1話
歩き始めてだいぶたった。
傾いていた太陽はそろそろ真上に上ろうとしていることから、3~4時間はたったのだろう。だが、町に着くにはもう少し掛りそうなので俺は自分のこと思い出していた。
俺の名前は、神楽 優唯
年齢 18歳
身長 177cm
黒髪、黒目の生粋の日本人だ。
最近高校を卒業し、4月に大学入学を控えておりその前の長期休みを満喫していた………はず。
自信がないのは、思い出せないのだ。
自分のことや、家族のこと、友達のことなどは思い出せるのだが、自分があそこで起きるまで最近自分がどのように過ごしていたのかスッパリ記憶から抜け落ちている。
不安には思うが、そのうち思い出すだろうと開き直ることにしたのだ。
人間諦めが大事だと思う、うん!
太陽は完全に真上に登りきっており、町の外壁もすぐそこだ。
小さく見えていたのは、かなりの距離があったからだろう。
ここで、はじめて俺は自分の体に違和感を感じた。
「おかしい…5時間くらい歩き続けていたのに全く疲れを感じない。」
そう、疲労を感じていないのだ。
そりゃ、ある程度は体も鍛えていた…だろう。だが、5時間歩いて疲れないほど体力バカではない。
「考えても分からん、パスだ。
つか、町がすぐそこなのは良いが言葉通じるのか?
自慢じゃないが、共通語の英語すらマトモにしゃべれないぞ」
だが、ここで引き返すわけにはいかない。
ここ以外どこに行けば良いかもわからないし、何より
「お~い、ボウズ!
一人で森の方から武器も持たずにどうした?」
門兵に見つかっている。
突っ込みたい部分もあったが、とりあえず言葉が通じることに安堵しながら兵士に歩きながら近づく。
「よう、モンカの街に何か用か?」
「何か用ってわけじゃないんだが…」
用もなにも、ここが何処かもわかっていない。モンカ?日本にそんな街あったか?
俺の言葉に兵士は怪訝そうな顔をし、少し警戒しはじめてしまった。
「お前何者だ?商人にも、冒険者にも見えないが」
「(冒険者?)分からん!!」
「はぁ?」
俺の正直な言葉に兵士はポカンとしている。
そんな兵士は無視して、俺は言葉を続ける。
「気づいたら、森の前に立っててな。
自分の名前なんかは覚えてるんだが、それまで自分が何をしながら生きていたのかとかは全く覚えてないんだ。」
「そうか、それは気の毒に」
兵士はどこか気まずそうな顔をしている。俺の話を完全に信じているようだ。
「こんな話し良く信じてくれたな。
自分で言うのもなんだが、すげぇ怪しくないか」
「長い間こんな仕事をしているとな、そいつが後ろめたいことしていないかとかそういうの分かってくるんだよ。
だがお前から最初からそういうものを感じなかった。」
こちらも十分怪しい話しだが、兵士は自分の目に自信を持っているようだ。
「じゃあ、お前身分を証明できるものとか持ってないのか?」
「持ってないな、どうすれば良い?何かないか?」
「手っ取り早いのが、冒険者ギルドに登録することだな。
カードがそのまま身分証明に使えるし、犯罪記録がない限り登録は簡単にできるからな。
戦闘技術があれば金も稼げるしな」
ニヤッと笑いながら教えてくれた。
「(ギルド?)わかった、登録してくるよ」
また分からないことが出てきたが、それを蒸し返して警戒されてもイヤなので流す。
「ただ、登録するためには金がいるし、身分がないものを通すためには通行料も貰わねばならん。通行料は身分が証明できれば返済できるが、規則である以上ないなら通せないぞ。」
俺は背負っている布袋をおろし、その中から例の小さな袋を出し口を開けながら中身を見せる。
「こんなものが袋に入っていたんだが、使えるか?」
「銀貨2枚と半銀貨5枚か、登録には銀貨1枚だし通行料は半銀貨5枚だから十分足りるぞ。
ただ、残りの銀貨1枚じゃ宿が2泊とれるだけで防具も武器も何も買えないぞ。」
思った以上に財布事情は厳しいようだ。
そんなことを思いながら、通行料である半銀貨5枚を袋から取り出し兵士に渡す。
「確かに受け取った。登録が済んだら返済するからな。
あと、短剣を持っているなら腰に差しとけ。丸腰だとなめられるからな、短剣でもあるのとないのとで大分違うからな。
さて、改めて…ようこそ、モンカの街へ!」
俺は、道を開けてくれた兵士の脇を通り抜けて門をくぐる。
目指すは、冒険者ギルド?だ!!
気合を入れる俺の後ろから、先ほどの兵士の声が聞こえてきた。
「俺の名前は、ギガだ。ギルドなら、大通りを真っ直ぐ行った所にあるからな。
たいていここにいるから、何かあったら遠慮なく相談に来いよ!」
「俺は、優唯だ!よろしくな!」
この地で会う初めての人が、ギガのような人物であったことに感謝しながら俺はモンカの街へ入っていった。