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魔法少女も愚痴りたい  作者: がらんどう
1/16

ある晴れた非日常的な日常の風景

えー… 読みやすく章ごとにあげなおしでございます…

  「魔法少女も愚痴りたい」


                                  

                   がらんどう



















     1  ある晴れた非日常的な日常の風景



「ちょっとアンタ!ちゃんと話聞いてんの!?」

 苛立ちを隠さずに、三笠環が言った。

「聞いてる聞いてる、聞いてますって。」

 布施弘毅はそう言いながら、椅子に背をもたれかけさせ、頭を掻きながら答えた。

 その様子が気に入らなかったらしく、三笠環は椅子から立ち上がり、両の手をバンッと

テーブルに勢い良く叩きつけながら、ずいっと身を乗り出して、再び布施弘毅を問い詰め

る。

「ちゃんとアタシの目を見て答えて。実際のところどうなのよ?聞いてなかったでしょ?」

 二人の顔の距離が極端に近づいた。三笠環の眼に映る布施弘毅の姿は狼狽していた。話

を聞いていなかったことが一目瞭然である。しばらく、自身の狼狽した姿を観ていると、

三笠環の右目が少しずつ、黒から茶色へ、茶色から赤へと変化して行った。

 これはマズい。感情が高ぶっている証拠だ。白を切るのはよしたほうがよさそうだ。

 布施弘毅は、我ながら、三笠環が相手だと、態度が所作に出やすいなあと思い、観念し、

話をちゃんと聞いていなかったことを詫びた。

「わかればいいのよ、わかれば。」

 そう言って、三笠環はストンと腰を下ろした。

「それにしてもアンタ、態度が顔に出やす過ぎじゃあないの?普段からそうなわけ?アン

タがきっちりアタシの話を聞いてくれないとアタシのストレスが溜まってしかたがないん

だからちゃんと聞くなり、聞いてないとしても態度に出さないように気をつけなさいよ。」

そう言った後、はっと気づいて続ける。

「いや、話はちゃんと聞いてくれないと困るわ!聞いてないけど聞いているふりしてても

アタシにはわかるんだからソレが新たなアタシのストレス源になるじゃあないの!ああ、

もう!しっかり聞きなさいよね!まったく………。」

 三笠環は、一方的にまくし立てた後、ぷりぷりしながら腕を組んで布施弘毅を睨んだ。

 どうも彼女は神経質なフシがある。そのために、布施弘毅は毎度、彼女の機嫌を損ねな

いように注意しているのだが、何故か彼女が相手だと、態度が顔に、所作にでてしまう。

 ううむ、と布施弘毅は唸った。三笠環は未だプンスカと怒っている。

 二人がいるのは学校の屋上のテラスだ。昼休みになると、毎日毎日二人はここで、昼食

を食べながら会話を重ねている。

 会話………というよりは、布施弘毅による三笠環の愚痴聞きの時間といったほうが正鵠

を射ている。学校のある日は三笠環の愚痴を聞く役に徹することが、彼に課せられた〈仕

事〉なのだ。

 二人の間に沈黙が流れる。………どうにも気まずい。そんな中、異様に間の抜けたあっ

けらかんとした声が二人に向かってかけられた。

「やあやあ、お二人さん。今日も仲がよろしいようで〜。なによりなによりヤッホーヤッ

ホー!」

「うるっさいわね!仲なんて良くないわよ!腐れ縁っつうかただの仕事上の関係だっつー

の!ってかアンタが斡旋したんでしょうに!」

 そう言って、三笠環は声の主をキッと睨みつけた。

「もっとちゃんとした愚痴聞き役を選べなかったの?このハム公!」


 その〈ハム公〉と呼ばれたものは、人間の姿をしては居ない。その姿は、猫に似た、し

かし、奇妙な表情と姿形をしたものだ。

 日本古来の妖怪に形容すれば、猫又のような姿形と言えようか。猫のような姿形をした

それは、尻尾が二股に分かれており、その体躯は猫と人間の中間といったような不思議な

体型をしている。その中でも、一番眼に付く特徴は、その顔だ。

 がらんどうの丸い目に、〈ハ〉の字の眉毛と〈ム〉の時のような口元をしている。非常

にふざけた表情だ。それ故に、三笠環たちからは〈ハム〉と呼ばれている。

 

 奇妙な姿形をしたその生き物は、二人の間のテーブルの上にひょいと乗っかり、

「はっはっはっ。そう邪険にしなさんなって」

 と言って、どかっとあぐらをかいた。そして、続ける。

「そもそも、彼を巻き込んだのは、タマキの魔眼が暴走したからじゃ〜ん?んで、こっち

としては後処理が大変だったんよ〜?愚痴聞き役に選定したのだって、元はといえば君が

起こしたヘマをどうにか因果変容の許容内に収めるために必要な手段だったんだよ?そこ

んとこヨロシクゥ〜?」

 そう言われて、ぐぅ………と三笠環は黙りこくった。実のところ、ハムにも責任がある

のだが、そこは敢えて言わない。

「まあ〜タマキの言うことも一理あるけどね〜」

 そう言って、ハムは布施弘毅の方を見やりながら続ける。

「コーキもさあ、もうちっとちゃんとタマキの愚痴を聞いてやらんとなあ?こっちだって、

仕事として君に割り振っているわけで、給金だって出しているんだ。慈善事業ならともか

く、彼女のメンタルヘルスを任せられているって自覚をしてほしいねえ。」

「んなこと言ったって、こっちだって好きで愚痴聞き役の仕事を引き受けたわけじゃあな

いってーの。元はといえばハムっつうかタマキの………」

「ちょっと!なんでアタシのせいにされるわけ!?」

 布施弘毅の言葉を遮るように三笠環が声を上げた。

「そりゃあアタシのミスでアンタを巻き込んだのは事実だけど、結局のところ、アタシを

〈魔法少女〉にしたハム公が悪いんじゃあない!」

 そして、キッとハムを睨みながら言った。

「好きで〈魔法少女〉なんてやってると思ってんの!?こんな商売、お金をいくら積まれ

たってまっぴらよ!」

 再びバンっと机を両の手で叩きながら立ち上がると、

「うひゃあ!」

 という声とゴンッ!という音ががテーブルの下から上がった。

「いててて………もーう。タマキセンパイったら、びっくりするじゃあないですかぁ?」

 思わず頭を打ち、尻餅をついた皆川千代がもぞもぞとテーブルの下から這い出ながら、

「っていうかぁ〜、タマキセンパイは魔法少女になりたくてなったわけじゃあないんです

かぁ?あたしは魔法少女になりたくてしかたがないんですけどぉ?」

 そう言いながら立ち上がり、おしりをパンパンと叩き、ぶつけた頭をさすりながら続け

た。

「もーう。中等部からだとココの屋上テラスはとおいんですよぉーう。ちょっぱやで走っ

てきたから疲れちゃった。」

 そう言って、皆川千代は椅子に座り、紙パックのいちごミルクをストローでチュウチュ

ウ吸った。テーブルの下には既に飲み終えたいちごミルクの紙パックが2つ。かなり前か

らテーブルの下に潜り込んでいたようだ。

「うぉい、お疲れさん。つか、いつから居たのよ。びっくりだ、びっくりだよ。俺、全然

気づかなかったわ。」

「アンタが鈍感なだけでしょ。」

 と、三笠環が間髪入れず返したが、その実、彼女も皆川千代の気配には気づくことがで

きなかったのだが。


 皆川千代は友人たちの間において、神出鬼没少女として名高い。いつの間にかその場に

いて、いつの間にか話を聞いていて、いつの間にかその場を去っている。そんな不思議な

子だ。ハムによれば、魔術師としての素質がかなり高いらしい。彼女の気配の消し方も、

それが一因となっているのだろう。

 そんな彼女をハムが見逃すはずはなかった。監視下に置きたいという意味合いも込めて、

現在は、ハムと三笠環の下で〈魔術師見習い〉として、一緒に行動をしている。本人は、

「〈魔術師見習い〉じゃあなくて〈魔法少女見習い〉なの!」

 と、言い張って聞かないのではあるが。


「魔法少女って素敵じゃあないですかぁ。アタシ、センパイたちと会うまでは、魔法少女

なんてお伽話とアニメの世界にしか居ないって思ってたんですよぉ。それが実際に居るっ

て知って、しかもあたしにはその素質があるなんて言われた時にはもうウキウキして仕方

がなかったですよぉ?」

 そう言って、皆川千代はくりくりっとした丸い目で三笠環の顔をのぞき込んだ。小首を

傾げた勢いで、短めのツインテールがファサっと揺れる。

「この髪型だって、センパイにあこがれてツインテールにしてるんですからぁ。早く髪が

伸びないかなぁ〜?っていうか〜、センパイも普段からツインテールにすればいいのに〜、

せっかく綺麗なロングヘアーなんだし。」

「ちょ!そんなのまっぴらよ!ツインテなんてガキっぽいじゃない!しかもこれみよがし

に〈魔法少女です〉って言ってるみたいなもんで恥ずかしいったらありゃしないわよ!好

きであの髪型で魔法少女をやってるわけじゃあないのっ!ハムに強制されてるだけなんだ

から………チヨちゃんはハムに唆されてるだけなの。わかる?悪いこと言わないから、魔

法少女なんて目指さないで普通の生活を………」

 そう言ってとうとうと皆川千代の説得を試みるも、皆川千代は聞く耳を持つ様子は全く

ない。むしろ、眼をキラキラさせて、魔法少女への夢を語りだす。

「宵闇の街を跋扈する危険な化け物、〈ガイスト〉!人に害なす我らの敵を、魔法少女が

バッタバッタとなぎ倒し、人知れず、世界を守る………素敵じゃあないですかぁ………」

 皆川千代は、がたっと立ち上がり、両の手を胸の前で組み、明後日の方向を向きながら

魔法少女の魅力について語り始めた。こうなると、もう手が付けられない。延々と彼女に

よる〈魔法少女が如何に魅力的な存在であるか?〉を語りだして止まらない。

「ちょ!そんないいもんじゃあないわよ。ダメダメ!こっちの世界に来たらダメだって!

ああもう!あのねえ、魔法少女ってのはそんな良いものなんかじゃあなくって………って

か跋扈なんて難しい言葉どこで覚えたのよ?」

 歳相応でない言葉を使った後輩の成長っぷりに、三笠環は少し感心したようだ。お姉さ

ん気質で実の妹のように思っているのが伺える。しかし、それもとある人物の名前がでて

から一変する。

「イロハさんからの受け売りー!ばっこばっこ、ばっこ〜ん!」

「イロハぁ〜?くっそ!アイツからかー!アイツに唆されたらダメだって!もう………」

 二人はその後も喧々囂々とやりあっている。ああ、またはじまったよと、布施弘毅は二

人のやり取りをぼんやりと眺めている。毎度毎度のことなのだ。愚痴聞きも、仕事とはい

え大概しんどい。おまけに天真爛漫の後輩の世話も付いてきた。何故こんな仕事を受けて

しまったのか?いや、受けざるを得なかったんだよなあと思い、ふうと息をついて眉をし

かめる。その様子を、ハムはふざけたあの顔でニヤニヤしながら観ている。

 これが彼らの日常なのだ。   いや、魔法少女に、魔法少女見習い、魔法少女の愚痴

聞き役、そして猫のような奇妙な生物という取り合わせは、非日常極まりないものなので

あるが。


     ………


「はー、つっかれたー。」

 皆川千代は、よっこいしょっと声を出して椅子に座り、本日五パック目になる、いちご

ミルクをチュウチュウと飲み始めた。

「はあ…………毎度のことながら、どうしてこうチヨちゃんは魔法少女になるのを諦めて

くれないのかしらねえ………」

 そう言って三笠環は頬杖をついた。こつんこつんと人差し指でテーブルを叩きながら続

ける。

「魔法少女になったって、ロクな事がないのに、わかってくれなーい!コーキ!どう思

う?アタシ、正論言ってるよね?もうさあー、どうしたらチヨちゃんに魔法少女になる夢

を諦めてもらえるのかわかんないーーーああーーー!」

 ガックシと頬杖を崩して机に突っ伏し、足をばたつかせる。そして、上目遣いで布施弘

毅を見やりながら言う。

「………何度も言ってるけど、好きでなったわけじゃあないのよ、仕方なく、必要に駆ら

れて………ハルカの為にも嫌でもやらなきゃならない理由があるから続けてるだけでさあ

………」

「わーってるって。それに、俺だって好きで魔法少女の愚痴聞き役なんて引き受けてねー

よ。もうなんつうかしんどいわ…………」

「しんどいのはこっちだっつーの。アンタはアタシの愚痴を聞くだけなんだから楽なもん

じゃあない。アタシは肉体労働なのよー。に・く・た・い・ろ・う・ど・う!しんどいっ

たらありゃしないわ………」

「ああん?俺だって肉体労働してるじゃんよ。毎度タマキの仕事現場に居合わせてんだか

さあ。愚痴聞き役だけって話だったのにいつの間にかこのザマだっつーの。それにコイツ

も」

 そう言って、布施弘毅は錠剤が入った小瓶をポケットから取り出し、カシャカシャと振

った。

「あー………そういえばそうだったわねー。なんかもうすっかり忘れてたわー。てかそれ

はアタシも体験済みだし。仕事の時は、アンタのことなんていちいち構ってらんないから

ねー。はあーあ………」

 皆川千代とやりあって、疲労したのか、精神が弛緩したのかはわからないが、最初とは

打って変わって、だらけて、少し甘えるような感じで布施弘毅に話しかける。愚痴には変

わりないのだが、昼休み開始時と比べ。言葉の節々にあった角が取れてぐんにゃりとした

印象だ。

 だらけた雰囲気が場を支配している。彼らの通う、日向学園の昼休みは普通の学校のソ

レよりも長い。その分、始業時間が早いのが朝に弱い生徒にとっては辛いところなのだが、

昼休みはゆったりと過ごして午後の勉学に備えて欲しいという学園の方針がそうさせてい

る。

 私立の学園であるがための自由な校風と言える。それ故に、進学先としても人気が高い。

 この学園の生徒にとって昼休みは、たんなる勉学の合間の食事の摂取時間ではなく、ゆ

ったりと心を落ち着ける時間なのだ。校内に設置された食堂やカフェで食事をする者、ま

た、その食堂やカフェでアルバイトをする者、部室に集まり部活動をする者、図書館でゆ

っくりと読書を楽しむ者など、過ごし方は様々だ。

 三笠環と布施弘毅にとっては、三笠環の魔法少女行におけるストレス発散目的のための

メンタルヘルス調整としての愚痴聞きの時間という特異なものになっている。

 二人がいつも昼休みを過ごすのは、屋上に作られた空中庭園のカフェテラスだ。雲がゆ

っくりと流れ、心地良い風がそよいでくる。陽気も柔らかく、眠気を誘う。

 三笠環の愚痴もある程度収まり、だらけた雰囲気が支配する中、あっけらかんとした声

が秋の空に抜けるように響いた。

「そういえばー。しっつもーん。センパイたちについてハムに聞きたいことがあるんです

けどぉ、質問していいですかぁ?」

「ホウホウ何かねチヨ君。二人の事はもう隅から隅まで爪の間から毛穴の奥までなんでも

知ってるから、どうぞご質問なられよ。彼女と彼氏は似たもの同士、面白エピソードには

事欠かないよぉ?ほっほっほ〜♪」

「ちょっ!変なこと『言わないでよ!』『言うなよ!』」

 と、三笠環と布施弘毅が同時に言葉を発した。

 思わず顔を見合わせる二人。どちらも赤面している。その様子をニヤニヤしながらハム

は見つめ、

「そうさね、そういえば二人の出会いに関して、チヨには一度も話したことがなかったわ

なあ」

 そう言って、がらんどうの目を虚空に向けて、煙草をふかすフリをして続ける。

「〈タマキが魔法少女になったワケ〉、〈コーキが愚痴聞き訳になったワケ〉個々の物語

の幕がいかにして上がり、いつどこで同じ舞台に立つことに相成ったのか。魔法少女見習

いである君には知る権利がある。」

 そう言って、ハムはどっかとあぐらをかき、膝を叩いて続ける。

「さあて、これより始まりまするは、魔術の世界に迷い込んだ彼氏彼女の事情、カーテン

コールはもうすぐでござい。はやる気持ちを抑えつつ、まずは、彼氏の話をはじめましょ

うぞ!」

「何だよその口上………あと俺の話からなの?俺の話っつったら………」

「そう〈魔法少女ミカサ☆タマキ〉との初の遭遇と相成ったあの日のことさ!」

 ズビシッ!と振り向きざまに三笠環を指さすハム。

 ああ、あの失態ね………とうんざり顔の三笠環。

 ああ、あれはしんどかったなあと布施弘毅。

 そんな二人の心情など意にも解せず。聞かせて聞かせてー!とはしゃぐ皆川千代。

 今日の昼休みの後半は、二人の出会い話に費やされることになりそうだ。

「ああ、ってか勝手にアタシの名前に星マーク付けないでくれる?恥ずかしいったらあり

ゃしない………」


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