I love you.
初めまして。
もしくは、お久しぶりです。悠です。
今回のお話はあまりいい終わり方をしないので、ダメだと思ったら即バックしてください。
シリーズ物にする予定です。
「いや、離して!!」
掴まれた腕がイタイ。
「……。」
あたしの腕をつかんでいる男はこちらを振り返りもせずただあたしを引っ張って歩く。
「いやっ!!」
抵抗しても意味なんてないとすぐに思い知らされる。
ずるずると引っ張られてたどり着いた先に、あたしは放り投げられる。
「きゃぁっ!!」
腕が床にこすれて擦れる。
躰が地面に打ち付けられる。
(どうしてどうしてどうしてどうして。)
こんなことされる筋合いはない。
見慣れない金髪の人。
横暴な態度。
見知らぬ場所。
(ここはどこ?)
きょろきょろとあたりを見回しても石ばかり。
「言葉がわかるか?」
急に問いかけられてビクッとする。
「ここは、どこ……?」
「黙れ。聞かれたことだけに答えろ。」
ぴしゃりと言われる。
無表情の男の顔立ちは整っている。
整っているからこんなにも無表情であることが怖い。
「……わかります。」
「そうか。
お前はどうやってここに入った。」
「知らないです。そんなこと私が聞きたい。」
「……しらを切るつもりか?」
すっと細められた目が怖い。
でも、私は本当に知らない。
ガタッ
音がして、影が差し、相手が起ちあがったことを知る。
影が動くいた少しあと、吹き飛ばされ壁に打ち付けられたからだと痛みを持つ頬から殴られたことを知る。
(痛い。夢じゃ、ない……。)
呆然としていると、目の前にあの男が来た。
「答えろ。どこから来た。」
「知らないもん。」
ここはどこ?
あたしを元いた場所に帰してよ。
続くはずだった言葉は、男に首を絞められたことにより、発されることはなかった。
「質問を変えてやろう。お前の名前は。」
首から手を離し、問う男。
せき込むあたしなんて眼中にないよう。
「……羽衣華李桜。」
「偽名を使うな。」
頭をたたかれる。
「ほんとの名前だもん。」
「そんな珍妙な名前があるわけないだろう。答えろ。」
「ほんとだもの。お母さんがつけてくれた自慢の名前だもん。
名字可愛いねって妃菜ちゃんが言ってくれたから珍妙じゃない。」
「口答えをするな。」
また頭をたたかれる。
エンドレスでこれが続く。
「はぁ。」
男はため息をつくと、今度は何かを見せた。
「あ!」
それはあたしのカバンだった。
「返してっ!!」
「勝手に動くな。」
伸ばした手をたたかれる。
「これはなんだ。」
無表情に聞く男。
「……ケータイ。返して。お母さんに連絡するから。
誘拐犯にさらわれましたって。助けてって。」
「バカじゃないのか。こんな怪しいもの帰すわけないだろ。
で、どうやって使うんだ?」
「返してくれないと教えない。」
そのケータイは、母があたしの誕生日に買ってくれたものだ。
ようやく持つことができたあたしの初めてのケータイだ。
「ふざけるな!!」
怒鳴り声とともに、また、こぶしが飛んでくる。
痛かった。
頭が、腕が、心が、痛かった。
耐え切れず、気を失うほど―――――
❀*❀*❀*❀*❀*
「起きろ。」
バシャッと言う音と冷たい水の感触で、目が覚める。
どれほど時間が経っただろうか。
「さぁ、今日こそ話してもらうぞ。」
このやりとりを、どれだけ交わしただろうか。
あれから、一週間たっていた。
起きるたびに感じる冷たい水の感触。
繰り返される質問。
慣れない痛み。
「知らない。返して。」
もう、これ以外言う気になれなかった。
「いいから……「ヤルス。」」
いつものように殴ろうとした男を誰かが呼んだ。
男はヤルスという名前らしい。
初めて知った。
ぼーっと声をした方を向けば、なんかもう一人美形がいた。
「ノージェ。」
ノージェというらしい。
「隊長がお呼びだ。ここは変わるからとっとといけ。」
「……わかった。」
数秒考え、ヤルスという男は去って行った。
残ったのはにこにことほほ笑むノージェという男。
「……さて、君は確か羽衣華李桜といったね?年は……12か。」
調査資料らしきものを見て、何かを考え込む彼。
先ほどの男よりは話が通じるかもしれない。
「…可哀そうに。こんな小さい子供に。」
だから、つぶやかれた言葉は予想外だった。
思わず顔をあげてしまうほど。
美形は穏やかな笑顔を浮かべていた。
「今まで大変だったね。こんなにやってるなんて気づかなくてごめんね。」
よしよしとあたしの頭をなでる手が、嬉しくて。
少しだけ、涙が零れた。
「おいで。」
ひょいと抱き上げられる。
「僕はね、ルノージェント・ユリフィオル。」
よろしくね?
そう、唇だけで告げる彼を見て、初めてあたしはこの世界で穏やかな眠りについた。
❀*❀*❀*❀*❀*
「ルー。」
「なんだい?」
「あのね、ルー。」
「どうしたの?」
「ルーっ!!」
「んー?」
ルーと呼ぶことを許してくれた彼は、とても優しかった。
毎日お風呂に入れてくれて。
わからないことを教えてくれて。
ルーは、あたしをあの場所から出してくれた。
ルーのおかげで、あたしはこの世界のことを知った。
ここが、自分の世界でないこと。
この世界はどんなふうなのか。
還る方法がないと言われたときは悲しくて泣いたけど、ルーがずっとそばで励ましてくれた。
幸せな日々だった。
皆、あたしを認めてくれた。
ルーは、あたしより9つ年上で、貴族ではないけど、貴族と同じぐらい裕福な商人の次男だった。
王宮勤めの騎士らしく、騎士団の中でも幹部に入れる腕前らしい。
ルーの両親も優しくしてくれた。
あの、地獄の様な日々は、消え去ったと思っていた。
まだしこりは残るけど、ルーも、もう大丈夫だよと言ってくれたし、あの男は追放されたと聞いた。
けれど―――――それは、突然やってきた。
❀*❀*❀*❀*❀*
なんてことない日だった。
いつもどおりルーは王宮に行っていて、ルーのお父さんは商売の様子を見にどこかへ行っていて、ルーのお母さんはお友達のところに遊びに行っていた。
あたしは、いつも通りお部屋で本を読んでいた。
あの男は突然やってきた。
バンッ
ドアが乱暴に開く音とともに入ってきたのはあの美形。
ヤルスと呼ばれていた、あたしを尋問した男。
2年たっても覚えているあの顔は憤怒に染まっていた。
「お前ッ!!」
わけがわからなかった。
怒鳴りつけられた言葉をまとめると、あたしのせいでこの男は罰を受けることになったらしい。
怖かった。
守ってくれるルーは傍にいなかった。
戦えるほど傷は癒えていなかった。
足は動かず、腰は抜けてぺたんと座り込み、体は震えていた。
あたしの腕を、ここに来たばかりのように強くつかむ。
そして、口にさるぐつわをかまされ、袋にいれられる。
まわりは見えなかった。
(ルー、ルー。助けて……)
響かぬ声でルーを呼ぶ。
届くはずはないけれど。
呼ばずにはいられない。
どれほど時間がたっただろうか。
長かった気も短かった気もする。
どさりと落とされたあたし。
袋の口が開けられる。
広がる景色は全く見知らぬところ。
きっと、ルーは追いかけてきてくれない。
きっと、ルーはあたしを見つけてくれない。
ぞっとした。
「おい。」
腕をつかまれる。
気持ち悪かった。
ルーに触れて欲しかった。
大丈夫って言ってほしかった。
(ああ、そっか。あたしは……ルーが好きなんだ。)
唐突に理解したその気持ちはすとんとあたしの胸に落ちてきた。
一番に助けを求めるのはルーで。
触れて欲しいと願うのもルーで。
笑った顔を見るとすこしドキドキするのもルーで。
きっと、あたしは恋に落ちたんだ。
故郷から遠く離れたこの世界で。
はじめて恋をして。
はじめて好きと言ってほしいと思った。
でもきっとそれはかなわない。
ビリっという音とともに、男はあたしの服を破る。
なにかを呟き続ける男。
きっとあたしはこのままレイプされる。
あたしの故郷ではこんなの知っていて当たり前。
特に女の子は危ないから。
でも、知っているから平気なわけじゃない。
はじめてはルーがよかった。
ルーしか嫌だった。
なのに、こんな形であたしはこの男に奪われるんだ。
舌があたしの肌を這う。
プツンと何かがキレた。
はじめて恋を自覚したときには、あたしは『はじめて』を別の男に奪われそうになった。
はじめて恋を自覚したのに、あたしの『はじめて』は他の男に取られる。
「あは。」
「あははははははははは。」
「あははははははははははははははははははははははははははははははははは。」
けたけたと笑いが止まらない。
ぎょっとした顔の男があたしを蹴るのがわかった。
でも、笑いは止まらなかった。
「ふふ、ふふふ、あははははははははははは!!」
けたけたと笑い続ける。
ガンっ
そんな音がして、光が差し込む。
「李桜ッ!!」
ルーが飛び込んできたのがわかったけど、あたしはただ笑っていた。
もう、理性なんてほとんどなかった。
ただ、笑い続けていた。
(見ないで。)
そこから先を、あたしは知らない。




