じゃあなくて父さんの事務所だった。あのマヌケな電
話のベルが鳴って、父さんは受話器をとった。そして、険しい顔をした後、事務所を出て
行った。
俺は、なぜだかとても気になって、父さんを追いかけた。追いかけた理由?分からな
い?いや、思い出した。父さんは忘れ物をしたんだ。いつも持ち歩いている携帯灰皿を。
別に大した忘れ物じゃあない。でもとても気になって俺は父さんを追いかけたんだ………。
父さんは車で出て行ったから、追いつけるはずはなかったのだけど、場所はわかってい
た。電話口で父さんが口走っていたから。街の東北にある公園だ。何度か遊びに行ったこ
とがある。
俺は自転車に飛び乗ると、その公園に向かって走りだした。坂道だ。小高い丘の上にソ
レはある。ぜいぜいと息が切らしながらひたすらにペダルを漕ぐ。そして、公園の近くま
で来ると、異変が起こった。さっきまで真っ青だった空が赤く染まって、それで………?
ーーーそれ以上思い出せない。
頭がくらくらする。思わずよろけた。真希いろはさんが支えてくれた。そして続ける。
「無理に思い出す必要はないよ。だがしかし、いずれ、君はソレを思い出すことになるか
もしれない。きっと多分おそらくは。なにしろ、偶然か必然か、〈こちら側の世界〉に来
てしまったのだからね。」
なんで、俺は今までこのことを忘れていたんだろう?いや、思い出そうとしなかったの
か?いや、別の記憶に置き換わっていた?なんで?なんで?なんで………?
心がざわつく。動悸が。つっけんとんに。不確定なリズムで。
「君が遭遇した事象ーーー〈蝕〉ーーーは厄介でね。君の記憶が曖昧なのもそのせいだ。」
そんな俺を真希いろはさんはそっと後ろから抱きしめながら話を続けた。
「あの時、君を保護したのは私だ。正確には〈ハム〉だけどね。君の周りには簡易結界が
張られていた。きっと、ケースケさんが張ったんだろう。君を守るためにね。」
公園。父さんの背中。がらんどうの眼。ハム。
色んな風景がフラッシュバックする。でも、それだけで、何もつながらない。決定的な
何かが思い出せない………。
「厄介なことに、〈忘却術式〉もかけられていた。それと、〈蝕〉の影響も相まって、君
は今までこのことを思い出せないように仕向けられていたんだろう。」
真希いろはさんは更に強く俺を抱きしめる。
髪が触れる。柑橘系の香りがした。吐息がかかる。湿り気があって温かい。大きな胸が
背中に押し付けられる。それは、むにゅうっとしててとても柔らかくて………。
心臓がドキドキする。体温がカアッと上がる。手が汗ばむ。何をどうすればいいのかわ
からないまま俺は立ち尽くしていた。真希いろはさんはしばらく俺を抱きしめたまま無言
になった。
どれだけの時間が経っただろうか?数秒だったかもしれないけどやけに長く感じたその
無言の抱擁が続いた後、
「あの時、あの場所には三笠環と遠野遥もいた。さっき君に話したよね? ミカサタ
マキ。魔法少女の彼女のことだ。あの事件をきっかけに、彼女は魔法少女になったのさ。
運命とは恐ろしい。いや宿命か………。」
そう言って、一呼吸おいて真希いろはさんは言った。唐突に突飛な事を。
「巻き込まれついでだ。どうだい?魔法少女の愚痴聞き役にならないかい?」
◆
その後、また魔法の扉で真希いろはさんの事務所に戻って、色々なことを話した。
改めて、真希いろはさんは魔術師だということ。そして魔法少女であるミカサタマキと
いう子のこととハムのことなどを。なんでもガイストとやらを退治してこの地を人知れず
守っているとの事だ。
〈澱〉がどうだの霊脈がどうだの魔術師の役割がどうだの魔法少女システムがどうだの
色々聞かされたけど、あまりにも常識の斜め上を行っていて、さっぱり頭に入らなかった。
理解ができない世界だ。いや、俺もその理解のできない世界の住人である〈人ならざるモ
ノ〉が視えているわけだから、全く理解できないわけではないんだけれども………こんな
に、超常現象について人と話をすることなんて、ましてや、システマチックに論理建てて
説明されることなんてなかったから、とまどって当たり前だと思う。
それに、あんな瞬間移動を目の当たりに、いや、体験させられたのだから頭が回らなく
なるのも当然だ。
ゆっくりと、話しを整理しなくっちゃあな。
真希いろはさんと俺の父さんと早苗さんは、昔からの知り合いだったそうだ。早苗さん
とは日向学園の小中等部時代に知り合い、父さんとは、それ以前から顔見知りであったら
しい。
早苗さんは知らないけれども、父さんは、真希いろはさんの世界 つまり〈魔術師
の世界〉で活動していたそうだ。その関係で、真希いろはさんと父さんは知り合ったとの
ことだ。子供心に、探偵それ自体も不思議な職業だと思っていたけれども、それ以上に不
可思議な世界に関わっていたとは。しかしながら納得もしている。だって、俺にはその
〈人ならざるモノ〉が視えるわけだし、真希いろはさんも、父親の影響でそうなったんだ
ろうと俺に言った。
「君の父親はね、〈紫煙〉という組織に関わっていた。こいつは魔術師のサポートを受け
た一般人が属する組織でね。〈澱〉の排除を目的として組織された。魔術工学に基づいて
作成された薬品ーーーさっき君に渡したような類のものだねーーーを駆使して魔術師に近
い性能をもたせることによって〈澱〉並びにソレに関連する犯罪に対処するというのが仕
事だった。しかし、六年前。ある事故が起きた。この街では〈大火災〉として記録されて
いる事件だ。それを機に、君の父親は行方不明となった。」
真希いろはさんは虚空をじっと見つめてそう言った。〈蝕〉という現象のこと。六年前
に東北の丘の上の公園で起こった大火災は、それが原因だったとのことだ。当時、大きな
ニュースになった大火災だ。たくさんの人が怪我をしたり、亡くなったり、行方不明にな
ったり、下と聞いている。
「あの時、あの場で何が起こったのか?それは今も調査中だ。詳しいことは何もわかって
いない。すまないね。事が事だけに、本当のことをーーー魔術師の世界のことをーーー言
うわけにも行かなくてね。ーーー君の父親はかなりの重要人物だった。それがいきなり行
方不明になったんだ。〈紫煙〉の連中は、少しでも手がかりを得ようとして、君たちに接
触しようと試みていたけどね。しかし彼らも何も知らない君たちに接触するのはあまり意
味が無いと判断したようだ。〈こちら側の世界〉のことはそうそう人に知られるわけにも
行かないのでね。私の方も極力、君やサナエを巻き込まないようにするために今まで接触
を断ってきた。しかし、今、君はここにいる。偶然か必然か?それはわからない。でも、
ここまで関わってしまった。こっちの世界に来てしまった。だから話した。」
真希いろはさんによると、俺が今まで不幸の前兆として視てきた〈ハム〉は、俺に振り
かかる不幸を極力最小限にするために遣わしたものだったそうだ。
「接触を断っていたとは言ったけれども、実のところ、君のことはハムを通して定期的に
観察していた。押し付けがましい言い方になるけれども、〈君を守るため〉に私はハムを
遣わして、君に振りかかる不幸を何とか最小限に抑えるように努力していた。君の不幸体
質は〈蝕〉の影響だと思われる。人より著しく運が悪い。それも特に、命にかかわること
に対して。著しく防衛力が低くなっている。それ故に、ハムを使ってどうにかその不幸を
減じるために色々してきたわけなんだが………そうか、君にとっては〈疫病神〉として映
っていたわけか。」
〈人ならざる者〉が視える〈霊媒体質〉はともかく、俺の〈不幸体質〉は〈蝕〉という
ものが原因になっているとのことだ。〈呪い〉のようなものとだと思ってくれればいいと
真希いろはさんは言った。思い起こせば、色々不幸なことが重なり始めたのは、父さんが
失踪した後からだった。〈ハム〉を視るようになったのもそれ以降だ。なるほど、納得が
いった。俺は知らないうちにハムに、いや、真希いろはさんに守られて生きてきたのか…
……。
「今まではどうにか、君をこっちの世界に触れさせないようにしながら、〈蝕〉に起因す
る影響を可能な限り減じてきた。でも、これからは違う。君は〈こちら側の世界〉に直接
触れてしまった。偶然か必然か?それはわからないが、これから世界は、そして私以外の
魔術師も君を〈こちら側の人間〉として〈認識〉することになる。もう今までみたいにハ
ムを使って〈間接的〉に君を魔術の世界から守ってやれない。君の失われた記憶も意味を
持って浮上し、それを付け狙う輩もでてくるかもしれない。」
真希いろはさんは俺に提案をした。
これからは、直接俺のことを守ると。しかし、魔術師の契約には必ず対価が必要だとい
う。その対価として、俺に魔法少女のーーー三笠環という娘のーーー愚痴聞き役にならな
いか?という提案だった。
「私達の澱の排除システムである〈魔法少女システム〉。その核となる魔法少女のミカサ
タマキはちと厄介でね。〈魔眼〉というものを持っている。これは、彼女自身、制御しき
れていなくてね。精神が不安定になると、魔術行使に影響を与え、暴走してしまうことが
あるんだ。あの事件ーーー君がビルで遭遇した事件だねーーーは彼女の魔眼が暴走した結
果だ。」
俺の体を吹き飛ばして骨を砕いて内蔵をぐちゃぐちゃにして、瀕死の状態にした原因で
ある魔法少女とやらの愚痴聞き役になれって?納得がいかない。しかし、真希いろはさん
によると、彼女の魔眼の暴走は、何者かによって意図的に仕掛けられたものである可能性
が高いと言う。
「彼女のことは恨まないでやってくれ。勝手を言っているのはわかっている。でも、彼女
に責はないんだ。責めるなら私のミスを。彼女に〈魔眼〉を移植したのは私だから………。
彼女も〈蝕〉の被害者だ。君と同じようにね。ただ、君よりもそれは深刻だった。死にか
けていた。それを救うためには、危険とは知りながら〈魔眼〉を移植するしかなかった…
……。すまない。言い訳になっているね………。」
魔法少女の三笠環という娘も、俺と同様、〈蝕〉とやらの被害者だそうだ。俺がハムに
よって瀕死の体を修復されているのと同様に、彼女には〈魔眼〉というものを移植するこ
とによって生命を維持させている。彼女が魔法少女になったのもそれがきっかけだったと
のことだ。そして、彼女の魔眼を暴走させた奴ら………。
「それと、彼女の魔眼を暴走させた奴らだ。大体察しは付くが………。まあ、私達の〈魔
法少女システム〉を快く思ってない輩が居るのは事実だ。そして、綻びをーーー彼女の魔
眼の不安定さをーーー付かれてこの有様だ。そして、君もこれをきっかけにして彼らに
〈こちら側の人間〉であると認識されただろう。ーーー布施啓介。君のお父さんの失踪に
関して、君に対して魔術的なアプローチを取ってくる可能性が高まったってわけだ。」
今までは、俺や早苗さんは普通の世界の人間として、父さんの属する〈特殊な世界〉と
は無関係な存在として扱われてきた。でも、今回の事件によって風向きが変わった。直接
的に、俺や早苗さんに魔術師とやらが接触してくるかもしれないとのことを言っているん
だろう。早苗さんはともかくとして、俺の失われた記憶………。
「君の失われた記憶。いや、思い出せなくなっている記憶の方が正しいか。それを喉から
手が出るほど欲している奴らは五万といる。〈蝕〉の情報だ。〈蝕〉の中心部にいて、そ
れを観測して生き残った者はそうはいない。魔術師の瞳には貴重なサンプルとして君は映
るだろう。つまり、君は今まで以上に危険な状況に巻き込まれてしまったわけだ。」
俺の置かれた状況は最悪になったというわけだ。俺の記憶を欲している奴らか………何
も思い出せないっていうのに。俺がどれだけ割を食ってもいいけども、早苗さんを巻き込
むのは絶対に避けたい。どうすればいいのか………。
「魔術師というのも面白いものでね。基本的には〈他の魔術師がやっていることに干渉し
ない〉というのが暗黙の了解としてあるんだ。つまり、私の庇護下に入れば、君を危険か
ら少しばかりではあるけれども遠ざけることができる。そのためには〈契約〉が必要だ。」
契約。他の魔術師に干渉されないための。それが〈魔法少女の愚痴聞き役になる〉って
ことなのか?
「さっきも言ったように、彼女はとても不安定だ。メンタルヘルスの問題をどうにかして
解決する必要性もある。そして、君の置かれた状況。ーーーそれを鑑みると、一番理に適
っている契約内容になると思う。他の魔術師にせっつかれても跳ね除けられる理由にはな
る。それに、君の失われた記憶に関して私は幾ばくか力になれると思う。それも考慮に入
れて欲しい。」
俺の記憶を取り戻す力になる代わりに、俺に魔法少女の愚痴聞き役にならないか?との
提案なのだろうか?
提案というか取引の内容に関しては別にして、真希いろはさんが俺の記憶を取り戻す力
に慣れるということは事実だろう。でも、真希いろはさんも結局、俺の記憶が目的なだけ
なんじゃあないだろうか?
「それに関して、否定はしないよ。私個人も〈蝕〉に関しては知りたいことが山ほどある。
実際にあの場で対処した身だしね。それに………啓介さんの事も………ね。できれば、他
の魔術師に君を渡したくはない。方法は色々ある。中には君の命なんてまったく顧みない
方法を取ることも厭わない魔術師も居るだろう。でも私はそうはしない。約束する。それ
に………必ずしも〈魔法少女の愚痴聞き役〉になる必要もない。私の庇護下に入るなら
ね。」
真希いろはさんが言うには、魔法少女の愚痴聞き役になるということは真希いろはさん
の庇護下に入るための必須の要件ではないらしい。俺の〈失われた記憶〉を取り戻すため
の協力をするという契約だけで事足りるという。ただ、それにはひとつ、要件というか対
価があるという。
「君が、単に私に〈失われた記憶〉を取り戻すために身を提供するという契約をするだけ
でも私の庇護下には入れる。だが、その場合、君の魔術師に関する記憶ーーーつまるとこ
ろは〈こちら側の世界の記憶〉ーーーは、君自身は知ることはできなくなる。つまり、私
が一方的に君から情報を得るだけで、君は一切君自身の失われた記憶及び、今回の事件に
ついての記憶も私の忘却術式によって〈消去〉しなければならないということだ。」
つまりは、単なるサンプルとして真希いろはさんに身を提供すると、俺は自分に起こっ
た不可思議なことーーー〈蝕〉やビルでの出来事についてーーーの記憶を剥奪されてしま
うということらしい。ーーー対価としての〈忘却〉。それはフェアではない。俺自身も、
〈蝕〉で何が起こったのか?そして俺の父さんがどうなったのかを知りたい。
「君をモルモットにはしたくない。だから〈忘却〉という対価の代わりに〈魔法少女の愚
痴聞き役になる〉という対価を支払うことで、君とフェアな関係を築きたいと思っている。
こちらの勝手な提案なのは重々承知だ。だがその上で決めて欲しい。どちらを私の庇護下
に入るための契約の対価とするかをだ。」
〈忘却〉か〈魔法少女の愚痴聞き役になる〉か。その二択しか俺には与えられてないら
しい。
ーーーふざけた話だ。
「君がどちらを選ぼうが、私が君や早苗を守ることは確約する。問題は、〈君が君自身の
記憶を手放すか否か〉だ。はっきり言って、強制だ。君に断るという選択肢はない。どち
らかを選ぶしか無い。君の体の事もあるしね。どちらを選ぶとしても君とはこの事務所や
学園のカウンセラー室で接触することになるだろう。結論は急かなくていい。でも君の停
学が明けるまでには答えを出して欲しい。カウンセラー室に訪ねてきてくれ。そこで君の
選択を聴く。」
話はそれで終わった。俺は混乱した頭を枕にうずめながらウンウンと考えている。断る
という選択肢はない、か。
帰り際、ひとつのファイルを渡された。決断をする材料になると思うと真希いろはさん
が俺に渡したファイルだ。
鞄からそれを引っ張りだす。それは、魔法少女に関するファイル。つまり三笠環に関す
る情報が書かれたファイルだった。パラパラとページをめくる。それには三笠環がいかに
魔法少女になったか?ということが書かれていた。




